TOKYO PHOTO 2011(トーキョー・フォト)
レポート
2011.10.03
カルチャー|CULTURE

TOKYO PHOTO 2011(トーキョー・フォト)

写真の楽しみ方を拡張するアートイベント

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在日フランス大使館によるチャリティ写真展「日本とフランス、共に明日に向かって」。日本からは篠山紀信、田原圭一、川内倫子、長野陽一、フランスからはフィリップ・シャンセル、ジェレミ・ステラ、エリック・レヒシュタイナー、ジャン=リュック・ヴィルムートの計8名が参加した。
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内覧会で同イベントの意気込みを話す篠山紀信氏。
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稀少本も多数販売されていたブックストアコーナー。出展していたのは、Akio Nagasawa Publishing、Magnum Photos Tokyo、SUPER LABO、Libro Arte、SEIGENSHA、Zen Foto Books。
ギャルミックスなコスプレ感のあるポートレートでジェンダーの揺らぎを表現する須藤絢乃さん(Picture Photo Space)。実は、今秋渋谷パルコで開催される「シブカル祭」の100人の写真家の1人として出展するそう。
NYのDansiger Gallery(タジンガー・ギャラリー)からは、「11人の無名の写真家」と題した企画展も。すべて1作品10万円と設定し、東日本大震災のチャリティとして寄付するのだそう。写真はオーナーのジェイムス・タジンガー氏。
去る9月23〜25日の3日間、写真作品の国際アートイベント「Tokyo Photo 2011」が東京ミッドタウンで開催された。パリ、ニューヨークと並ぶ国際的な写真作品の見本市で、国内/アジアでは最大の開催規模だ。今回が第3回目の開催となる。

ギャラリー関係者やコレクターの取引の場としてだけでなく、一般のオーディエンスにも公開され、写真作品の魅力を広く伝えるためのアートイベントとして、年々存在感を高めてきた。もちろん一般の観客でも、展示された作品は基本的に購入することができる。

今年のフェアには国内外から23のギャラリー、出版社が参加。「BLD GALLERY(ビーエルディー・ギャラリー)」「Taka Ishii Gallery(タカイシイ・ギャラリー)」のような写真の専門色が強いギャラリーだけでなく、「WAKO WORKS OF ART(ワコー・ワークス・オブ・アート)」など現代美術ギャラリーもブースを出展。「SUPER LABO(スーパー・ラボ)」のようなインディペンデントな出版社、雑誌「pen(ペン)」「Numero TOKYO(ヌメロ・トーキョー)」など多彩な顔ぶれが揃っていた。海外ギャラリーからはサンフランシスコの「Ratio3M」が初出展し、世界でも最も注目される写真家の一人であるライアン・マッギンリーさんらの作品を展示・販売して注目を集めていた。

作品を販売するフェア部門のほかに、3月11日の東日本大震災を受け“チャリティ”がテーマとして掲げられたのも今回のトピックだ。日英・日仏による2つの特別企画展が開催され、その一つとして英国国立近代美術館テート・モダンのキュレーションによる、英国写真家クリス・ショウさんの作品展示「Chris Shaw:Before and After the Night Porter」が行われ、会期中にはキュレーションを担当した同館のサイモン・ベーカーさんによるトークも行われた。展示作品のうち6点は入札制でオークションされ、入札金額の全額が日本赤十字社を通じて寄付された。

もう1つは、フランス大使館によるチャリティ写真展「日本とフランス、ともに明日に向かって」の開催だ。篠山紀信さん、川内倫子さん、ジェレミー・ステラさんら日仏8名の写真家が参加し、それぞれ独自の視点から被災地で撮影を行った作品を出品。報道写真/映像とは異なる形で震災被害や被災地の人々が置かれた現実を伝えていた。篠山紀信さんの作品を除く7名の作品は販売され、収益の50%がアーティスト、50%が在日フランス大使館によって被災地復興支援活動に寄付された。

こうした写真を媒介とした社会貢献は、震災報道においてフォト・ジャーナリズムの力が改めて世間に広く認識された今、まさにタイムリーな企画だった。前出したアートフェアに出展した各ブースでも、30点をチャリティ作品として出品して収益の全額を寄付した「Zen Photo Gallery(ゼン・フォト・ギャラリー)」(東京都港区)をはじめ、それぞれの形でチャリティに取り組んでいたことも記しておきたい。

ここ数年で、写真表現の多様性はより一層進んできた感がある。これまで写真家はプリントされたアート作品として、あるいは雑誌、広告などの印刷媒体を大きな表現手段としてきたが、雑誌媒体の縮小やウェブメディアの存在感が増すなか、そのアウトプットの仕方も大きく変化してきている。「Flicker(フリッカー)」のようなウェブのクラウドサービス上での写真公開や、イベントでのライブ的に写真をプレゼンテーションする試みなど、写真家たちもまた様々な試みを行っている。

写真で何かを表現することへの入り口もまた、多様化している。ドキュメンタリーの映像から写真へと表現手段を変えたという原久路さん(MEM gallery)、コスプレ感のあるポートレートでジェンダーの揺らぎを表現する須藤絢乃さん(Picture Photo Space)など、ブースを巡った短い時間の中でも毛色の変わったところから現れた写真家たちに出会うことができた。

写真を表現手段として何かを表現して、世に訴えることは、様々なルートから可能になってきたのである。ファッション、アート、建築など、写真と周辺ジャンルの際から、これから面白い写真家たちがこれから生まれてくるのではないか、という予感を感じさせた。

世界で通用する写真家も多く輩出し、またハードとしてのカメラ生産では世界でもトップの日本。しかし、アートピースとして写真作品を購入するマーケットはまだまだ成長の途上にあるといえる。本展では来場者に場内マップとともに「Viewer’s Guide」が渡され、写真作品の購入や鑑賞に関するガイダンスを行なっていたが、これは非常によい試みだったといえる。

デジタル化がいかに進んでも、プリントで作品の美しさを鑑賞することが写真の基本的な楽しみ方の一つであることには変わりはない。銀塩プリントでもデジタルプリントであっても、美術館やギャラリーなどの展示空間で鑑賞したり、アートピースとしてコレクションしたり、プライベートな空間で楽しんだりすることは、写真の楽しみ方としてこれからも無くなることはないだろう。

その魅力を広く伝えていくうえで、このTOKYO PHOTOのような写真の見本市が果たす役割は少なくないはずだ。歴史もあるPARIS PHOTOなどには規模の面ではまだ及んでいないものの、これからの成長に期待していきたいし、それだけのポテンシャルは十分にあるはずだ。

[取材/文:本橋康治(ライター/「アクロス」コントリビューティング・エディター)]


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