快晴堂(カイセイドウ)
レポート
2011.07.25
ファッション|FASHION

快晴堂(カイセイドウ)

卸売り主体のカジュアルウエアブランド「快晴堂」が、
週2回のアトリエストアをオープン

オーナー兼メインデザイナーの杉田直人さん。スタッフへのまかないも杉田さんがつくるという「快晴堂」のお父さん的な存在。
「快晴堂」入り口の引戸から醸し出される、下町情緒溢れる雰囲気がいい。
デイリーカジュアルとして着こなせる飽きのこない定番スタイルは、ユニセックスで幅広い年齢層の人が着ることのできるデザイン。シャツは1万1,000円〜。
この日のために準備した「ありがとう」がプリントされたコットンのバンダナは、来店したお客さんにプレゼントされていた。
パンツのアウトポケットは内側から力布(ちからぬの)を付けて強度を増させたり、裏地に水玉柄を施したりと随所に小技を効かせている。
店内では試着も可能。本日「快晴堂」に届いた果物をお客さんと一緒に食べながら和やかな雰囲気。
アトリエとして仕事場の雰囲気を消さないように、入り口すぐ横には、PCの置かれた作業場スペースがある。
チャーミングで暖かい人柄の杉田さんに会いに、平日からたくさんのお客さんが来店し、笑い声が耐えなかった。
「今日着ている紺色のアウターは去年の12月にアトリエストアで購入したもの。ちょっと古着っぽくてかわいいシルエットに、細かいところまで施されたデザインが好き」という19歳大学生。
 3月の定点観測で熱烈なファンに出会った(22歳男性/会社員)ことをきっかけに知った、カジュアルウエアブランド「快晴堂(カイセイドウ)(http://www.kaiseidou-honpo.com/top.html」のアトリエは、東京・渋谷の明治通りから氷川神社へと続く細い路地を入った一角にある。これまで卸売を主体にしてきた同ブランドだが、アトリエの一部を改装し、201141日より毎週土曜・日曜日を中心に営業する「快晴堂アトリエストア」をオープン。本格的に小売をスタートするということで、さっそく取材した。
 
 同ブランドのオーナー兼メインデザイナーを務めるのは、杉田直人さん(61歳)。杉田さんは学校卒業後、アルバイト生活を経て25歳の時にジーンズショップでの販売をスタートした。以降、生産管理や企画などの経験を積むうちに、アパレル業界で生きていくことを決心し、ジーンズショップ退職後に複数の企業を経て、ものづくりを追求するために独立。2001年に「快晴堂」をスタートした。
 
 「私は自分のことを“洋服屋”だと思っていません。私が思う洋服屋とは、子どもの頃からファッションが好きで、その道の学校や仕事を選び、自身を洋服屋に仕立ててきた人のことですから。快晴堂はものづくりの会社。商品は、私たちが考えることやさまざまな関係性を表現する部品です。できれば多くの方と関係性を共有したいですし、この部品を着ていただくことで、その方の楽しい1日のお手伝いができたらうれしいです」(オーナー兼メインデザイナー/杉田直人さん)

 20105月より不定期でアトリエストアを営んできたが、今年の4月から定期的にショップ運営をすることになったのは、作業場機能を移せるアパートを近所に確保できたから。ショップという形態にこだわったのは、エンドユーザーとの関係性を深め、都内セレクトショップへの卸売がまだ万全で無いため東京にいる人にも商品を届けたい、という思いがあったからだという。営業日を週末中心にしたのは、平日はものづくりに専念するためだ。
 
 以前は恵比寿にアトリエを構えていたが、2008年に現在の場所に移転。元々は建築資材の倉庫だったという物件に決めた理由は、古い建物の良さと、将来的にアトリエとショップを併設しても運営できる可能性を感じたからだ。近隣には新聞販売店や八百屋などが並び、毎日スタッフには杉田さん自らがまかないをつくるというから、まるで“生活する空間=家”のようでもある。
 
 天井から吊るされた棚などが倉庫当時の良さを残しつつ、入口の木戸が足りなくて赤い鉄の引戸をつくったり、壁を塗ったりと、必要な部分は自分たちで改装したそうだ。広さ18坪。アトリエの一部をショップへと改装する上では、入口すぐに作業机やMacのパソコンを置くなど、仕事場である雰囲気を消さないように注力したという。
 
 商品は、年齢・性別・クラスに関係なく着られるカジュアルなデイリーウエアで、「VINTEGE(ヴィンテージ)・CRAFT(クラフト)・COMFORT(コンフォート)」をコンセプトにしている。その理由は、「私の青春時代だった1960年代はカウンターカルチャー全盛で、その影響を受けています。ビートルズやローリングストーンズ、ジャズ…。アメリカの大衆雑誌「LIFE(ライフ)」にはパソコンではないアクリル塗料で描かれた広告が載っていて、そのデザインにも憧れました。そういう時代のなかで出会った、ファッションから派生していないジーンズは、私のものづくりの原点。ジーンズは男女も年齢も関係ない、俳優も大統領もみんなが着られる。快晴堂もそういったものづくりをしていきたいです」(杉田さん)
 
 パンツのアウトポケットは内側から力布(ちからぬの)を付けて強度を増させたり、ブラウスの袖をまくると裏地にも柄があったりなど、“裏技”をきかせてデザイン的にも頑丈さも備えているのが特徴だ。またレディースとメンズの商品比率は3:7。メンズ商品は女性にも着れる様なデザインとサイズ展開でユニセックスな商品と言える。生地や商品は全てがオリジナル。価格帯は、アウター16,000円〜、ワンピース13,000〜、シャツ、11,000円〜、Tシャツ5,300円〜。
 
 ターゲットは特に設けていないという。実際の購買層は30代〜40代が多く、男女比率は男性40%、女性60%と、大半が女性客だという。年齢性別不問で着られるデイリーウエアは、古着っぽい素材感や、着心地の良さと持ちの良さ、飽きのこないデザインのせいか、さまざまなファッションを楽しんできた人、洋服を何年も主体的に着てきた人に支持される傾向があるという。
 
 生地やテープはオリジナルにこだわり、一部の技術的に難しいもの以外は、すべて国産だ。
 
 「海外生産が進み、生地屋などがどんどん廃業しています。グローバル化を否定はしませんが、一度失ったものは復活しません。日本の産業を壊したくないので、利益を圧縮するなどの大変さがあっても国内生産をやり続けます」(杉田さん)
 
 また、顔の見える人と仕事をしていきたいため、協力工場との会話を欠かさず、定期的に宴会することも大切なことの1つであるという。「今後も、人のつながりが生まれる空間を大切にしたショップづくりをしたい」(杉田さん)。
 
 快晴堂の袖を通すたびに楽しくなるような小技の効いたデイリーウエアや、「また遊びにおいで!」と言ってくれるデザイナーの杉田さんに会いに、今日もアトリエには人が集う。そんなまた行きたくなる暖かい場所が「快晴堂」の魅力と言えるかもしれない。

[
取材・文/緒方麻希子+『ACROSS』編集]

 

 

 

快晴堂(カイセイドウ)

東京都渋谷区東2-20-18氷川町アパート1F


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