東京・渋谷の公園通りから神南へと路地を入った、「ビームス」近くのビルに、音楽レーベル・残響レコードが運営する「残響ショップ/残響塾」がある。オープンは2011年5月3日。CDや雑貨、楽器などを扱うセレクトショップであり、セミナーなどを行うスペースでもある同店にコアな音楽ファンが集っているというので、早速取材した。
運営元の残響レコードは2004年設立の音楽レーベル。ロックやエレクトロニカなどのタイトルを中心に発信するほか、映画『彼岸島』の主題歌を手掛けた「9mm Parabellum Bullet(9ミリパラベラムバレット)」などのマネジメントも行っている。
店長は田畑猛さん(29歳)。田畑さんは大阪出身で、アルバイトやライター、イベント企画運営などをしながら、mixi(ミクシィ)上で音楽コミュニティをつくっていた。そのコミュニティ上で残響の社長・河野章宏さんと知り合い、大阪での残響主催ライブなどで交流を重ねるなかで、音楽業界への視点や意見を共感、評価されたことから今回、店長に抜擢された。
塾長は虎岩正樹さんが務める。虎岩さんは、ミュージシャンとして活動した後、イギリスの音大への留学を経て、アメリカの音楽学校「MI Hollywood GIT」(以下、MI)へ留学。卒業後は同校のギターインストラクターや学科長を務め、数多くの若手アーティストのキャリア育成に携わった。帰国後から2010年までは、MIの日本校である「MI Japan」の校長を務めた。
オープンのきっかけは、もともとショップ運営をしたいと考えていた河野さんと、ワークショップができる場を求めていた虎岩さんが2010年10月に出会ったことから。何かをしながらついでに音楽が“聞かれる”状況が一般的になり、音楽や趣味が細分化されているのに流通形態が一向に変化しないためにCDが売れない状況などがあるなか、「もっと音楽というカルチャーを活性化させたい、自立したミュージシャンを育てなければいけない」という思いで2人は意気投合した。
場所はライブハウスが多く、10代から大人まで幅広い層へのアプローチができる渋谷を選んだ。店内は約90平米。出店当初は段ボールを積んだまま営業していたが、日を重ねるごとに棚やテーブルなどを入れて変化させてきた。これは、客やスタッフの思いが詰まっている空間にしたいという狙いからで、はじめから完成させずに進行形で店舗づくりをしているという。
取扱うCDは、 残響レーベルに加え、その他の邦楽・洋楽も揃う。セレクトは田畑さんで、ジャンルにはとらわれず、残響レーベルファンもそうでない人も楽しめて、ネット上 のセレクトショップなどとも異なる楽曲・アーティストを選んでいる。アーティストに直接打診することもあり、取材時の9月に人気1位だった「TOROLL(トロール)」は、インディーズとしてのデビューもしていないバンドの自主制作CDだそうだ。CD以外の商品も音楽を基本軸にしており、Tシャツ、本、LEDで発光するフローシー・キャンドル、ギターのほか、「ナインボルト」のエフェクターも扱う。「ナインボルト」のエフェクターは、他の楽器屋などでは類を見ないかなりの種類を取り揃えているという。
同店の特徴がCDの試聴方法である。一般的に、ヘッドホン付き試聴機にあらかじめCDがセットされているのが主流だが、同店ではお客さん自身が試聴したいCDを店内のCDプレイヤーにセット。その曲がBGMとして店内に流れるシステムになっている。店内にいる他のお客さんやスタッフと音楽を共有しながら聴くことができ、会話が生まれるきっかけになっているという。
「ぼくらが若い頃、ウォークマンが登場する前は、同じような光景がありました。ですからこの方法は新しい取組みであり、音楽の聴き方の原点回帰とも言えます。ヘッドホンをつけて音楽を「1人で聴く」ことや「何かをしながら聞く」ことは、道端でもできるし、そういう行為にそろそろ飽きているのではないかと思います。日本にはBGMがどこでも流れ過ぎていて、それが逆に音楽が意識に残らないことに繋がっています」(虎岩さん)。