東京・中目黒駅から徒歩約3分、目黒川を越え代官山方面へと続く通り沿いに、広さわずか2.5坪のセレクトショップ「Muguet(ミュゲ)」がある。人が2〜3人も入ればすれ違うのも慎重になる空間で凝縮された世界観を表現する同店は、同じく中目黒でファッション好きに支持されるセレクトショップ「Vase(ベイス)」の2店舗目として2011年11月19日にオープンした。
運営元は株式会社ベイス。オーナーを務めるのは、平井直樹さんだ。熊本県出身の平井さんは、大手セレクトショップに入社後、熊本や福岡の店舗での販売を経て、東京でも約7年間の店舗経験を積んだそうだ。その後、2007年2月に独立。かねてからの夢を実現し「Vase」を立ち上げた。
セレクトショップ在籍時は、池袋、渋谷、新宿といったターミナル駅での店舗経験があるという平井さん。それらの場所では来店客が流動的で、ゆっくり接客がしにくいと感じていたという。熊本時代のように客と距離が近い接客ができる場所と考えたのが中目黒と代官山。知人を介して紹介された中目黒の築60年ほどの古民家且つ店内面積8坪の物件にひと目惚れして「Vase」をスタートした。
「Vase」は、“クラシック&アバンギャルド”をテーマに国内外の約20〜30ブランドを扱っており、コアなファッション好きや業界人、美容師などからの支持も厚い。
「この広さなら凝縮した接客ができると思ったら、立ち上げから3年経った頃から客数が増えたこともあり、お客様との距離感が少し遠く感じるようになったんです。今度の『Muguet』はある意味、原点回帰。この広さならマンツーマンで接客ができますから」(平井さん)。
「Muguet」では、「Vase」で扱うブランドから1ブランドを平井さんがそのときの気分やタイミングでピックアップし、ブランドの世界観を紹介する他、ヴィンテージウェアを扱うなど自由な発想力で展開する。ふたつの店舗は歩いて1分ほどと極近いが、通りを歩く客層が全く異なるため、「Vase」のショーケース的な役割も担っている。「Muguet」で「Vase」を初めて知る客も多く、新たな顧客の開拓にも繋げたい思いもあるそうだ。
「オープンして5年が経った『Vase』は、完成形に近いかたちになりました。目が届く距離で、もっと違う形態のショップにチャレンジしたいと考えていたところに、この物件を見つけて即決。この狭い物件ならではの、おもしろいことができるのではと思ったんです」(オーナー/平井直樹さん)
ファサードや店内の壁、天井も真っ白に塗られているのは、真っ白で毒を持つ花であるMuguet(フランス語でスズラン)という店名から。アンティーク色が強い「Vase」の内装とあえて正反対の空間にと、白を基調に仕上げた。カウンター兼ディスプレイ棚に用いられている50〜60年代のデンマークで使われていた秘書机。天井から下がる個性的な照明は同じくデンマークの「ルイスポールセン」社のもので、照明分野のパイオニアとも言われるPaul Henningsen(ポール・ヘニングセン)がデザインしたものだ。