ディレクターを務めるのは、ビデオアーティストのCOBRAさん(30歳)、アーティストの松原壮志朗さん(31歳)、編集者の服部円さん(30歳)。COBRAさんと松原さんはアーティストグループ「MIHOKANNO」のメンバーで、多摩美術大学時代の同級生。2人とも「東京ワンダーサイト」の文化交流事業「二国間交流事業プログラム」の一環で2010年に海外に滞在しており、COBRAさんはメルボルン、松原さんはバルセロナでリサーチや製作活動を行った。服部さんは、武蔵野美術大学大学院を中退後、ファッション誌のエディターを経て、現在は猫×クリエイターをテーマにしたウェブマガジン「ilove.cat」を主宰しており、COBRAさんとは高校生時代からの友人だという。
同スペースの発案・立上げには、COBRAさんが前述のプログラムでメルボルンに3カ月間滞在した際の経験が大きく影響しているという。
オーストラリアでは、2002年にMyer Report of the Contemporary Visual Arts and Craft Inquiryという委員会が視覚芸術に対する助成金の増額を勧告したことから、中期的に補助金が一定額保障されることになり、毎年1,700以上の芸術家や芸術組織に対して助成金が支給されている。そういった背景からアートシーンが活況で、COBRAさんはそこで、アーティスト自身が大きな倉庫を借りてギャラリーとアトリエの機能を持たせる“アーティスト・ラン・スペース”の存在を知る。
「メルボルンで展示のオープニングに行くと、どこでも100人ぐらいは集まっていますし、そこにいる人たちの大半が知り合い同士で繋がっているんです。日本ではアーティスト・ラン・スペースのような場所を見たことがなかったので、こういう方法があるのかと驚きました。日本では貸し画廊やコマーシャルギャラリー、政府機関の公共ギャラリーしかなくて、展示のハードルが上がっている状況があるので、自分たちで場所を開くことにいろいろな可能性を感じ、オープンを決めました」(COBRAさん)
帰国して1カ月が経った2010年5月にオープンを決意し、準備を開始。当初は2011年3月20日のオープン予定だったが、震災の影響もあり、7月8日のオープンとなった。
シェアオフィスとしてスペースを貸し出しているのも特徴だ。アーティストマネジメントオフィス「SNOW Contemporary(スノーコンテンポラリー)」(以下、SNOW)、レコードやアートブックなどを揃えるショップで大地岳紀さんがオーナーの「レコード&16mm」、COBRAさんらが所属するMIHOKANNOのメンバーである千葉正也さんと万代洋輔さんが立ち上げたレーベル「BOOK SHOP YAMATO(ブックショップヤマト)
」が出店している。
同スペースが目指すのは、アートやファッション、カルチャー、文学などのジャンルを越えて人が繋がれる場所。ディレクター自身が作家なので、例えばファッションに強い人とコラボレーションするなどの試みにも積極的に挑戦していくという。
「目指すのは、海外のアーティストが『東京に来たら必ず立ち寄りたい!』って思うような場所。今は多くの人が、例えばアートが好きならアート系の人だけと繋がるというように、縦割りの状態が強いように感じます。でも発信する側の僕たちが、まず先に他ジャンルの人とかかわれば、ここに訪れる人も自然に混じっていけると思うんです。ここでは展示やパーティーはもちろん、1日のイベントでも何でもおもしろいことをしていきたいです」(COBRAさん)