古民家ゲストハウス「toco.(トコ)」
レポート
2011.05.19
ライフスタイル|LIFESTYLE

古民家ゲストハウス「toco.(トコ)」

「旅の魅力を伝えたい」25歳の青年たちが運営する、シェア感覚で繋がる古民家ゲストハウス

木のぬくもりを活かしたDIY精神溢れる
館内。このレセプション兼リビングは
宿泊者以外でも利用が可能。近所の方や
スタッフの友人たちが集う憩いの場にも
なっている。
庭からの風景。二段ベッドが設置された
ドミトリーなど2,600円〜宿泊できる。
ダイニングキッチンでお茶を入れながら
談笑する宿泊客と女将の宮嶌さん。
日本家屋ならではの縁側の風景。庭には
なんと都内でも珍しくなった富士塚も!
日本文化を体験してもらうべく、
古民家の風情を残した館内は、外国人
旅行客に人気の一因。
古民家とはいえ、洗面台やシャワールーム、
お手洗いなどの水場はシンプル且つ清潔に
整えられている。窓や建具など随所に当時
の職人が手掛けた丁寧な仕事が残る。
左から、広報の石崎嵩人さん、
財務の桐村琢也さん、女将の宮嶌智子さん、
そして代表取締役の本間貴裕さん。
静かな下町に佇む「toco.」。
入口を入るとリビング兼レセプション、
奥が古民家の宿棟という構造。まるで
カフェのような外観だ。
地下鉄・入谷駅から徒歩2分、下町風情が漂う東京・台東区下谷に、古民家ゲストハウス「toco.(トコ)」がある。約90年前に建てられた古民家をリノベーションした「toco.」は、2010年10月のオープンからまだ日は浅いものの、連日国内外のバックパッカーが訪れ賑わいをみせている。

運営元は、株式会社バックパッカーズジャパン(2010年2月設立)。友人同士で立ち上げたという同社のメンバーは、代表取締役の本間貴裕さん、女将の宮 嶌智子さん、広報の石崎嵩人さん、財務の桐村琢也さんの4人で、なんと全員がまだ25歳(!)。走り出したばかりの同社の経緯には、こんな背景がある。

きっかけは、2006年、当時20歳だった代表の本間さんが大学を休学し、単独でオーストラリア1周旅行を経験したこと。バックパッカーとしての旅を通し て、国や文化、宗教、世代、性別を越えたさまざまな人に出会い、その価値観に触れた。そして、自分自身と対峙でき、何を選択するにも自分軸で決められる旅 の自由さや奥深さに魅了された本間さんは、大学4年になった2008年「旅の魅力を広く世の中に伝えたい」と、内定を蹴って起業を決意。起業にあたり、大 学の同級生だった宮嶌さんと石崎さん、オーストラリアでルームシェアをした桐村さんに声をかけたそうだ。本間さん以外はすでに会社に勤める社会人だった が、何度かのミーティングを経て、プロジェクトに賛同した全員が会社を退職。2009年4月から、現在のメンバーで本格的に始動したという。

ゲストハウスを開業することになったのは、本間さん達が思う「旅」を追求した結果、様々な人が行き交い、多様な過ごし方ができる旅の魅力を伝える手段に最 適と考えたから。会社設立にあたり、全員がフランチャイズのタイ焼き販売店の店長を請け負って資金を貯めたといういきさつも興味深いが、「toco.」立上げまでの過程もユニークだ。

まずは国内組と海外組とに分かれゲストハウスの調査ツアーを決行。国内組の本間さんと石崎さんは西まわりと東まわりを分担し、2010年3月から約1カ月 をかけて日本中のゲストハウスを巡り立地や客層の確認、オーナーへのヒアリングなどを行ったという。一方、4月からは宮嶌さんと桐村さん、桐村さんの友人 で写真家の清水翔太郎さんの3人が、同じくバックパックで世界一周の旅に出て、タイやインド、ブルガリア、ドイツなど世界21か国のゲストハウスを見てま わった。言葉も文化も異なる不安がある環境で、どのようなサービスがうれしいか、どのような宿が魅力的かといったバックパッカー目線の経験を、実際に「toco.」の宿作りやサービスに活かしたという。

「まだまだ模索中ですが、お客様が『ただいま』『いってきます』と言ってくださるような関係性をつくり、安心してステイしていただける宿を目指していま す。宿泊の場ではありますが、お客様の旅の拠点のような、根を下ろせる場であってほしい。そのためには、私たちスタッフとお客様の関係づくりが最も大切だ と思っています」(女将/宮嶌智子さん)。

東京への出店は、国内調査の結果で需要が多いと判断したから。その理由は、旅行客の多さに対してゲストハウスが少ないことと、東京のゲストハウスは外国人 向けに特化したものが大半のため、国内客への訴求を考えていた彼らには打ってつけだったからだという。物件の条件は、観光地から近く、成田空港からアクセ スしやすいこと、最寄駅から近くて広い物件であること、さらに、「つるつるしてるのは好きじゃない」(宮嶌さん)ということで、温もりや感触がある物件が 希望だったという。

「toco.」が 入居する物件は、以前眼鏡屋さんだった築40年の建物と、大正時代に建てられたという古民家。入口のガラス張りの引戸越しに見える虹色の階段に目をやりな がら、年月を重ねた温もりのある木造の建物に一歩足を踏み入れると、リビングとレセプション兼バーカウンターがあり、スタッフや客が談笑する姿が目に入 る。その様子はまるでカフェやバーのようだ。奥にすすみ、リビング奥の引戸をあけると、2階建の宿棟へ。緑あふれる庭を横目に縁側を通ると、ドミト リー(相部屋)や和室、パソコンコーナーがあり、さらに手作りのキッチン、ダイニング、シャワー、トイレなどの共有スペースとなっている。自炊が基本とな り、宿泊はドミトリー1泊2,600円〜。

「toco.」の 内装コンセプトは「90年の歴史の延長」。リノベーションは最小限にとどめ、なるべく元の家屋を活かした。解体した襖の木枠をテーブルにするなど什器も自 家製や再利用が中心だ。デザインや施工は業者やデザイナーに頼らず、本間さん達と大工さんらでアイデアを出し合い、実際の作業も可能な限り自分たちで手掛 けたという。さらに、物件探しから工事までの様子を『東京ゲストハウスプロジェクト』と題して随時ブログで公開。これには、全国にゲストハウスが増えてほしい、これから開業したいという人の役に立ちたいという思いがあったそうだ。

「メインターゲットは外国の方ですが、同世代の日本の方にもどんどん利用して頂いて、ゲストハウスの魅力を体験してほしいですね。リフレッシュのために宿 泊したり、就職活動の拠点にしたりと、安い宿だからこそできる楽しみ方も見つけてほしいと思っています」(女将/宮嶌さん)。

あの東日本大震災以後、来客層は外国人と日本人の割合が5:5となったが、以前は外国人が8割。一人旅のバックパッカーや20代前半のカップルが中心で、 特にオーストラリア人が多かったという。海外から訪れる外国人は数カ月前に予約をするため、日本人が予約を取りづらい状況にあったが、現在は、大阪や北海 道のほか、ちょっとした気分転換や非日常感を味わいたいという都内からの宿泊客も少なくないそうだ。来店のきっかけは、ホームページやツイッター、他のゲ ストハウスからの情報のほか、外国人にはゲストハウスの情報検索&口コミサイト「HOSTELWORLD.com(ホステルワールド)」を見ての客も多いという。まだオープン半年にも関わらず、同サイトにおける「toco.」の評価は、都内でもトップクラスということからもその人気が伺える。

様々な人が行き交う“場”を提供したいと考える「toco.」で は、宿泊以外の目的でも立ち寄ってもらえるよう、「寿司ナイト」「2011年カレーはじめ」「えんがわピクニック。」などのイベントも実施している。近所 のおじいさんがふらりと訪れ、バーカウンター併設のリビングで宿泊客の外国人と酒を飲み交わす光景が見られるのもそんな「toco.」ならではだろう。

「外国の方が当ゲストハウスを選ばれる理由に、古民家や木造という日本らしいところに泊まりたいというニーズがあるようです。また、『HOSTELWORLD.com』の レビューでは、雰囲気が楽しいという評価もいただいています。誰かの家に行くようなアットホームさがあるペンションよりも、当ゲストハウスはもっとフラッ ト。反対に、私たちの年齢では旅館やペンションのような振る舞いはできません。宿泊客に限らずリビングに集う方はさまざまであってほしいし、交流してほし い。こういう場に来ていただいて、話し、遊び、それを旅の思い出として一緒にお持ち帰りいただけたらうれしいです」(広報/石崎嵩人さん)。

「toco.」の 魅力は、古民家を再利用した「日本文化の継承」、ブログやツイッターなどデジタルデバイスを使いこなす時代感覚でもてなす「等身大のサービス」、年齢も国 籍も超えたグローバルな人々が行き交う「オープンな場」としての機能、そこで日夜繰り広げられる「リアルなコミュニケーション」と、あげればキリがない。 そして何よりそれらを形にした、まだ25歳の彼らの「体当たりの情熱と行動力」こそが、未知数の可能性を感じずにはいられないゲストハウス「toco.」の魅力といえるかもしれない。



[取材・文/緒方麻希子+『ACROSS』編集]

古民家ゲストハウス「toco.」

〒110-0004 東京都台東区下谷2-13-21


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