XYZ collective(エックスワイジーコレクティブ)
レポート
2011.11.24
カルチャー|CULTURE

XYZ collective(エックスワイジーコレクティブ)

アーティスト自身が主宰するギャラリー&アトリエスペース

以前は紙の倉庫だった物件。メインの展示スペースは天井高5mの広々とした空間。
10/8(土) 〜10/23(日) まで「FAMILY AFFAIR」を開催。ディレクターの松原壮志朗さんがキュレーションを務めた。
大地岳紀氏のレコードショップ「レコード&16mm」が出店。かつて渋谷にあった、クララオーディオアーツの野界氏も参加している。
「レコード&16mm」では、レコードや16mmフィルム、アートブックなどを販売。取材時はMISAKO&ROSENによる「おかずにならないエロ 愛おしい畑中葉子やチョチョリーナ」展を開催。
2階にはアーティストマネージメントオフィスのSNOWとXYZ collectiveのオフィスが入居している。
東日本大震災後の3月20日に立ち上げた【FAXINATION JAPAN】の作品集。国内外のアーティストがXYZのFAXに作品を送り、それらを後日販売して、売り上げを義援金にするというチャリティプロジェクト。
 駒沢大学駅から徒歩約15分、東京・世田谷区の弦巻通りから路地を入ってすぐの場所に、アーティスト自身がギャラリーとアトリエを運営するアーティスト・ラン・スペースXYZ collective(エックスワイジーコレクティブ)」(以下、XYZ)がある。アーティストのマネンジメントオフィスやレコードショップ、スタジオスペースなども同居する異色のスペースだ。

ディレクターを務めるのは、ビデオアーティストのCOBRAさん30歳)、アーティストの松原壮志朗さん31歳)、編集者の服部円さん30歳)。COBRAさんと松原さんはアーティストグループ「MIHOKANNO」のメンバーで、多摩美術大学時代の同級生。2人とも「
東京ワンダーサイト」の文化交流事業「二国間交流事業プログラム」の一環で2010年に海外に滞在しており、COBRAさんはメルボルン、松原さんはバルセロナでリサーチや製作活動を行った。服部さんは、武蔵野美術大学大学院を中退後、ファッション誌のエディターを経て、現在は猫×クリエイターをテーマにしたウェブマガジン「
ilove.cat」を主宰しており、COBRAさんとは高校生時代からの友人だという。

 

 同スペースの発案・立上げには、COBRAさんが前述のプログラムでメルボルンに3カ月間滞在した際の経験が大きく影響しているという。

 

 オーストラリアでは、2002年にMyer Report of the Contemporary Visual Arts and Craft Inquiryという委員会が視覚芸術に対する助成金の増額を勧告したことから、中期的に補助金が一定額保障されることになり、毎年1,700以上の芸術家や芸術組織に対して助成金が支給されている。そういった背景からアートシーンが活況で、COBRAさんはそこで、アーティスト自身が大きな倉庫を借りてギャラリーとアトリエの機能を持たせるアーティスト・ラン・スペース”の存在を知る。

 

 

 「メルボルンで展示のオープニングに行くと、どこでも100人ぐらいは集まっていますし、そこにいる人たちの大半が知り合い同士で繋がっているんです。日本ではアーティスト・ラン・スペースのような場所を見たことがなかったので、こういう方法があるのかと驚きました。日本では貸し画廊やコマーシャルギャラリー、政府機関の公共ギャラリーしかなくて、展示のハードルが上がっている状況があるので、自分たちで場所を開くことにいろいろな可能性を感じ、オープンを決めました」(COBRAさん)

 

 帰国して1カ月が経った20105月にオープンを決意し、準備を開始。当初は2011320日のオープン予定だったが、震災の影響もあり、78日のオープンとなった。

 シェアオフィスとしてスペースを貸し出しているのも特徴だ。アーティストマネジメントオフィスSNOW Contemporary(スノーコンテンポラリー)」(以下、SNOW)、レコードやアートブックなどを揃えるショップで大地岳紀さんがオーナーの「レコード&16mm」、COBRAさんらが所属するMIHOKANNOのメンバーである千葉正也さん万代洋輔さんが立ち上げたレーベル「BOOK SHOP YAMATO(ブックショップヤマト)

」が出店している。

 

 同スペースが目指すのは、アートやファッション、カルチャー、文学などのジャンルを越えて人が繋がれる場所。ディレクター自身が作家なので、例えばファッションに強い人とコラボレーションするなどの試みにも積極的に挑戦していくという。

 

 「目指すのは、海外のアーティストが『東京に来たら必ず立ち寄りたい!』って思うような場所。今は多くの人が、例えばアートが好きならアート系の人だけと繋がるというように、縦割りの状態が強いように感じます。でも発信する側の僕たちが、まず先に他ジャンルの人とかかわれば、ここに訪れる人も自然に混じっていけると思うんです。ここでは展示やパーティーはもちろん、1日のイベントでも何でもおもしろいことをしていきたいです」(COBRAさん)

 物件はオープンを決めた翌月に、知人から紹介されたもので、以前は紙の倉庫だったそうだ。徒歩では遠いが、渋谷から走る東急バスのバス停「向天神橋」から徒歩1分ほどと近く、広さも十分にあること、1軒目で出合った好物件というタイミングの良さも決め手だったという。貸出しにあたっては、物件のオーナーが某大学で文化事業に取組んでいたこともあり、「XYZのようなことをしたかった」と共感してくれたそうだ。面積は、全体120坪、展示スペース60坪、天井高5m

 

 腰をかがめないと入れない小さな入口から足を踏み入れると、広々とした展示スペースがあり、またそれ以外のスペースでは、1階が「XYZ」所属アーティストに開放しているアトリエと「YAMATO」、レコードショップ、2階がCOBRAさんや「SNOW」の事務所である。

 こけら落としは、GRAND OPENING PARTYACHIREVE」。吉増剛造(詩人)、花代(アーティスト)他が参加した。展示は「SNOW」や「XYZ」所属アーティストのほか、松原さんがキュレーターとして展示を企画する。海外アーティストの展示も積極的に展開させるという。日本には海外アーティストが気軽に作品を展示できる場所が少ないため、コンタクトを取ると「やらせてほしい」という声が予想以上に多いという。本格的に海外と繋がりを持つため、「XYZ」「SNOW」の共同企画で、入居する建物上階のマンションの1室を借り、アーティストの宿泊に備えている。

 告知は、HPtwitterfacebook、フライヤーなどで実施。客層は展示により異なるが、アートに携わる人や、周辺住民が多く、20代〜40代までの男女が訪れているという。

 この「XYZ」だけでなく、以前弊誌で取材したシェアオフィス「party ground(パーティーグラウンド)」や、イベントスペース「FORESTLIMIT(フォレストリミット)」などのように、2010年頃から、30代前半のクリエイターやアーティストや、フリーで活動する編集者やデザイナーなどのクリエイティブな職業に従事する人たちが、自分たちの活動の場であり、なおかつジャンルを超えて人が繋がることができる場をつくる動きが目立つ。この世代は、IT隆 盛以前のアナログ文化にも精通するギリギリの世代であり、就職氷河期世代でもある。再び厳しい経済状況の中に立ち、自分たちの手で始めるという機運やクリ エイティビティに満ちていると共に、自分たちで活動のフィールド広げていくために広い交流が不可欠なことを潜在的に認識しているようだ。

 今後こういった、クリエイター自らがスペースを運営するという動きは、まだまだ継続していくだろう。


取材・文 緒方麻希子(フリーライター)

XYZ collective(エックスワイジーコレクティブ)

〒154-0016
東京都世田谷区弦巻2-30-20 1F


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