真夏には最高気温が40度近くにまで達することもある、日本一暑い町として知られる埼玉県熊谷市。その熊谷市内の、JR熊谷駅からバスで20分ほどの場所に、ショップ・スクール・ドッグランを併設した複合商業施設「NEWLAND(ニューランド)」が、2012年7月8日にオープンした。全体で1,000坪にもなる広大な敷地にある大型クレーン教習所をリノベーションしたという、異色の商業施設を取材した。
運営元は、熊谷市内に拠点を構える(株)デッセンス。代表取締役の山本和豊さん(36歳)は熊谷市出身である。同社は住宅・商空間・プロダクトなどのデザインから施工までを一貫して行う建築設計デザイン会社で、自社でセレクトした家具・雑貨やオリジナルプロダクトを扱うインテリアショップ「LOl(ロル)」も運営している。
同社では2007年から、敷地である元・大型クレーン教習所を倉庫として借用しており、その後、山本さんが「NEWLAND」の構想を立てて地権者に交渉。2009年からオープンの準備を開始した。
「熊谷市の人口は約20万人で、その数は昼夜に差がありません。生活が熊谷で完結することは幸せなのですが、ここにはデザインやアートの拠点がほとんどありません。この町でも、文化的なものに出合ってほしいと思ったことが、発案のきっかけです」(デッセンス代表取締役/山本和豊さん)。
「特に地方におけるものが売れない状況、デザインやクリエイティブに対しての接点や、それらに対する価値観の乏しさをとても強く感じています。ものづくりをしていて自分が思うのは、主観を持っている人が増えないと、デザインやクリエイションが売れる場が育たないということ。まずは大人たちの感性の自律が必要だと思いました」(山本さん)。
コンセプトは“毎日通える文化の場”。周辺の住宅街との調和を考慮し、建物の外観は教習所当時とほとんど変えず、大げさな看板も掲げていない。「SHOP(ショップ)」棟、「SCHOOL(スクール)」棟、「HOUSE(ハウス)」棟、「DOGRUN(ドッグラン)」の4つの施設で構成。ベーカリー、レストラン等が軒を連ねるSHOP棟は、クレーンやユンボ等の大型重機が保管されていた倉庫をリノベーションしており、面積15m×40m超、天井高12mという巨大スケールだ。そこには異なるデザインの8つのコンテナ風の建物が並んでおり、1つ1つが各テナントの個性を表している。
「はじめは白い箱を並べるなど統一感を持たせようと思いましたが、そういう施設はすでにたくさんあります。商店街は各店舗が好きなことをしていて、様相も異なっていますが、それでも人と人との繋がりがある雰囲気が全体ににじみ出る。色がない商業施設が多いので、各テナントの個性を消してしまうのは良くないと思い、各テナントオーナーと打ち合わせてデザインを提案しました。日常の延長であってほしいので、間接照明などの過剰な演出はしていません」(山本さん)。