表参道の複合ビルGYREとディオール表参道の間の路地を入った、通りの少し先。キャットストリートから1本奥の落ち着いたエリアに、国産オーガニックコスメブランド「AMRITARA(アムリターラ)」 http://www.amritara.com/ の直営店「AMRITARA HOUSE(アムリターラハウス)表参道店」が、今年6月、オープンした。
店舗は、広さ約13.5坪の1階の路面店。国産オーガニックコスメの直営店だけに、壁は漆喰、床は金沢産のタモ材、什器にはオーダーメイドの九州産自然乾燥杉を使用。また、店内をより心地よい空間にするため、免疫力や肌の新陳代謝を高めるという「FFC加工」を内装全体に施すこだわりようだ。化学物質フリーの落ち着いた雰囲気の店内には、「AMRITARA」の全商品だけでなく、同ブランドがプロデュースを手掛ける、アガベシロップを使ったオーガニックスイーツ「グレインプラス」や、おすすめのサプリメント、健康食品なども約20種揃えている。
「『AMRITARA』は2008年の設立後、ネットショップを中心に販売を行っていたので、ユーザーの方と直接触れ合える場として、以前から直営店のオープンを考えていました」(AMRITARA PR山田美代子さん)
もともとオーガニックコスメは、自然食料品店などで扱われる地味な存在で、ドイツやスイスのエコロジーブランドや海外アロマブランド、国内の小規模な自然派ブランドなど、当初は取り扱われているブランド数も少なかった。しかし、海外のエコ&オーガニックブームに後押しされ、2005年頃から日本でも注目を集めるようになると、海外ブランドが続々と上陸。弊サイトでも、オーガニックコスメを扱うイベント「エコリュクス」(記事はこちら)を2007年に紹介しているが、以降、その存在は広く知られるようになった。
頭打ちの化粧品マーケットの中で、唯一オーガニックコスメは成長傾向にあるとされ、百貨店や商業施設、専門店、ファッション系セレクトショップ、ECサイトなどでも、展開が急増しているのはご存知の通り。雑誌などで注目を集めることから「AMRITARA」にも、商業施設からの出店依頼もあったそうだが、独立店舗なりの苦労はあっても「自分たちが直接情報発信できる店が欲しい」という考えのもと、事務所から近い表参道エリアで物件を探してきた。
「ここでは、カウンセリングをはじめ、食事や化粧品に関する勉強会も開催したいと考えています。現在、知人のオーガニックレストランの協力を得て、毎週水曜に限定20食の『アムリターラ弁当』(1200円/要予約制)を販売していますが、ショップを通して、いいものを提供する方々を応援したいという思いもあります。商品開発はもちろん直営店の出店も全て、純粋に『いいものを広めたい』という“思い”を重視した結果生まれたものです」(山田さん)
2008年11月に「AMRITARA」を設立した、勝田小百合さん(株式会社AMRITARA代表)は、カイロプラクターで一児の母。モデルを経て、女優修行をしていた頃にパニック障害を患ったが、首の矯正によって症状が回復したことからカイロプラクティックを学び、2005年には中野区に「ナチュラルカイロプラクティック」をオープンしている。
ブランド設立のきっかけとなったのは、2006年にスタートした勝田さんのブログ「アンチエイジングの鬼」(ブログはこちら)。化粧品だけでなく食事やライフスタイルまで、カイロプラクターの立場から提案するナチュラルなアンチエイジング法が話題となり、美容・コスメブログのランキングでも常に上位に入る人気を獲得。2007年には書籍『アンチエイジングの鬼』(ワニブックス)を出版。現在までに『アンチエイジングの鬼レシピ』(ワニブックス)、『エイジレス魔女の作り方』(筑摩書房)、『アンチエイジングの鬼プレミアム』(ワニブックス)、共著『真実のナチュラルコスメ読本』(毎日コミュニケーションズ)を発売し、女性誌等で執筆も手掛けている。
多くの固定読者を持つ人気ブロガーとして化粧品のプロデュースを手掛けたこともあったが、並々ならないこだわりから「納得できる化粧品ブランドを自分で作りたい」と考え、株式会社AMRITARAを設立した。
「AMRITARA」のコンセプトは「口にいれるものも、肌につけるものも一緒がいい」というシンプルなもの。ブランド名は、古代インド神話に登場する不老不死の飲料「アムリタ」と、サンスクリット語で「響き渡る」「星」を意味する「ターラ」を組み合わせて名付けられた。「植物原料の80%以上にオーガニックを使用する」「合成界面活性剤は使用しない」「キャリーオーバー成分も全成分表示する」など、独自に「10の約束」を掲げ、植物原料には各国の認証を受けたオーガニック素材も使用している。生産は全て国内の化粧品工場に依頼しているという。
「『AMRITARA』が掲げる『10の約束』は、化粧品のオーガニック認証よりも厳しい側面があり、勝田自身が納得する製品作りを行うためには、認証取得のノウハウのある海外の工場よりも、国内の工場で生産することにメリットがある。あえて製品のオーガニック認証を取らないのは、そのためです」(山田さん)
ブランド設立当初は、スキンケアステップの基礎となる6アイテムからスタートし、現在は14アイテムが揃う。ジェルタイプのクレイ入り洗顔料「ソフトクレイジェルウォッシュ」(150g 4,200円)や、紫外線吸収剤はもちろん、酸化チタンや酸化亜鉛も使用しない日焼け止め「ベリーズビューティーサンスクリーン APF10 PA+」(40ml 5,460円)、美容成分として注目される「アスタキサンチン」の色をそのまま生かした新製品「ビーガントリートメントリップグロス」(10g 2,100円)など、他ブランドにはないユニークなアイテムが売れ筋になっている。
「AMRITARA」のメインユーザーは、勝田さんのブログ読者。肌だけでなく体の内側からのアンチエイジングを目指す勝田さんの考えに共感し、化粧品だけでなく食生活にも興味を持つ30代から40代の女性が多い。直営店の客層も「AMRITARA」のメインユーザーが主だが、周辺にナチュラル系のショップも多いこのエリアでは、ブランドを知らない人が気軽に店を訪れ、お菓子や食品などを購入することもあり、ブランド認知も広がっているという。
「現在、『AMRITARA』の製品は、ナチュラルコスメのセレクトショップでも扱っていただいていますが、合成の防腐剤を使用しないオーガニックコスメの場合、品質管理が難しく、冷蔵保存設備などを特別に設けていただく必要があることも。ちなみに直営店では、閉店後はすべての商品を冷蔵庫で保存しています。そんな理由もあって簡単に販路を広げることは難しいですが、今後は、植物が持つ天然の防腐効果を利用しながらも、幅広く展開できる商品を開発できればと考えています」(山田さん)
現在、東京でのオーガニックコスメブームは一巡した感があるものの、地方を含むマスマーケットでは、まだまだその存在感は薄いのが現状だ。「オーガニック」や「サステナブル」「エシカル」という概念は、そもそも海外発のもの。これまでのブームの中心にあったオーガニックコスメはヨーロッパの自然療法に根ざしたものであったが、「AMRITARA」のように“国産”であることのメリットを生かし、日本人の肌に合わせて開発されたブランドが増えることで、日本独自のオーガニックスタイルが広がっていくに違いない。
[取材・文/佐久間成美]