SOUND MUSEUM VISION(サウンドミュージアムビジョン)
レポート
2012.03.01
カルチャー|CULTURE

SOUND MUSEUM VISION(サウンドミュージアムビジョン)

渋谷・道玄坂に誕生した音楽・アートを発信する巨大スペース

フロアをつなぐ通路をギャラリースペースとして活用。ライブペインティングや展示を行う。
2番目に広いディープスペース。壁がほぼ全面スピーカーで埋め尽くされており、
計6つのバーカウンターを設置。メインフロアに設置された円形のサークルバーは、テーブルが中のライトで光り、空間の中に浮かび上がっているように見える。
白を基調にしたホワイトスペース&バーにはポールダンス用のステージを設置。
メインフロアのスピーカーは、プロフェッショナル・オーディオ屈指のメーカー「レイ・オーディオ」の特注品。
4つのフロアから構成されており、各フロアで異なるジャンルの音楽を楽しむことができる。
東京・渋谷の道玄坂に、ライブ&サウンドスペース「SOUND MUSEUM VISION(サウンドミュージアム ヴィジョン)」(以下、VISION)が2011年10月28日にオープンした。クラブ(イベントスペース)としては都内最大級の広さで、さまざまな音楽やアートを発信している。

運営元は、有限会社グローバル・ハーツ。同社は、代官山のクラブ(イベントスペース)「AIR(エアー)」をはじめ、渋谷のカフェラウンジ「MICRO COSMOS(ミクロコスモス)」、渋谷や代官山などでカフェ「FRAMES(フレームス)」などを運営している。

同社では、2001年9月に「AIR」を立ち上げて以来、常に別の場所で新しいスペースを展開する構想があり、「駅から近くアクセスが良い」「若者が集まる」「音が出せる」などの条件が揃った物件を、山手線内の駅の主要な街で長らく探していた。そして2011年、3.11の震災後に、道玄坂にある現在の物件に出合う。もともとは飲食店と駐車場だったという地下スペースは、約260坪の広さを有し、渋谷駅から徒歩5分という立地も理想的だったことから、出店を即決。また、震災で国内が沈んだムードにあるなかで、だからこそ明るくポジティブに、みんなが楽しめる場所が必要だと考えた事も、出店を決めた一因だったという。

店名に「ミュージアム(博物館)」と冠しているように、同店ではジャンルを特定せず、音楽を中心にファッションやアート、パフォーマンス、映像などを多角的に発信し、それをスタンダートにしていくという。店内は4つのフロアに分かれており、あるフロアではヒップホップ、また別の場所ではテクノというように、同時に異なるジャンルを楽しむことができる。また、DJ以外にも生演奏のライブ、ギャラリースペースでアーティストの作品展示なども行う。

「ディズニーランドのようにいろいろな人が集まり、人と人とが交わる場所を目指しています。渋谷には、若い方もご年配の方も外国人の方もいます。その方たちが一カ所に集まり交わることで、新しいスタンダードが次々と生まれるのではないかと考えています」(グローバルハーツ・広報/長島由香さん)

店内は4つのフロアと6つのバーカウンター、ギャラリースペースで構成されている。入口から入ってすぐにあるのが店内で最も広いメインフロアの「ガイア」と、円形カウンターの「サークルバー」。奥へと進むと、赤いカウンターの「レッドバー」と、白を基調にしたホワイトスペース&バー。メインフロアから一歩出ると、駐車場の跡を残したコンクリート打ちっぱなしの廊下が続く。

廊下を進むと、2番目に広い「ディープスペース」。黒を基調にしたフロア全体にスピーカーを配置しており、コアな音楽ファンに人気という。さらに奥へ進むと、Dの形をした「Dバー」と「Dラウンジ」。異なるフロアを移動して音楽などを楽しめるのは、野外フェスのステージを移動しているようなワクワク感がある。収容人数は、都内最大規模の約1,500人である。
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メインフロア「ガイア」は2〜300人収容可能。ステージではライブやダンスなどのパフォーマンスも行われる。
同社代表の村田大造氏が「震災以降、下を向きがちな世相の中で、みんなが楽しめるスペースを作ることが自分の使命」と考えたことも出店動機だったという。
以前は飲食店と駐車場だった物件。もともとの建築構造を活かした内装設計になっている。
ホットコーヒーを提供しているのも特徴。 「若い方の間では、はじめの1杯しかお酒を飲まない方も多いため、とても好評です」(長島さん)。
コンクリート打ちっぱなしの壁面は、まるで海外のクラブのような印象。
同社代表の村田大造さんは、80年代後半に西麻布のPICASO(ピカソ)の立ち上げに加わり、西麻布YELLOW(イエロー)、渋谷 CAVE(ケイブ)など数々のクラブをプロデュースしてきた人物。個人的にスピーカー収集をするほど音響へのこだわりの持ち主で、同店のスピーカーはプロフェッショナルオーディオとして屈指のメーカー「Rey Audio(レイオーディオ)」に依頼した特注品である。メインフロアにある大型スピーカー2台で、日本武道館内に音を届かせることができるという逸品 だ。

イベントの開催は週末や祝前日が基本。ハウス、テクノ、ヒップホップなど幅広く、今後はレンタルスペースとしても解放し、ライブペイ ンティングやダンス、楽器などのパフォーマンスなど、DJ以外のプログラムも増やしていく。ギャラリーでは、有名無名にかかわらずに個展を開催し、同店か ら新しいことを発信していくという。

幅広い層が来るスペースを目指しているため、特定のターゲットは設けていない。来客層は20代〜30 代が多く、なかでも20代前半が中心。男女比はイベントにより異なるが、男性が7割を占めることもあるという。また、同店が運営する他店よりも客層は若いため、若者のアンテナに届くように、イベント内容も工夫しているそうだ。

「ひと言で言うと、渋谷は“若い”という印象です。代官山のAIRは20代半ば〜上の年齢層の方が多いですが、渋谷は若者向けのアパレルショップなどが多いからか、若い方が多いと感じます」(長島さん)。

また長島さんは、今の20代の若者はクラブ離れしていて、夜遊びをする人が少ない、とも語る。

「USTREAM(ユー ストリーム)や音楽ダウンロード、YouTubeを始めとする動画配信サイトなど、ネット環境があれば、家でいくらでもコンテンツが楽しめる時代です。そ ういった環境のなかで、イベントに出かけてもらうモチベーションを提供するのは大きな課題。当店では入場料を安くしたり、一晩に様々なジャンルを楽しめる ようにするなどして、若い方でも来やすい環境を目指しています。今までクラブに来たことがなかった方には、生でイベントを体感して「こんなものがあったん だ」と知って頂きたいですし、普段から遊びを知っている方には、「こんなこともできるんだ」という可能性を示していきたいです」(長島さん)。

かつて90年代に「世界一のレコードタウン」と称された宇田川町。レコードを買い求める客がそのままクラブの顧客にもなっており、90年代〜00年代前半頃まで、渋谷区円山町のランブリングストリートを中心に、渋谷は都内有数のクラブ集積地でもあった。しかし05年以降、音楽のネット配信・ネット通販が拡大 するとともに、レコードショップや大型CDショップが相次いで閉店。DJブームの終焉に伴って、クラブは徐々に減少していった。かわって近年では、 WWW(ダブリュダブリュダブリュー)やSTARLUONGE(スターラウンジ)などのライブスペースや、DOMMUNE(ドミューン)やニコファーレ、 Public image2.5D(パブリックイメージ2.5D)などのような、ソーシャルメディアのライブストリーミングスタジオが相次いでオープンしており、イベン トスペースのあり方が急激に変容している。

音楽をとりまく環境の変化から、渋谷でいったん淘汰された大箱クラブの復活。同時に、現在の若者たちのライフスタイルに向き合い、新たな提案をする同店の誕生は、20代のカルチャー消費を啓蒙するきっかけにもなりそうだ。

取材・文:緒方麻希子+ACROSS編集部

SOUND MUSEUM VISION(サウンドミュージアムビジョン)

東京都渋谷区道玄坂2-10-7 新大宗ビルB1F
tel:03-5728-2824


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