ここ数年、モノやサービスを共有したり、分かち合う「シェア」という消費スタイルをビジネスに生かそうという動きが広がっている。シェアオフィスやシェアハウス、カーシェアリングに加え、会員同士が自分の持っているものを交換、貸借し合うSNSサイトが登場するなど、シェアビジネスは多様化している。
そんななか、東京の表参道エリアでは、電動アシスト付自転車を使ったシェアサイクルサービス「cogicogi(コギコギ)」がスタートしているのをご存知だろうか。
運営元は、2011年4月に設立されたコギコギ株式会社。このシェアサイクル事業は元々、電子デバイスを手掛けるベンチャー企業・デプト株式会社がスタート。その後、シェアサイクルのサービスの拡充を図るため、事業を1企業として独立したのが、コギコギ社というわけだ。
きっかけは、2009年夏頃に、充電池メーカーとデプト社の間で電動アシスト付自転車の開発およびシェアサイクルのプロジェクトがスタートしたこと。その後、さまざまな都合によりメーカーが撤退して自転車開発は断念されたが、ノウハウとして蓄積したシェアサイクル事業はデプト社により存続することにした。2010年4〜9月までの期間でモニタリングを行い、10月から本格的にサービスをリリースした。
「cogicogi」のサービスエリアは、表参道を中心にした半径3km圏内。流行の中心部から広げたいことから、表参道を起点にしたそうだ。自転車の貸借を行えるポートは、エリア内のカフェや美容室などの店舗やホテルに委託している。6月8日現在で、ポートは14カ所。具体的には、「青山ベルコモンズ」(北青山2丁目)、「スターバックスコーヒー神宮前6丁目店」、「渋谷グランベルホテル」(桜丘町)、「ヴィラフォンテーヌ六本木ANNEX」(六本木3丁目)などだ。
利用には会員登録が必要で、登録料735円。月会費525円。自転車の利用料/回は、はじめの30分間は無料で、以降1時間ごとに100円が課金される。利用できる自転車は、ヤマハ発動機の電動アシスト付自転車「PAS CITY-Cリチウム」。会員登録は「cogicogi」のホームページまたはポート店頭ででき、登録するとメンバーズカードがもらえる。ポートで登録する場合は、おサイフケータイも利用できるという。メンバーズカードは、FeliCaポケット機能が搭載されたICカードだ。
自転車を借りる際はポート各店のスタッフにメンバーズカードを提示してカギを受取り、返却時は返却したいポートに自転車を置いてスタッフにカギを返すシステム。利用料金は、登録したクレジットカードでの精算になる。営業時間は10〜20時。各ポートには2〜10台の自転車が用意されており、コギコギ社のスタッフが巡回してメンテナンスなどをしている。自転車数100台、登録会員数は約400名。
コンセプトは、自転車を貸す行為を通じて、まちに溢れる店舗・企業・人のコミュニケーションインフラを構築することだ。
「有人ポートにすることで、自転車貸借の際にコミュニケーションが生まれます。ポートである各店のなかに入らないと貸借のやり取りができないので、例えばカフェのポートであれば「ついでにコーヒーを飲んでいこう」などと、個店の売上向上にも役立てると考えています。自転車のシェアによって、人と人、企業、商店などが少しずつでも繋がり、まちが活性化することを狙っています」(コギコギ株式会社/栗原さん)
ターゲットは、サービスエリア内の在住者と在勤者。在勤者のイメージは、ショップスタッフ、美容師、会社の営業職などだ。実際の利用者層は、男女比7:3、20〜40代が特に多い。営業に従事する方の外回りでの利用が目立つほか、「表参道に勤めているが近隣の飲食店に飽きたので、ランチを食べに遠出する」など利用方法はさまざまだ。また、今年に入ってからは、20代のカップルが店頭で登録し、即日利用するというケースも増えているそうだ。電動アシスト自転車を導入したのは、当初の開発計画の流れと共に、坂道の多さや電車を利用するにもわりと時間がかかるというエリアの特性を考えてのこと。だが、それによって幅広い層が使えるというメリットがあり、70代の会員もいるという。平均利用時間は約30分/回で、「青山ベルコモンズ」「スターバックスコーヒー神宮前6丁目店」など大きめのポートでの発着が多いそうだ。
3月11日の東日本大震災時には、無料で自転車を開放し、帰宅困難者の足になったという。情報発信はツイッターで行われ、30台ほどが利用されたそうだ。また、今後は、従量課金した料金の一部を社会貢献活動の団体に寄付したり、FeliCaポケット機能ICカードの特性を活かして店舗とのポイント共有をしたりなどを進めたいそうだ。
「例えば保育園が不足している問題など、身近なところに私たちが協力できればと考えています。他県からもオファーがありますが、まずは表参道でのサービス密度を濃くしたい。ポートを120カ所までに増やすのが目標です。また、cogicogiが全国展開するというよりも、表参道で向上させたシェアサイクルのノウハウを、他県にお伝えしていければと思います」(コギコギ株式会社/小石さん)
パリ市が提供する「velib(ヴェリブ)」、ミラノ市の「BikeMi(バイクミー)」など、欧米諸国では生活インフラとして定着しているシェアサイクル。2010年秋からは、ニューヨークでi-phoneを使ったシェアサイクルサービスSobi(Social Bicycle System)の試験利用がスタートした。日本国内でも、2010年9月から神奈川県藤沢市で、2011年4月からは神奈川県横浜市で、NTTドコモ社などがスマートフォンのアプリケーションを使ったシェアサイクルサービスの社会実験を進めているが、住・ビジネス・観光が成立し、人の出入りが多い街でのシェアサイクルの潜在需要は、まだまだありそうだ。3.11以降、都内でも自転車ユーザーが増加しているが、そうすると今後、さらなる自転車の浸透によって、人ごみを避けて自転車で回遊しやすい、駅から少し離れたエリアに新しい商圏が誕生することが予想される。
取材・文 緒方麻希子(フリーライター)