運営するのは、DJぷりぷりさん(26歳)、占い師のパウロ野中さん(30歳)。ぷりぷりさんは2010年に武蔵野美術大学映像学科を卒業。学生時代から都内の銭湯や六本木のスーパーデラックスなどで音楽イベントをオーガナイズしている。
野中さんは大学卒業後の2002年から京都で喫茶店「喫茶福井」を開業。借りていた住居の離れで営んでいたそうだ。喫茶店閉店後にインド人のもとでタロット占いとインド式算数の修行をし、2006年から占い師として活動をスタートした。2008年、ぷりぷりさんはDJとして、野中さんはバンドとして出演した音楽イベントで知り合う。もともと、自分のやりたいことができる場所として店を出したいと考えていたぷりぷりさんと、すでに上京していて占いができる場所が欲しいと考えていた野中さんの方向性が一致。2010年になってから2人での出店を決意した。
2階建ての物件を初めて見たときに、もともとタイル張りになっていた2階の空間から学習塾をイメージしたことから、野中さんの「タロット占い」(1,500円/15分)に加えて「インド式算数」を教えることにした。発想は広がり、塾に通う子供の親が寛げるようにと「食事」提供もスタート。1〜2階の壁面でアーティストが作品を展示できる「貸しギャラリー」のほか、近所の方とコミュニケーションを図りたいという思いから「八百屋」として鎌倉で仕入れた野菜を販売する。また、トークショーやワークショップ等のイベントも定期的に行っている。
塾のターゲットは地元の小学生。それ以外は、子供からお年寄りまでの女性で、20代〜30代後半の女性が占い目的で来店し、占いと食事を楽しむケースが多いという。また、カルチャー好きが、千葉や神奈川、さらには九州などの遠方から訪れたこともあるそうだ。ホームページやツイッター、チラシで告知を行っている。
「すごくたくさんの集客でなくても、コミュニケーションを取れる範囲の方が来てくれた方が楽しいです。アーティストとお客さん、ステージと観客席みたいに、隔てがないように関わりたいという思いがコンセプトにあります」(DJぷりぷりさん)
現在、定期的に行っているイベントで代表的なのが「カフェ部」。野中さんとコーヒーに興味を持つ参加者とが、湯温や豆の挽きなどを変化させながらコーヒーを入れ、本当においしい味を追求するワークショップである。また、毎週行われる「ぷりぷりTV」では、ぷりぷりさんが女性ゲストとトークする様子をUSTREAMで 中継。「笑っていいとも!」のテレフォンショッキングコーナーから発想を得て、ゲストがゲストを紹介するシステムになっており、毎回初対面のゲストとトー クを行う。過去には、写真家の梅佳代さんが登場したこともあるそうだ。その他にも、「自家製マヨネーズをみんなでつくろう」など多彩なイベントが行われて いる。
物件は、街に馴染んでいる住居のような雰囲気のものを探した。もともと印刷所だったという入居物件は、コンクリート床の駐車場だった1階には木床を敷いてカウンター、厨房を設けた。ちゃぶ台や棚などの什器は大半が野中さんの私物。玄関の天井からたくさんの造花をつるしているのは、ターゲットである女性が入りやすいようガーリーな雰囲気を出すためという。2階は畳を敷き、教室らしさを強調した。
出店場所としては当初から、エリアはセントラルイースト東京(以下、CET。日本橋、浅草橋、神田、秋葉原などの東京の東側の一部)に絞っていたそうだ。というのも、ぷりぷりさんは人形町出身、野中さんは本所吾妻橋に住んでいて馴染みがあったから。ぷりぷりさんが、年に一度開催されているCETイベントに参加して、東側の盛り上がりに貢献してきた背景もあったという。
「スカイツリーが出来て、地元が盛り上がっているのを感じます。店を出す際には、その流れにぜひ交わりたいと思いました。以前は殺風景だったのに、今はレストランやギャラリーができて賑わっています。まちに訪れる若い人が増えて驚いています」(DJぷりぷりさん)。
京都から上京した野中さんにCETの印象を尋ねると、「東京だけどキビキビしていない。ビルは無いけど、都心だから交通の便はいい。人が“江戸っ子”だとも思います。口に出す言葉は悪くても、心が通じたらやさしくて面倒を見てくれる。近所の方とも仲良くさせてもらっています」。
ジャンルに捉われない、多彩な店舗が出店し盛り上がりを見せるCETエリア。若者が出店場所に選ぶのには、利便性やまちの活気だけではなく、古くからの建物が空き物件になっていることや、まちの人の人情味も大きな理由になっているようだ。自由な発想から生まれる個性的な店舗が集まるCETは、まだまだ面白い変化を遂げていくと思われる。
取材・文 緒方麻希子(フリーライター)