今年の1月にゼロ号をリリースし、以後月1回を目標にスタートした(はずだった)ダウンロード版アクロスの“the across”。さまざまな事情から遅れに遅れ、4月にようやく1号目をリリースし、このたびようやく2号目が完成しましたので、ここでも紹介したい。
テーマはブックストア。1970年から現代までの主な書店をプロットしたチャート年表も必見。ぜひダウンロードしてご覧ください。
※プリントアウトする際はA3の両面コピーでお願いします。真ん中を折っていただくと、リーフレットのようになります。厚手の紙がおすすめです。
また、表4では、次世代型セレクトショップ「ぴゃるこ」や、6月に実施した定点観測の考察もご覧になれますが、これは次回ご紹介します。
“本が売れない時代”の魅力的な書店像とは?!
デジタルデバイスや電子書籍の普及が急速に進むテン年代。90年代半ば以降、メディアは若者の活字離れ傾向に警鐘を鳴らし、雑誌や書店など既存出版ビジネスの危機的状況を伝えているが、一方で、街場には従来の書店イメージに収まりきれないような新しいスタイルの書店が登場してきている。これまでacrossで取り上げてきた書店を中心に、多様化するブックストアの動きをまとめることにした。
デジタルデバイスや電子書籍の普及が急速に進むテン年代。90年代半ば以降、メディアは若者の活字離れ傾向に警鐘を鳴らし、雑誌や書店など既存出版ビジネスの危機的状況を伝えているが、一方で、街場には従来の書店イメージに収まりきれないような新しいスタイルの書店が登場してきている。これまでacrossで取り上げてきた書店を中心に、多様化するブックストアの動きをまとめることにした。
大型書店の新しいスタイル
2012年3月にオープンした代官山蔦屋書店の登場は、地域にも書店ビジネスにも大きなインパクトをもたらした。40〜60代の“プレミア・エイジ”をコアターゲットに、料理、自動車、旅行、アート&デザイン、人文書を大きくフィーチャー。書籍にセル&レンタルのCD、DVDを揃えた「マルチ・パッケージ・ストア」という基本フォーマットは第1号店の江坂中央店(1986年)以来のものだが、大型書店内に専門書店をビルトイン。書店を核とした商業施設という新業態を作り出した。
7:00〜翌2:00という営業時間の長さは近隣のクリエーターの打ち合わせやサードプレイスに。カフェやレストランといった飲食機能は、近隣の住民はもとより、平日週末を問わず、広域から幅広い層を集めており、代官山のまちの活性化に一役かっている。
このCDやDVDなどのソフトや雑貨を書籍とともに扱う「遊べる書店」というスタイルは、1986年に名古屋でスタートしたヴィレッジ・ヴァンガードが最初である。その後、1998年の下北沢出店から全国展開に拍車がかかり、2011年現在で365店舗(うち直営343店舗)という規模にまで成長している。
また、2009年にオープンした大阪の「スタンダード・ブックストア」は、「ベストセラーは売ってません」のキャッチフレーズを掲げ、取次を通さず独自のセレクトで仕入れた書籍を、アパレルやファッション雑貨と同一の売場で編集した新しいタイプの書店として人気を集めている。併設したカフェでは展覧会やトークイベントを開催。その情報をツイッターやブログなどのウェブメディアで拡散するなど、独自のメディアとして機能している。
一方、大型書店の新しいフォーマットとして注目したいのが、台湾の誠品書店だ。2006年にオープンしたフラッグシップの信義店は、書籍フロアの中にPCなどの情報家電やデザイン雑貨などのテナントショップが配置されている。ファッションビルの衣料と書籍のバランスを逆転させたようなフロア構成で、グランドフロアにはデザイナーズブランドのファッションテナント、上層階には大型のラウンジレストランという集客力と発信力の強いテナントを置きつつ、中層階では、例えば料理本の売り場の中にキッチンスタジオがあり料理教室が行われるなど、ユニークなスタイルとなっており、日本からの視察者も後を絶たないようだ。
2012年3月にオープンした代官山蔦屋書店の登場は、地域にも書店ビジネスにも大きなインパクトをもたらした。40〜60代の“プレミア・エイジ”をコアターゲットに、料理、自動車、旅行、アート&デザイン、人文書を大きくフィーチャー。書籍にセル&レンタルのCD、DVDを揃えた「マルチ・パッケージ・ストア」という基本フォーマットは第1号店の江坂中央店(1986年)以来のものだが、大型書店内に専門書店をビルトイン。書店を核とした商業施設という新業態を作り出した。
7:00〜翌2:00という営業時間の長さは近隣のクリエーターの打ち合わせやサードプレイスに。カフェやレストランといった飲食機能は、近隣の住民はもとより、平日週末を問わず、広域から幅広い層を集めており、代官山のまちの活性化に一役かっている。
このCDやDVDなどのソフトや雑貨を書籍とともに扱う「遊べる書店」というスタイルは、1986年に名古屋でスタートしたヴィレッジ・ヴァンガードが最初である。その後、1998年の下北沢出店から全国展開に拍車がかかり、2011年現在で365店舗(うち直営343店舗)という規模にまで成長している。
また、2009年にオープンした大阪の「スタンダード・ブックストア」は、「ベストセラーは売ってません」のキャッチフレーズを掲げ、取次を通さず独自のセレクトで仕入れた書籍を、アパレルやファッション雑貨と同一の売場で編集した新しいタイプの書店として人気を集めている。併設したカフェでは展覧会やトークイベントを開催。その情報をツイッターやブログなどのウェブメディアで拡散するなど、独自のメディアとして機能している。
一方、大型書店の新しいフォーマットとして注目したいのが、台湾の誠品書店だ。2006年にオープンしたフラッグシップの信義店は、書籍フロアの中にPCなどの情報家電やデザイン雑貨などのテナントショップが配置されている。ファッションビルの衣料と書籍のバランスを逆転させたようなフロア構成で、グランドフロアにはデザイナーズブランドのファッションテナント、上層階には大型のラウンジレストランという集客力と発信力の強いテナントを置きつつ、中層階では、例えば料理本の売り場の中にキッチンスタジオがあり料理教室が行われるなど、ユニークなスタイルとなっており、日本からの視察者も後を絶たないようだ。
書店の2極化が進んだゼロ年代
全国展開する大書店がチェーンオペレーションを重視し、ベストセラーへの依存を高める傾向は90年代から顕著になったが、その大型化の始まりは1975年の三洋堂書店(名古屋)と言われている。都心部では大型のビル開発における集客装置として大型書店の出店が進む一方、郊外ではロードサイドで大型チェーン店が展開。阪急の駅前書店からスタートしたブックファースト、独自の棚分類と大型化で拡大迂路線を歩み丸善をも傘下に収めたジュンク堂などは、いずれも80年代に生まれている。
一方、大型化と画一化が進む大型書店から独立した書店員が作り出す、先鋭的な街の本屋は90年代中盤頃から現れ始めた。
セレクトの独自性と面白さで顧客を獲得しながら、この頃急速に普及したインターネットで情報を発信し、小さな書店でも広域の顧客を獲得できる環境が整ってきたのである。例えば京都の恵文社書店一乗寺店は写真集や画集、デザイン関連の優れた品揃えのネットショップが全国で評判を集め、全国からファンが集まるほどの人気書店となった。
東京でも、往来堂書店を擁する「谷根千エリア(谷中・根津・千駄木)」、ひぐらし文庫などが集まる「わめぞエリア(早稲田・目白・雑司ヶ谷)」など、 個性的な書店がコミュニティと結びついて、ブックフェスなどで地域を活性化するような動きも現れている。
表参道と青山通りの交差点に位置する山陽堂書店は家族経営の老舗書店だが、2009年にギャラリーを開設してリニューアル。出版社だけでなく、周辺のクリエイターと連携して展覧会やイベントを開催して地域での存在感を高めている。
また、出版をめぐるインフラが整うなか、新たに出版業に参入する企業も増え、同時に、全世界的にリトルプレスを上梓する個人も増加していることも大きいだろう。
メガ書店の役割が大型スーパーマーケットとするならば、差別化のポイントとなるのは立地とハード面であり、規模の競争という側面が強い。その対極にある街の小さなブックストアたちは、店主の目利きや専門性などの個性を核にしながら、コアな顧客形成をベースに勝負をしてきたわけだ。そのミクスチャーの手法は今後さらに多様化が進んでいくだろう。
全国展開する大書店がチェーンオペレーションを重視し、ベストセラーへの依存を高める傾向は90年代から顕著になったが、その大型化の始まりは1975年の三洋堂書店(名古屋)と言われている。都心部では大型のビル開発における集客装置として大型書店の出店が進む一方、郊外ではロードサイドで大型チェーン店が展開。阪急の駅前書店からスタートしたブックファースト、独自の棚分類と大型化で拡大迂路線を歩み丸善をも傘下に収めたジュンク堂などは、いずれも80年代に生まれている。
一方、大型化と画一化が進む大型書店から独立した書店員が作り出す、先鋭的な街の本屋は90年代中盤頃から現れ始めた。
セレクトの独自性と面白さで顧客を獲得しながら、この頃急速に普及したインターネットで情報を発信し、小さな書店でも広域の顧客を獲得できる環境が整ってきたのである。例えば京都の恵文社書店一乗寺店は写真集や画集、デザイン関連の優れた品揃えのネットショップが全国で評判を集め、全国からファンが集まるほどの人気書店となった。
東京でも、往来堂書店を擁する「谷根千エリア(谷中・根津・千駄木)」、ひぐらし文庫などが集まる「わめぞエリア(早稲田・目白・雑司ヶ谷)」など、 個性的な書店がコミュニティと結びついて、ブックフェスなどで地域を活性化するような動きも現れている。
表参道と青山通りの交差点に位置する山陽堂書店は家族経営の老舗書店だが、2009年にギャラリーを開設してリニューアル。出版社だけでなく、周辺のクリエイターと連携して展覧会やイベントを開催して地域での存在感を高めている。
また、出版をめぐるインフラが整うなか、新たに出版業に参入する企業も増え、同時に、全世界的にリトルプレスを上梓する個人も増加していることも大きいだろう。
メガ書店の役割が大型スーパーマーケットとするならば、差別化のポイントとなるのは立地とハード面であり、規模の競争という側面が強い。その対極にある街の小さなブックストアたちは、店主の目利きや専門性などの個性を核にしながら、コアな顧客形成をベースに勝負をしてきたわけだ。そのミクスチャーの手法は今後さらに多様化が進んでいくだろう。
外部ジャンルから交わることで生まれたニュー・ブックストア
大型化と個性化の二極化が進むなか、ここ数年、新たなスタイルのショップが生まれている。
本をコアな商材としながら、関連する雑貨やアパレルを同一の売場で展開する、セレクトショップ的なブックストアは冒頭で紹介したが、さらにファッションやアート、音楽、雑貨など周辺ジャンルの側から書店に接近するセレクト系ブックストアが増えているのがテン年代の大きな特徴といえるだろう。
2009年、BEAMSは、アートスペース「トーキョーカルチャートby BEAMS」の立ち上げとともにアートブックの販売やプロデュースなどを本格的に開始した。中古レコードショプのディスクユニオンは、ショップの一部で扱ってきた音楽関連書籍を中心とした新業態「BOOK UNION」を2011年に立ち上げた。
飲食ではカフェブームの頃からブックカフェ/ブックバーというジャンルが生まれていたが、2009年のブルックリンパーラーではより本の販売にウエイトを置いた店が登場。新たな段階にきているといえる。
こうしたショップでは本の世界の中だけではなく、他のリテールビジネスとの間をもコーディネートできる存在が必要とされる。そこで重要な役割を果たしているのが「ブックセレクター/ディレクター」たちだろう。
2002年に「COW BOOKS」をオープンした松浦弥太郎さん、「ユトレヒト」をオープンした江口宏志さんをはじめ、「BACH」の幅孝允さん、そして選書家集団「BOOK PICK ORCHESTRA」の内沼晋太郎さんなど、いずれも新刊書から古書、ファッションやアート、音楽などが交わる場を提案する彼らは、テン年代の空間プロデューサーともいえる。
2011年11末に下北沢にオープンした「七月書房」は、文化系女子が好きそうなブックストアだ。オーナーの宮重倫子さんは、「何かで独立しようと思ったら本屋になりました」と話す。大学生のころから本屋でアルバイトし、六本木のTSUTAYA、
SPBSなどを経て独立。ターゲットは“そこまで本が好きじゃない人”というから面白い。
「若者の活字離れとよく言われていますが、書店で働いていたときの実感としては、若い人もたくさんいるという印象でした。強いて言うなら、選び方が分からないんじゃないかと思ったので、敷居を低くして、古書も雑貨感覚で買えるようなお店にしました」(宮重さん)。
本が異業種においてひとつの商材として拡散していくのと同時に、ブックストアの機能もますます変容していくと思われる。
強固なシステムを持つ既存の出版ビジネスの中よりも、こうした外部ジャンルからこそ、革新的なブックストアが生まれてくるのかもしれない。(本橋、高野)
大型化と個性化の二極化が進むなか、ここ数年、新たなスタイルのショップが生まれている。
本をコアな商材としながら、関連する雑貨やアパレルを同一の売場で展開する、セレクトショップ的なブックストアは冒頭で紹介したが、さらにファッションやアート、音楽、雑貨など周辺ジャンルの側から書店に接近するセレクト系ブックストアが増えているのがテン年代の大きな特徴といえるだろう。
2009年、BEAMSは、アートスペース「トーキョーカルチャートby BEAMS」の立ち上げとともにアートブックの販売やプロデュースなどを本格的に開始した。中古レコードショプのディスクユニオンは、ショップの一部で扱ってきた音楽関連書籍を中心とした新業態「BOOK UNION」を2011年に立ち上げた。
飲食ではカフェブームの頃からブックカフェ/ブックバーというジャンルが生まれていたが、2009年のブルックリンパーラーではより本の販売にウエイトを置いた店が登場。新たな段階にきているといえる。
こうしたショップでは本の世界の中だけではなく、他のリテールビジネスとの間をもコーディネートできる存在が必要とされる。そこで重要な役割を果たしているのが「ブックセレクター/ディレクター」たちだろう。
2002年に「COW BOOKS」をオープンした松浦弥太郎さん、「ユトレヒト」をオープンした江口宏志さんをはじめ、「BACH」の幅孝允さん、そして選書家集団「BOOK PICK ORCHESTRA」の内沼晋太郎さんなど、いずれも新刊書から古書、ファッションやアート、音楽などが交わる場を提案する彼らは、テン年代の空間プロデューサーともいえる。
2011年11末に下北沢にオープンした「七月書房」は、文化系女子が好きそうなブックストアだ。オーナーの宮重倫子さんは、「何かで独立しようと思ったら本屋になりました」と話す。大学生のころから本屋でアルバイトし、六本木のTSUTAYA、
SPBSなどを経て独立。ターゲットは“そこまで本が好きじゃない人”というから面白い。
「若者の活字離れとよく言われていますが、書店で働いていたときの実感としては、若い人もたくさんいるという印象でした。強いて言うなら、選び方が分からないんじゃないかと思ったので、敷居を低くして、古書も雑貨感覚で買えるようなお店にしました」(宮重さん)。
本が異業種においてひとつの商材として拡散していくのと同時に、ブックストアの機能もますます変容していくと思われる。
強固なシステムを持つ既存の出版ビジネスの中よりも、こうした外部ジャンルからこそ、革新的なブックストアが生まれてくるのかもしれない。(本橋、高野)