大震災以降、暮らしや住まいを見直す動きが着々と進んでいるが、なかでも最近大変な盛り上がりをみせているのが、シェアハウスである。お金のない若者どうしがとりあえず一緒に住む、というイメージだったシェアハウスが、人とのつながりや安心感、さらに快適さを求める新しい暮らし方として、急速に浸透している。スタイリッシュなインテリアや、住む人の嗜好を反映したさまざまなコンセプトなど、バリエーションも広がり始めた。
そんななか、入居者をシングルマザー限定にしたシェアハウス、「ペアレンティングホーム高津」がオープンした。シングルマザー専門というカテゴリーは、もちろん日本初である。
同所があるのは、川崎市高津区。渋谷から田園都市線で20分程度の郊外エリアである。開発を手がけた(株)ストーンズ・アフィットは、この土地で長く賃貸管理業を営んでいるが、2010年からシェアハウス事業をスタートし、この物件が4棟目になるという。時流を見込んでの開発かと思いきや、実は全く違うきっかけからの参入だった。
「テナントビルを持っているオーナーさんから、ワンフロア120平米の物件の入居者が決まらなくて困っている、他社からシェアハウスにしてはどうかと言われたがお宅でもできるか、と相談されたのです。そこで、同社としてシェアハウスを手がけた前例はなかったが、コンセプト賃貸やデザイン物件などには実績があったため、ぜひやらせてほしいということで始めました」(ストーンズ細山勝紀社長)
この「物件が広すぎる→家賃設定が高い→入居が決まらない」というのは郊外地域で増加しているケースで、現在同社が手がけるシェアハウスは、すべて同様のケースから作られたものだという。これらを北欧風インテリア、菜園やハンモック、アトリエなど、それぞれにコンセプトを持たせたシェアハウスとして、それまでとは違う客層を開拓したというわけである。
そして今回、コンセプトという意味ではかなりセグメントしたシングルマザー専用シェアハウスに至った背景には、シェアハウス自体の供給事情があるという。2008年に全国で7,000軒だったシェアハウスは、2012年に11,000軒。すでに乱立気味で、内装や趣味の部分をアピールするだけでは差別化できなくなってきており、これまで若年単身者をメインターゲットにしてきたが、新しいマーケットを作りたい、と考えたとき浮上したのが、子育て中の家族だったという。
「川崎市は、保育園待機児童数が全国1、2位を争う地域。女性社員を見ても、子育てと仕事のバランスに苦労している。シェアハウスで子育てを補完しあえば、母親の負担することができるのでは」(細山社長)という発想である。当初シングルマザーではなく両親と子ども世帯のシェアを想定していたが、広さや設備面で単身世帯の二倍の初期投資が必要で、家賃もそれなりに高くしないと採算が合わない。そんな折、保育園経営者、建築家、シェアハウスプロデューサーなどからなる有志のプロジェクト「ペアレンティングホーム」と出会ってすぐに意気投合。同プロジェクトとのコラボレートにより、初遭遇からたったの3ヶ月後という早さでのオープンとなった。両社ともwebサイト、というよりfacebookでの活動を先行して、そのつながりからビジネスに発展したようで、まさに今どきのビジネススタイルを実践している。
さて物件は、地元で医院を営むオーナーが15年前に建てたビルで、元々住むつもりだったが結局空き家になっていたという200平米のワンフロア。外装内装ともに存分に費用をかけた、豪奢な仕様である。30帖のLDKには大画面テレビに大型家具、広々としたベランダやジェットバス付きの風呂など、単独世帯では望むべくもないファシリティが揃う。1〜2階は病院がテナントに入り、すぐ裏には保育園と公園という、子育て環境としては申し分ない立地でもある。居室は5.1帖〜6.6帖とこじんまりしているが、平日の週2日チャイルドケアワーカーが派遣され、夕食作りや子どもの面倒をみるといったサービスも見ると、就学以前の子どもとお母さんのための暮らし、という想定と思われる。
気になる家賃は6万5,000円〜7万円、共益費は光熱費やチャイルドケア費用も含め2万5,000円と、環境や設備を考えれば良心的に思える。ただ穿った見方になるが、経済基盤が弱いとされるシングルマザーのみを賃借人にすることにリスクはないのだろうか、という疑問もわいた。しかし細山社長からは、
「ここは連帯保証人も頂いていませんし、敷金も1ヶ月分のみです。シェアハウスは、実は滞納率がとても低い。通常の賃貸よりも担当者との関係が密ですし、同居者と顔を合わせているので、払わなければうしろめたい、という心理的な効果が働くのでは」という意外な答え。シェアという暮らし方が、消費行動にも影響するのか、と正直驚いた。ただし入居者には、「助けてもらいたい」というのではなく、シェアハウスを一緒に作り上げていこうという前向きさを求めたい、とのこと。
与えられた場を借りるのではなく、自分たちで生活を築いていく、というのがこのシェアハウスのコンセプトなわけだ。そこを共有できるかどうか、入居者もまた資質や覚悟が問われる段階に来ているのかもしれない。
取材・文:宮川真紀(フリーエディター)
※2012年4月8日に第2回目の入居者説明会を開催するそうです。
問い合わせ先:(株)ストーンズ
TEL:044-844-0055
気になる家賃は6万5,000円〜7万円、共益費は光熱費やチャイルドケア費用も含め2万5,000円と、環境や設備を考えれば良心的に思える。ただ穿った見方になるが、経済基盤が弱いとされるシングルマザーのみを賃借人にすることにリスクはないのだろうか、という疑問もわいた。しかし細山社長からは、
「ここは連帯保証人も頂いていませんし、敷金も1ヶ月分のみです。シェアハウスは、実は滞納率がとても低い。通常の賃貸よりも担当者との関係が密ですし、同居者と顔を合わせているので、払わなければうしろめたい、という心理的な効果が働くのでは」という意外な答え。シェアという暮らし方が、消費行動にも影響するのか、と正直驚いた。ただし入居者には、「助けてもらいたい」というのではなく、シェアハウスを一緒に作り上げていこうという前向きさを求めたい、とのこと。
与えられた場を借りるのではなく、自分たちで生活を築いていく、というのがこのシェアハウスのコンセプトなわけだ。そこを共有できるかどうか、入居者もまた資質や覚悟が問われる段階に来ているのかもしれない。
取材・文:宮川真紀(フリーエディター)
※2012年4月8日に第2回目の入居者説明会を開催するそうです。
問い合わせ先:(株)ストーンズ
TEL:044-844-0055