(東北コットンプロジェクト 〜パート2・続編)
大型台風 が西日本に上陸、全国的に不安定な天候の中、東北コットンプロジェクトの交流会「荒浜ワタの花見会」が行われた。当日は、午前中に綿畑の草取り、午後に 花見を兼ねた懇親会、というスケジュール。仙台空港や駅からバスでの送迎も用意するということから大きなイベントだとは思っていたが、現地の賑わいは予想 以上だった。
場所は荒浜地区1.2haの綿畑。仙台駅から車で30分程の距離だが、津波被害が特に甚大だった地域だ。建物はほぼなく瓦礫置き場がところどころあるほか は、一面雑草で覆われている。復旧作業のトラックだけが走り、ほぼ物音のしない広大な土地の一画に、綿畑はあった。「綿花栽培圃場」の新しい看板が、再生を始めた土地の目印のように立っていた。
6月に種まきされた綿は、膝から腰のあたりの高さまで育ち、そろそろ花をつけ始めていた。畑の分は、整然と綿が並び、美しい光景が広がっていたが、残りはかき 分けないと綿がどれだかわからないほど、雑草で埋め尽くされている。
農家の方によると、元は水田だったため、ヒエなどの種子が残っておりそれが育っているのだとか。綿1本に対して100株くらい生えているのでは、というほどに育った雑草は、抜いても抜いても終わりが見えない。種まきの時は人が大勢集まったが、一度草取りに来るとあまりのキツさにだんだん人が減ってきた、と聞いていたが、確かに想像をはるかにしのぐ重労働となった。約100名ほどが2時間程かけてようやく終了。機械や農薬を使わない農業とはこういうことなのか、と実感した。
この日はプロジェクトに関わるさまざまな人たちの話を聞いた。コットンCSRサミットで綿の栽培を提案した大正紡績の取締役の近藤健一氏は、綿の種を植えてもらい、 収穫したものを買い取るつもりでいたが、予想以上に大きいウェーブになり、「マーケットインが先、プロダクトアウトが後に」なることに驚きながらも、綿の 生育ぶりからもこのプロジェクトの成功を確信していた。
無農薬で育つ綿畑は雑草も多く、虫もついているように見えたが、「虫は、無視すればいい」と明言。葉に虫がついても、種を守る部分のコットンには影響がなく、収穫も手で摘むなら枯れ葉剤も必要ないという。この地からオーガニックコットンができることは間違いないようである。
綿栽培の打診にまず手をあげた、仙台東部地域綿の花生産組合組合長赤坂芳則氏は、「将来どうするか、というときに綿の話を聞き、宿命的なものを感じた。ここを原野ではなく、農業そのものの再生の場にしたい」と、交流会で力強く語った。
生産農家の方に話を聞いても、稲作から綿花への転向に、前向きに切り替えていたのが印象的だった。宮城県では近年、米から別の作物への転作も多いという。特に最近大豆栽培が増えており、北海道に次いで全国第2位の大豆の生産地になっているのだそうだ。実は、綿は大豆と栽培方法が似ているそうで、畝の幅もほぼ 同じなので農機具も大豆用のものが使えるそうだ。
市内で観賞用に綿を育てている人もいるとのことで、見本用にと畑の隅綿の実をつけた木が植えてあった。綿と大豆の関係については、インドでプレオーガニック コットン栽培を推進する伊藤忠商事の担当の方からは、インドでは綿の木の間に大豆を植える畑がある、という話を聞いた。大豆を収穫した後、その茎や葉を残 し、枯れたものを綿の肥料にするそうだ。
稲作から綿栽培への転向、日本ではほぼ事例がない作物、というと冒険的な計画のようにも聞こえるが、こうして様々な声を聞くと、必然性さえ感じられる。もちろん、補助金もなく農薬を使わないなど、これまでの農業とは異なる部分も多いのだろうが、綿への移行に可能性は充分あるのではないだろうか。
午後からの花見会では、来賓として宮城県、仙台市、地元農協から来賓が挨拶に立った。村井宮城県知事のメッセージが代読されたが、このプロジェクトの大きな意義、アグリビジネスの可能性への期待など、感謝と歓迎が込められ、行政も一緒に作り上げていく意思が感じられた。
乾杯の音頭はクルック代表の音楽プロデューサー、小林武史氏。
「午前中に村井知事と話したが、このプロジェクトを完全に理解していた。関東でも九州でもなく、東北で一番先に始める〈東北コットンプロジェクト〉というのがいい。この産業を未来につなげよう」と訴えた。
この日はテレビ局4社はじめ、新聞や雑誌など取材も多数入り、メディアの関心の高さも予想以上だった。参加者には、お揃いのポロシャツを来た一群がいたが、新しく協賛に加わった日本航空の社員たちだった。そのJALへの取材の関係か、テレビの情報番組のクルーもいたが、アパレル関係や繊維業界のほか、新たに異業種の関わりも広がり、「大きなウェーブ」になりつつあることをを実感した。
イベントとしては大成功かに見えた。が、プロジェクトの当事者たちは冷静だ。「問題は山積み」「メディア、協賛各社とのバランスをどうとるか」など、これから先を見据えて、懇親会でも熱い議論が続いていた。これは一度限りの支援ではなく、産業を創成し、そして継続していくための支援活動であることを、あらた めて実感する。本プロジェクトに関しては、今後も継続的に取材をしていく予定だ。
[取材/文:神谷巻尾(フリーエディター)]
2011.09.11
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東北コットンプロジェクト 〜パート2
〜続編〜 草取り&懇親会体験記
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東北コットンプロジェクト(前編)
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