Samurai Startup Island(サムライスタートアップアイランド)
レポート
2012.03.16
ライフスタイル|LIFESTYLE

Samurai Startup Island(サムライスタートアップアイランド)

海外進出を狙う起業間もないベンチャーが集まる
天王洲アイランドのコワーキングスペース

天王洲アイル駅から徒歩5分ほどの立地。
寺田倉庫(株)の本社ビルのワンフロアである。
インターンを募ってワークショップ形式で内装を作った。こちらはフローリング資材を再利用したテーブル。
和をイメージしたエントランス。TOYOTAやHONDAのように海外に進出する企業を輩出したいという思いが込められている。
同社の創設者兼CEOである榊原健太郎さんのモットー。サムライハウス時代から掲げている同社の企業理念でもある。
オフィスの中央にカウンターバーを設置。 社内外の交流イベントを定期的に開催している。
泊まり込みで働く起業家も少なくないため、飲み物や食品も販売コーナーを設置。
 弊サイトでもコワーキングスペース「cococi(ココチ)」やシェアオフィス「partyground(パーティーグラウンド)」など、数々のコワーキングスペース/シアオフィスを取りあげてきたが、スタートアップ(起業)に特化した大型コワーキングスペースも登場している。

2011年11月1日、天王洲アイル駅から徒歩5分ほどのビル内に、フロア面積555平方メートルの巨大なコワーキングスペース「Samurai Startup Island(サムライスタートアップアイランド、以下SSI)」がオープンした。その名のとおり、ベンチャー企業のなかでも立上げ間もなく、且つ海外進出を目指す企業に向けた専用の拠点である。

運営元は、2008年3月に設立された(株)サムライインキュベート(以下、SI社)。起業して間もない(シード又はアーリー段階の)ベンチャー企業に向けた経営やマーケティング、営業などの支援事業、ファンド事業などを手掛けている企業だ。社長を務める榊原健太郎さん(37歳)は、1997年に大学を卒業後、日本光電工業(株)に入社。その後、2000年に(株)アクシブドットコム(現・株VOYAGE GROUP)の立上げに参画するなどと共に、営業職に携わってきたが、起業している仲間を支援したいという思いから、独立を決意したという。

SI社設立後は、練馬区・小竹向原の一軒家を借りて、海外進出を目指すITベンチャー企業5社と寝食を共にしながら、起業支援をしていたそうだ。「サムライハウス」と名付けたその一軒家を設けたのは、「同じ場所で働くことでコスト削減ができる」「異なる事業をする企業がコミュニケーションを図ることで、相乗効果が期待できる」というメリットがあるから。また、ITの普及により、ノートパソコンさえあれば会社を構える必要が無いということも影響しているという。

「SSI」設立のきっかけは、さらに多くの企業を起業支援するためには、定員20名の「サムライハウス」よりも広いコワーキングスペースが必要だったからという。

日本の“ITスタートアップ”の象徴となり、100名は入居できるような場所を探した結果、当初は某小学校の廃校で運用を計画していたが、競売だったため民間企業では政治力が足らず、実現が難しく別の場所を考えていた際に、榊原さんのツイッターのつぶやきを、不動産事業などを手掛ける寺田倉庫株式会社の代表と縁のある方が見て、繋いでくれたという。

同社が「SSI」のビジョンに大きな可能性を見出し、「いっしょに天王洲を盛り上げよう」と意気投合したこともあり、もともとは海運倉庫だった同社管理物件への入居が決定。SI社にとっても、羽田空港から近く、アクセスも良く、周辺にカフェなどの飲食店や銭湯がある「天王洲アイル」という島の面白さが決め手になったそうだ。寺田倉庫は、家賃についても可能な限り協力しているという。

「海外進出を狙う起業家たちは3つの課題を抱えています。1つ目は、投資家や弁護士などのプロフェッショナルの協働機会の不足。2つ目は、海外人脈の不足。3つ目は、海外投資家とも折衝できるような英語力の不足。これらを解決するソリューションを提供できるのが、SSIの大きな特徴です」(サムライインキュベート広報・企画/両角将太さん)。

まず、「SSI」には税理士や会計士、WEBデザイナーが常駐している。入居者が専門家にいつでも相談できるのは、コワーキングスペースのなかでも珍しい。海外人脈に関しては、SI社が「Citizen  Space(シティズンスペース)」などのサンフランシスコのインキュベーター3社と提携しているため、そのネットワークをもとに海外人脈の構築支援が受けられる。また、英語力の向上に向けては、英語のクラスや英語イベントを実施しているそうだ。

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現在40社が入居中。サムライインキュベーションでは、10年間で150社を株式公開、株式譲渡などのEXIT(イグジット)を目指す。
かつて小竹向原に存在したスタートアップ専用シェアハウス「サムライハウス」を再現した一角。
スカイプや電話をするための個室。
日本発祥のプロダクトである紙コップを使ったランプシェード。
情報共有やコミュニケーションを促進するスタートアップ向けイベントを毎週開催。入居者以外の一般参加も可能だ。
海外の起業家や投資家との記念写真が飾られている。羽田空港に近い立地であるため、海外からの投資家を招いて折衝/打ち合わせがしやすい点もメリット。
和室のミーティングルームも設置。
利用者の名刺が置かれたスペース。コミュニケーションが生まれ、協業・創造など、新しいビジネスへと発展するケースも少なくない。
 起業家の聖地を目指していることもあり、金融やマネジメント、会社運営などに関するイベント・講座も盛んだ。サンフランシスコのインキュベーターと共同でイベントも予定しており、これらは、入居者に限らず一般からも参加可能。また、入居者同士、または専門家と交流できるランチ会が毎週実施されており、さらにフロア内の中央に設置されているバーカウンターでは、毎週金曜の夜は入居者が交替でバーテンを務めてカクテルなどを振る舞う。これも、入居者や外部の人と繋がるきっかけになるという。

契約は半年毎の更新で、専有席は90席。料金は、シードマネー(資本投資)を獲得しているスタートアップ企業は、フリー席1席25,000〜/月、専有席1席30,000/月。3カ月以内の起業及びサービスローンチを目指す学生起業家はフリー席1席15,000/月。24時間365日の利用が可能で、無線LANや電源、限定イベントの参加権、郵便受けや会議室の利用、メディアリリースのサポート、税理士などによるサポートなどのサービスが含まれている。また、新しいビジネスを検討している人に向けて、1日プラン(7〜21時までのフリー席2,000円/日)もある。

内装デザインは、ツリーハウス職人の四方谷(よもや)毅さんに一任。TOYOTAやSONYのような “日本発海外企業”をつくりたいという思いから、日本の起業家をイメージした和風の内装だ。入口とオフィスを仕切る竹のつい立て、フローリング材を用いたテーブル、紙コップを円形に組み上げたランプシェードなど、温かみのある素材が随所に使われている。

立上げ時は、サムライハウス出身の5社と新規5社が入居。取材時の2012年2月末には40社まで拡大している。大半がIT企業で、ITのなかでもソフト開発、スマートフォンの広告プラットフォーム、ショッピングサイト運営など多彩だ。各会社の規模は2〜3人程度が多く、最小で1人、最大で8人。全体の平均年齢は約26歳で、社長の9割が男性。なかには現役の早大生など、学生起業家も1組いるという。入居者からは、「いろいろな人とコミュニケーションを取りたい」「空港から近いので、海外投資家をここに呼んでミーティングができる」「ここを2つ目の拠点にすることで、行動範囲を広げられる」などが、入居を決めた理由だそうだ。

「ウェブサービス事業での起業は相変わらず増加していますが、その中でも特に増加しているのは20代〜30代前半の若い世代による起業です。SNSやインターンシップで起業に関する情報やノウハウを得て、目標を掲げ、自分もやろうと思う人が増えているのだと思います。学生でも技術さえあれば起業できるのも、この業界ならではの魅力でしょう」と語る両角さんも、2012年3月に卒業したばかりの23歳。学生の頃からSI社のインターンシップを勤め、卒業後同社に就職した。「僕の周りでも学生のあいだに起業した人が多いです」(両角さん)と語る。

2011年下半期あたりから、急速に都内で増加しているシェアオフィス/コワーキングスペース。SSIのような起業家向けの支援プログラムを備えたコワーキングスペースをはじめ、クリエイターに特化したco-ba(コーバ) や、低価格のLightning Spot Shibuya(ライティングスポット)なども登場。ターゲットの職種やニーズに合わせて、コンセプトや機能のバリエーションが広がっており、多様化が進んでいるようだ。

取材・文 緒方麻希子(フリーライター/エディター)

Samurai Startup Island(サムライスタートアップアイランド)

東京都品川区東品川2-2-28-2F


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