カルチュア・コンビニエンス・クラブが開発を進めてきた「代官山 T-SITE」が2011年12月5日にオープンした。これまでのTSUTAYAのイメージとは異なるスタイルの「代官山 蔦屋書店」を中心に、“新しいオトナ文化を提案する街”を代官山の地に作り出した。
閑静な住宅地である周辺の環境に配慮して大規模なオープン宣伝は行なっていないが、書店の営業時間が7:00から深夜26:00まで、しかもカフェも併設という利便性のよさもあり、話題を集めている。
代官山のランドマーク、ヒルサイドテラスに隣接する広大な土地。旧山手通りに面して3棟で構成される「蔦屋書店」が並び、その北側には散歩道で結ばれた低層の専門店群「代官山T-SITE GARDEN」が配置されている。
蔦屋書店は 本・音楽・映画を中心に、新刊書から貴重なヴィンテージブック、輸入書籍までを幅広く揃える“マルチ・パッケージ・ストア”だ。
1Fには3つの建物を貫くような形で中心となる導線上に「マガジンストリート」として雑誌を配置。その目抜き通りから6つの小さな専門書店に入っていくという構成。
「アート」「建築」「クルマ」「料理」「人文・文学」「旅行」の6ジャンルにフォーカスした商品構成が特徴で、代官山という立地やターゲットとする大人世代のニーズに応えるべく、ナンバーワンの品揃えを目指しているという。国内外で買い付けられた洋書やヴィンテージブックも新刊書と同一の売場で展開され、割安感のある価格に設定されている。
1号館の2Fは映像フロア。“ない映画がない”ことをテーマに、テーマ別に編集された旧作のアーカイブが充実している。未だDVD化されていないVTRも網羅している。さらに、未DVD化の名作映画をオンデマンドでDVD化するサービス「復刻シネマライブラリー」を導入。パッケージ商品としては採算が困難という理由からDVD化されてこなかった “幻の名作”をその場で受け取ることができる。
3号館2Fの音楽フロアは、ジャズ、クラシック、60's〜80'sのロック・ポップスという大人向けのジャンルを強化した商品構成が特徴。ジャンルごと に小さな部屋が用意され、ほどよい小部屋感で音楽を楽しむことができる。窓辺のカフェエリアではコーヒーを飲みながら窓の外の眺めとともにCDを試聴する ことも可能だ。
2Fの中心部分に位置するのがマガジンアーカイブ&ラウンジ「Anjin」。 『平凡パンチ』のような懐かしの雑誌から『VOGUE』など洋雑誌まで、セレクトされた3万冊を閲覧でき、1階書店の書籍をここで読みながらじっくり選ぶ ことも可能だ。座席数は120席で、ソファ、テーブル、カウンターがゆとりをもって配置されている。電源が使えるのもビジネスユーザーには嬉しいところ だ。
さらに筆記具を取り揃えた文具コーナーや、旅行書コーナーの側に設けられたトラベルカウンター「T-TRAVEL」、さらに総合案内デスクなど付帯サービスも充実している。
書籍、音楽、映像、さらに旅行など各ジャンルにコンシェルジュを常駐させている。 それぞれの分野に精通したプロフェッショナルたちは総勢34人。年齢層も20代から60代までと幅広く、このオープンに合わせて新たに専門家を公募したと いう。リアルな商業空間では以前にも増して目利きによるレコメンド力が重要視されるようになってきたが、この蔦屋書店は、専門家が集まることで「場」とし ての強さを獲得しているといえる。
蔦屋書店の北側に広がる「代官山T-SITE GARDEN」敷地内の建物は2階建てまでなので、都心とは思えないほど空が広い。それぞれが独立している専門店では、カフ・ェバー・ダイニング「IVY PLACE」が さっそく人気を集めている。ペットのグルーミングサロンとドッグガーデンを併設した「GREEN DOG代官山」、輸入雑貨&キッズサービスの「ボーネルンド」、カメラショップ&撮影スタジオ「北村写真機店」、電動アシスト自転車専門店 「Motovelo」、クリニック&エステ「松倉 HEBE DAIKANYAMA」という独自性の強いショップが並ぶ。
このテナント構成は、代官山の地域住民の生活ニーズへのリサーチに基づいているという。
「地域住民の方たちを対象に“代官山に何が必要か/欲しいか”ということをアンケート調査したのですが、1位がカフェ、2位が本屋、3位がレストランという結果でした。飲食店は既にこのエリアには沢山あるので意外だったのですが、こうした街の意見を忠実に実現させることが重要でした」
と、同社広報の元永純代さんは語る。
代官山の地域社会に必要とされる機能を持たせるとともに、代官山T-SITEのもう一つの柱となっているのが50代以上のプレミアエイジへの提案だ。
「1983年に開業した蔦屋書店は、レコードとビデオのレンタルと、本の販売を行なっていました。当時の顧客層だった若者たちが大人になって、彼らが今、 私たちのお店に来ていないのではないか。もう一度彼らに生活提案する場所を作ろう、ということで企画をスタートさせたんです」(元永さん)
生活時間をじっくり楽しめる人、という意味での“オトナ”への提案において重要だったのが、「T-SITE」全体のクリエイティブ・ディレクションである。池貝知子さん(ikg代表取締役/日本女子大非常勤講師)をクリエイティブ・ディレクターに起用し、設計はクライン ダイサム アーキテクツとアール・アイ・エー、サインやブランドロゴ、グラフィックを中心としたアートディレクションは原研哉さんなど、多彩なジャンルのクリエイターが参加している。
TSUTAYAはこれまでも都市型の大型店舗を通して、新しい形態の店舗像を提案してきた。2000年の「SHIBUYA TSUTAYA」では若者をターゲットとしたレンタル/販売のメガショップを、そして2008年オープンの「TSUTAYA TOKYO ROPPONNGI」ではクリエイター層に向けたデザイン、アート関連書籍を充実させ、カフェとの複合という新しいスタイルを実現してきた。
このプロジェクトの重要なポイントは、あくまで代官山という街の文化をベースとしながら、専門店レベルの高い提案力と、ユーザー視点でのサービス集積 をバランスよく両立させた点にある。実際に店を訪れてみると、クリエイティブやビジネスユーザーだけでなく、平日の昼間には40 〜50代の女性客や、ペット連れの夫婦など幅広い層の来店客を目にすることができる。渋谷や六本木のTSUTAYAとは違う趣のオトナたちが反応しているようだ。
蔦屋書店が目指す“新しいオトナ文化の提案”が、今後他のエリアに向けて更なる広がりを見せてくれれば面白い。その可能性も合わせて注目していきたい。
[取材/文:本橋康治(コントリビューティング・エディター)+「ACROSS」編集部]
代官山 蔦屋書店/代官山 T-SITE
代官山 蔦屋書店
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17-5
アクセス:東急東横線「代官山駅」より徒歩5分
電話:03-3770-2525
営業時間:1F:7:00〜26:00 2F:9:00〜26:00
代官山T-SITE GARDEN
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町16-15
営業時間:店舗ごとに異なる
定休日:なし
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町17-5
アクセス:東急東横線「代官山駅」より徒歩5分
電話:03-3770-2525
営業時間:1F:7:00〜26:00 2F:9:00〜26:00
代官山T-SITE GARDEN
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町16-15
営業時間:店舗ごとに異なる
定休日:なし