即興/SOKKYOU
レポート
2011.06.24
ファッション|FASHION

即興/SOKKYOU

原宿の古着店「Amen」の元オーナーが運営する、高円寺の古着&セレクトショップ

オーナーの点と線さん。人気音楽
イベントDENPA!!!のオーガナイザー
としても活躍。
〜系とカテゴライズできない自由な
商品構成が特徴。「できるだけテンプレートは使いたくない」(点と線さん)。
和ダンスや木製の窓枠をディスプレイに利用したノスタルジックな店内。
同店では、明治〜昭和初期の日本の作業着や継ぎはぎ衣類をヴィンテージとして提案している。
オリジナルブランドの「てぬぐい」は
プリントTシャツやリメイクアイテムを
中心に展開。
売れ筋はスウェットやジャージ。「原宿に比べて自然体で自分に似合うものを分かっている人が多いです」(点と線さん)
以前は民家だったという築40年程の
木造アパート。「自然と人工物の対比」
をテーマに改築した。
  東京・杉並区のJR高円寺駅南口からガード沿いを阿佐ヶ谷方面へと歩くこと約3分。民家やアパートが並ぶ一角に、古着店「即興/SOKKYOU」が2011年4月24日にオープンした。同店は、弊誌で以前取上げた原宿の古着店「Amen(アーメン)」の元オーナーであり、音楽イベント「DENPA!!!(デンパ)」を主宰する、点と線さん(26歳)がオーナー兼バイヤーを務めている。

  原宿・明治通り沿いの雑居ビル地下にあった「Amen」は、2009年5月にオープン。方向転換を図るために、翌年3月末に休業した。1年の準備期間を経て再スタートを図る場所に選んだのは、高円寺だった。

  「Amenをやってみて、原宿はファッションの街だと改めて感じました。服ではなくて、瞬間的にその都度おもしろいものが右から左へと受け流される。移り 変わるスピードが、僕には速すぎました。流行の提案もいいけれど、僕はその人のアイデンティティやライフスタイルに訴えるものを提案したい。高円寺ならそ れができると思いました」(オーナー/点と線さん)。

  4年ほど前から高円寺に住んでいることや、「Amen」立上げ以前に高円寺の古着店での販売経験があったことなど、馴染み深かったことも決め手だったそうだ。
 
  高円寺の南口周辺には「Spank!(スパンク)」や「」、「黒BENZ(黒ベンツ)」、北口側には「キタコレビル」など、人気の古着店があるが、同店は古着店が密集している場所からはあえて少しはずれた、北口と南口を行き来する際の中間地点を選んだ。

  「孤高の存在でいたかったし、良くも悪くも原宿でのショップ運営を経験したからこその、高円寺の古着屋にはない取り組みをしていくには、中間地点であることが望ましかったんです」(点と線さん)。

  コンセプトはあえて設けていない。というのも、ノイズ音楽などの演奏形式である「即興(インプロビゼーション)」から店名をつけており、「アメカジ」「ビ ンテージ」などの枠組みには捉われず、人と服との出合いから即興的にスタイルが発生する場所でありたいと考えているためだ。それを実現するには、コンセプ トは必要なかったという。

  「原宿や渋谷はコンセプト型ショップが乱立していますが、コンセプトを分けていてもブランドはバッティングし、MDも似かよっています。コンセプトって何 だろうと考えた時に、大事なのはコンセプトではないと思ったんです。確かにテキスト上やビジュアルのかっこよさも大事ですが、僕は接客や空気感など根源的 に良い店を作りたいです」(点と線さん)

  商品は古着と新品が9:1。メンズとユニセックスで、主にアメリカで買い付けている。アメリカやヨーロッパの古着が高価値で取引される市場傾向が強いな か、同店は、これまであまり扱われることがなかった明治〜昭和初期の日本の作業着や継ぎはぎ衣類を“日本のヴィンテージアイテム”として提案している。新 品はドメスティックブランドの「Ka na ta(カナタ)」「bodysong.(ボディソング)」など。受注会でバイイングするのではなく、デザイナーとのやり取りから生まれた別注品や他店には 置かない商品を揃えている。また、オリジナルブランド「てぬぐい」は、T シャツや1点もののリメイクアイテムを展開している。価格帯は3,000〜3万円。

  店舗は築40年ほどのアパートの一室。「自然と人工物の対比」をイメージに、点と線さん自身が壁の色を塗ったり、無機質で冷たい質感の什器を集めたりした そうだ。白い壁面や打ちっ放しのコンクリートの床の広々とした空間に整然と商品が並べられており、清潔感あるモダンな印象を受ける。中心に部屋を仕切る十 字のカベがある変わった間取りで、全体で約33平米あるという。

  客層は10代後半〜20代後半が中心で、男女比は6:4。「Amen」からの常連客が半分を占め、口コミや点と線さんのブログで同店を知って来店する新規客も少なくない。

  「原宿を回遊する方は雑誌やメディアをお手本にして頑張っておしゃれをする感じがあります。一方、高円寺は、自分に似合うものを分かっていたり、自分の目 線を持っていたりする人が多い。生き方を見つけていて、ライフスタイルが服につながっている、自然体でかっこいい方が多いと思います」(点と線さん)。

  08年以降、H&MやTOPSHOP、forever21など海外のSPAブランドが相次いで日本上陸。低価格競争が激化し、国内の大手アパレル メーカーやドメスティックブランドも、その流れを追随するように、画一的なトレンドの商品の大量生産に注力したことで、同じようなファッションばかりが街 に溢れるようになった。そうなると、最も感度の高い若い世代であるアラウンド90年生まれ(=デジタルネイティブ世代)たちから、既製品にはないオリジナ リティ溢れるアイテムを求めて高円寺の若手オーナーのショップを訪れるようになっていったという訳だ。

  「3〜4年前におきた高円寺ブームは今では定着し、普通に選択肢のひとつになっていると感じます」と点と線さんは語る。定点観測でも2011年に入ってか ら、休日を利用して、地方から高円寺を詣でる若者たちが増加。その背景には、高円寺に若手オーナーのショップが増えたことや、ストリートスナップやブログ などを通して広く知られるようになったこと、さらにキタコレビルのNINCOMPOOP CAPACITY(ニンカンプープキャパシティ)、元CULT PARTY(カルトパーティー)のオーナーによるthe Virgin Mary(ザヴァージンメリー)など、高円寺発の人気店が渋谷・原宿エリアに2号店をオープンしてさらに認知度が高まったことなどがあるだろう。今後数年かけて、この流れが地方都市に波及していくだろう。

取材・文 緒方麻希子(フリーライター)


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