弊サイトで以前紹介した「BRASS(ブラス)」「The shoe of Life(ザ・シュー・オブ・ライフ)」 のように、靴の修理を専門にするショップが増えている。そんななか、今年6月23日にオープンした 「GMT FACTORY(ジー・エム・ティー・ファクトリー)」(http://www.gmtfactory.com/)は、靴だけでなく洋服も修理やリフォームをしてくれるショップ兼工房として誕生。場所は、同日にリニューアルオープンした代々木上原の駅ナカ商業施設「アコルデ」内(運営:小田急電鉄)である。
運営するのは、代々木上原(渋谷区西原)に本社を構える 株式会社ジー・エム・ティー(http://www.gmt-tokyo.com/。1994年に設立された同社は、靴の輸入・卸売事業を展開しており、「TRICKER’S(トリッカーズ)」や「SARTORE(サルトル)」「ISLAND SLIPPER(アイランドスリッパ)」などをメインに80以上のブランドを取り扱っている。また、玉川高島屋などの百貨店にインポートシューズの直営店「ALL COMFORT SYSTEM(オール・コンフォート・システム)」(http://www.acs-shoes.com/)、代々木上原駅前には靴と洋服のセレクトショップ「BURNISH(バーニッシュ)」(http://www.burnish354.com/)も展開。同社の直営1号店は1996年に渋谷パルコにオープンした「REAL SCOP(リアルスコープ)」(http://www.realscope.co.jp/)である。
新宿や渋谷のベッドタウンとして機能する代々木上原に根ざした事業展開をしているのは、商圏としての可能性だけではなく、同社社長の横瀬秀明さん(47歳)の出身地であることも大きな理由という。また、愛着のある地元・代々木上原の住民に貢献したいという思いから、会社設立以来、本社を会場にしたファミリーセールを年2回実施。同社の商品である靴をメインに、取引先が扱う洋服などを、最大90%オフで提供している。地域を絞り新聞の折り込み広告を入れるというこのファミリーセールは毎回行列ができるほど大盛況で、近隣の住民を中心に、幅広い世代が訪れる地元の恒例イベントになっているそうだ。
実は、このファミリーセールこそが、「GMT FACTORY」発案のきっかけになった。「BURNISH」が2008年にオープンして間もなく、ファミリーセールで購入した商品を愛用する地元客らから、「傷がついてしまった靴を修理したい」「ソールがすり減ってしまったので交換できないか」「サイズが合わなくなったのでリフォームしたい」などの声が寄せられるようになり、この“愛用のものを大事に長く使いたい”という声に応えるべく、修理店の構想をスタート。その頃ちょうど、駅ビル、アコルデ改装の動きもあったため、地元の駅ナカへの出店を決めたという。
「自分たちが売って広めたものを売って終わりではなく、その後のメンテナンスまでできるようにしたいという社長の思いから生まれた店です」と、店長の冨樫輝好さん。
そんな「GMT FACTORY」の魅力は、靴の他、バッグやベルトなどの革製品や傘等の小物類に加え、洋服も含めた幅広いファッションアイテムを修理・リフォーム可能なことにある。
「お客様のイメージをいっしょに創り出し、喜んでもらってこそ意味があると考えています。ファッションアイテム全てが直せて、ケアができるのはもちろん、さらに第一線でファッションに関わっている強みを活かし、今に合ったカスタマイズや着こなしの提案できる場所でありたい」(冨樫さん)。
また、工場でしか対応できないような特殊な例を除き、基本的には専門の職人が併設された工房で全ての作業を行っているため、ここ一か所で多様なオーダーに対応できるのも特徴だ。同社は靴の輸入・卸売が中心だが、長年靴を扱うなかで育んだ知識とルートを活かしてヨーロッパの工場と直接やりとりをし、自社企画商品の製造も手掛けるなど、ものづくり精神が根付いている。さらに、国内の靴工場や洋服の縫製工場と築いてきたパイプを活用し、社外からの靴職人と、代々木上原の縫製会社「アトリエar」の縫製職人が常駐しているため、幅広いニーズへの対応が可能というわけだ。また、同店には来店客の商品以外に、ジー・エム・ティー社の工房としての役割もあるという。
「お客様と直接話をして、実際に身に付ける方のサイズなどを見ながら、お客様のイメージを具現化する提案をしています。気軽に立ち寄れるけど、修理は完璧。そんな店を目指しています」(店長/冨樫輝好さん)。
主なサービスと価格帯は、ヒール先端ゴム交換(1,575円)、中敷き革交換(1,785円)、靴の色の染め変え(6,405円)、パンツの丈詰め・出し(1,050円〜)、ジャケットの身幅詰め・出し(3,990円)など幅広い。基本の修理等の他にも、飾りゴテによる靴底の飾り付けの他、様々なリメイク・リフォームにも対応してくれる。また、「WORY(ウォーリー)」「M.MOWBRAY(モゥブレィ)」など靴ケア用品を豊富にそろえているのも同店ならではだろう。
実際に持ち込まれる修理は、全体の約7割が靴という。洋服のリフォームでは客のこだわりがわかりやすく、「ノースリーブにしたい」「コートのウエストをシェイプしたい」「パンツの裾のダメージを残したまま、裾上げしたい」など、多様なオーダーがあるそうだ。過去には、なんと数十万円する新品のエルメスのバーキンが持ち込まれ「ファスナーの色を金色に変えたい」とオーダーを受け、新品のバッグを解体して交換したこともあるとか。また、新たに購入した方が安上がりと思われる靴を「思い入れがあるから」と、修理に出す人もいるという。
客層は20代〜70代までと幅広いが、特に30代が多く、女性が約8割を占めるという。駅ナカという立地に加え、オープンと同じ6月に行われた本社ファミリーセールで同店のチラシを配布したこともあり、代々木上原に住む地元客が中心。
「接客していると、既成品に満足していなかったり、好みがあったりと、理由はそれぞれですが、お客様の愛着を感じるものばかり。そもそもどれも好きだから買ったもの。好きだからたくさん使い、履けば履くほど、着れば着るほど体に馴染みますが、その一方で傷んでしまうのも事実です。だからと言って使い捨てるのではなく、愛着あるものを直して、ずっと使っていきたいという方の役に立っていきたいですね」(冨樫さん)
若者を中心に “ファスト”感覚でファッションが消費されていく一方で、一部には3月に起こった震災が後押しとなり、今あるモノや本当に必要なモノを大事に使いたいという、見直しの動きが高まっている。そんな時代を背景に、ファミリーセールという形で地域に還元し、さらに同店の出店により地域に循環する仕組みを作ったジー・エム・ティー社。ファッション感度の高い人たちが暮らすベットタウン・代々木上原という地域に根ざした活動で、住民のファッションライフをサポートし着実にファンを増やしているようだ。
[取材・文/緒方麻希子+『ACROSS』編集部]