渋谷クロスロードビル
レポート
2011.05.13
カルチャー|CULTURE

渋谷クロスロードビル

フランスの老舗インディーズレーベルsaravah(サラヴァ)がオーナーを務めるテナントビル

地下1階のsaravah東京は着席で60人、
オールスタンディングで100人が
収容可能。音響設備はプロデューサー、
録音エンジニアとしても知られる
久保田麻琴さんに一任した。
創作南ヨーロッパ料理と100%
オーガニックのビオワインを提供。
学生やフリーター、ミュージシャンの卵
でも気楽に来られるようリーズナブルな
価格に設定した。
「40代、50代の大人が楽しめるライブ
ハウスを作りたかった」と潮田さん。
ターゲットを限定するのではなく異なる
世代が音楽を通して交流できる場所作り
を目指した。
場所は東急文化村の隣。
saravah東京の看板が目印。
ジャズ、シャンソン、ポップスまで
様々なジャンルのライブを開催。
また、音楽以外にも演劇、朗読、DJ、
映画や80年代アイドルに関するトーク
ライブなども行っている。

 東京・渋谷、東急本店文化村にある地上7階、地下1階の「渋谷クロスロードビル」。ここ2年ほどクローズしていたが、このたびリノベーションし、新たにテナントの募集を開始した。


同ビルの運営・テナント管理を行うのは、フランスで最も歴史のあるインディズレーベル「サラヴァレコード」の日本の運営会社である株式会社ラ・ミュゼ。地下1階には、ライブハウス併設のレストランバー「
SARAVAH(サラヴァ)東京」がオープン。運営はピエール・バルーが主宰するフランスの老舗インディレーベル「サラヴァレコード」。1012月にプレオープンし、21819日にはピエール・バルー氏を迎えてグランドオープニングパーティーを行った。

 

 「音楽を聴きたい人がきちんといい音で聴くことができて、かつ美味しい料理が食べられる場所を作りたかった」と話すのは、オーナーの潮田あつこバルーさん。

 「40代、50代の大人がライブハウスに足を運んだ際に共通して感じるのは、“きたない、料理がまずい、若者ばかりで居心地が悪い”。そうでなければ、BLUE NOTE TOKYO(ブルーノート東京)Billboard Live(ビルボードライブ)のように、チケット代と飲食代で15,000円もする高額なライブハウスになってしまう。音楽が好きな大人たちが、気軽に新しい音楽に出会える場所が日本にはないんです」(潮田さん)。


 構想は、約20年前のフランス滞在時から。インターネットなどまだなかった時代に、新聞や雑誌が並んだプレスカフェ、さまざまな言語や情報が飛び交う生き生きしたカフェを日本にも作りたかったそうだ。

 

 潮田さんが新宿生まれということもあり、当初は新宿で物件を探していたが、なかなかいい物件に出会えなかった。半ば諦めかけていた頃、渋谷で20年以上ボーダレスな文化発信を続けてきた「UPLINK(アップリンク)」の浅井隆氏との交流が深まったこと、さらに、フリーペーパー「Dictionary(ディクショナリー)」の発行やアートイベントなどを開催する桑原茂一氏(株式会社クラブキング)が渋谷にアートスクールを作ったこととが重なり、潮田さんが渋谷に目を向けるきっかけになった。アップリンク、Dictionary(ディクショナリー)、そしてここに「SARAVAH 東京」が加われば、「渋谷の文化発信は健在」と確信したという。

 

 「もともと渋谷は苦手でした」という潮田さんだが、同ビルを選んだ理由は、「場所としての面白さを感じたから」と話す。同ビルの所在地は、チェーン店や商業施設が軒を連ね、一日中喧噪の絶えない渋谷駅周辺と、閑静な文化的エリア・松濤が交差する位置。ビル名も「クロスロードビル」であり、目の前には交差点もある。年齢や国籍、ジャンルを問わずさまざまな文化が交差する店を目指すにあたり、最適な場所だと思ったという。

 

 同ビルは築30年近い古い建物で、以前は地下にはテナントの飲食店が3軒入っていた。前オーナーはビルを取り壊して土地を売るつもりだったため、2年間ほど廃墟状態。店内の調度品や調理器具、食器もそのまま残されていたという。そこから友人の建築家たちと二人三脚で改装し、美術大学の学生の協力を得てDJブースや可動ステージを作った。面積は160平米、収容人数はスタンディングで100名 

 

 ライブ内容はジャズ、ポップス、ボサノヴァなど幅広く、火曜日は「火曜シャンソンディナーショウ」と称して、毎週さまざまなシャンソン歌手が登場する。リーデイングやディベート、スタンダップコメディ、ダンス、演劇と幅広い企画は潮田さんと、シャンソン歌手であるソワレさん、元レコード会社に勤務の飯塚龍太郎さんの3名。ライブの他にDJイベントや、3月にはショートフィルム映画祭も開催された。

 

 ターゲットは特に定めていない。「20代はこんな音楽を聴くだろう、50代ならこんな音楽を喜ぶだろう」とカテゴライズすることで、新しい音楽、カルチャーとの出会いを閉ざしてしまうことが何よりも怖いのだという。「私たちが面白いと思ったものを紹介して、それをお客さんが喜んでくれたら嬉しいです。レコード会社のプロモーション用としてのステージではなくて、未知の才能を知ってもらえる場所にしたい」(潮田さん)。

 

 現在の客層は3040代の女性が多いが、若い世代にも気軽に足を運んでもらえるよう、ライブチャージは2,000円〜4,000が中心。

 「大人になること」を悲観する若者に向けて「かっこいい大人」との交流の場を与えることも、目的の1つだという。「“大人ってかっこよくて、自分たちよりもずっと楽しそうだ”と、未来に希望を持ってもらえたら」と潮田さん。そんな人たちが音楽を聴きつつコミュニケーションもできるよう、ラウンジスペースを設置。南フランスやイタリア、スペイン、地中海料理をアレンジした創作料理、フランスのオーガニックワインなどを用意している。

 

 今後の目標を訪ねると、「10年後、15年後に大物アーティストが“私のルーツはSARAVAH 東京よ”なんて、そんな伝説が生まれる場所にしたい」と潮田さんは目を輝かせる。日本の優れた音楽文化を知ってもらうべく、海外の観光客向けに英語の公式サイトも立ち上げた。

 また同ビルの7階には、ラ・ミュゼのオフィスと、音楽のプロを目指す人たちをコンサルティングするNPO団体が入居。6階は現在入居者募集中だ。音楽だけでなく、アートやファッションなど他ジャンルを受け入れ、のちにコラボイベントなどを行いカルチャー同士の化学反応を楽しみたいという。

 

 かつて多くのカルチャーの基盤を作り上げた渋谷。再び文化発信基地として、新たな伝説を生み出すことに期待したい。

 

取材・文/皆川夕美(フリーライター)

渋谷クロスロードビル

〒150-0043
東京都渋谷区松濤1丁目29-1


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