東京・下北沢の一番街商店街のはずれにある、「July Books/七月書房(以下:七月書房)」は、女性店主 宮重倫子さん(32歳)が運営する古書店だ(11年11月オープン)。7月には、書店について考えるオールナイトイベント「朝まで本屋さん!」を開催したことでも話題になった。
コンセプトは、分かりやすくて入りやすい、綺麗な古書店。白い壁と木材の温かみを活かした店内は、本だけでなく雑貨や文房具、スヌーピーのフィギュアなどが並ぶ雑貨店のような空間。馴染みのない人にとっては入りにくいイメージもあるであろう従来の古書店の雰囲気は、まるでない。
同店の特徴は、「本がそこまで好きじゃない人」までターゲットに入れているということである。
「本には興味があるし好きだけど、どんな本を選んだらいいか分からない、何から読んだらいいか分からない、という人も多いんですね。そんな、読書に慣れていない若い世代のために、間口を広げることが必要だと思ったんです」と宮重さん。つまり、「読書好きの芽を育てる」古書店というわけだ。
宮重さんは、学生時代からトータルで10年以上にわたる複数書店での勤務経験を活かし、今回の開業に至った。そのキャリアのスタートは、18歳の頃に始めた「アイブックス成城店」でのアルバイトだという。本だけでなく雑貨やCDの販売、店内での映画上映など従来の本屋の業態にとらわれない自由な演出を行っていたことに感銘を受けた。その後、BACHの幅允孝氏プロデュースによる「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI(以下:TSUTAYA)」と「SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(シブヤパブリッシングアンドブックセラーズ/以下:SPBS)」にそれぞれ数年ずつ勤務し、新刊書店で書棚づくりのノウハウを身につけた。TSUTAYAでは主に「トラベル」のジャンルを担当し、ひとつの国のガイド本や文芸書、写真集などをジャンル分けせず、ひと棚に集結させるいわゆる文脈棚で展開した。
「文庫の隣に写真集が来る、こういう本の並べ方をしてもいいんだと新たな発見で、この時の経験は今に繋がっていますね」(宮重さん)
自分の店持つことを視野に入れるようになったのは、3年前、SBPSに勤務していた頃だという。
「若者の活字離れが叫ばれていますが、SPBSでもTSUTAYAでも、私は本ってまだ結構売れていると思っていたんです。私自身が黄金期を知らない世代だということを差し引いても、潜在的な本好きはまだ根強くいるんだな、と。特にSPBSでは新刊本をメインにしつつ、絶版本でどうしても手に入らない良書を古書で対応するということもしていたのですが、予想以上に若い世代が古書に反応してくれたんです。古書ってもうちょっと掘り下げてみたら面白いかも、と思いました」(宮重さん)
とはいえ近い業界でありながらも、その実、まったく畑違いなのが新刊書店と古書店。かつ、古書の世界に新規参入するのはハードルが高いとも言われる。基本的に古書店を新規開業する際は、一度ほかの古書店で修業をするケースが多いが、同じ下北沢にある「赤いドリル」の那須太一さんのように、元出版社社員から転身し、独学で古書店を始める人も増えている。宮重さんも同様だ。なおかつ古書組合にも入っていない。
「もともと会社勤めに固執はなく…、自由人気質と言いますか(笑)。自分が1人でできることは何だろうと考えた時に、本屋しかないな、と。それに、どこにも属さず古書店で修業をしなかったからこそ、怖いもの知らずでいきなり始められたのかもしれません」と話す。