スポーツサイクルの専門店が集まる渋谷・青山エリアに、日本初となる自転車の専門学校「東京サイクルデザイン専門学校」が開校した。自転車の製造・整備などの技術を体系的に学べるのに加えて、デザインやマーケティング、文化まで総合的な“自転車学”を発信しているのが特色だ。渋谷区神宮前の同校を訪ねてみた。
講師陣にはハンドメイドのスポーツサイクルブランド「CHERUBIM」を展開するフレームビルダーの第一人者・今野真一さんや「自転車ツーキニスト」として知られる疋田智さんなど幅広い。1クラス15〜18名で、生徒は高卒から社会人経験のある30代まで、平均すると20代前半という。 カリキュラムは2年制・3年制の2つのコースを設定している。
2年制の「自転車プロダクトコース」ではビルディング(製造)やメンテナンス、企画デザインからビジネス面まで自転車に関する技術や知識を習得し、就職に向けた、即戦力として働くことができる力をつけるための課題をより盛り込んでいる。
3年制「自転車クリエーションコース」では、それに加えて企業とのコラボレーションや展示会への参加など、アイデアを作品として発信する力を身につけるクリエイティブ力を身につけ、自転車と社会の関わり方やライフスタイルへの考察も行う、いわば応用過程である。
同校を運営するのは、ジュエリーや時計・靴・バッグなどのデザイナーや作家を育成してきた水野学園。自転車を整備する上で必要不可欠な資格というものはないが、同校のカリキュラムは自転車技師(財団法人 日本車輌検査協会)、自転車安全整備士(財団法人 日本交通管理技術協会)、スポーツバイクメカニック修了検定(財団法人自転車産業振興協会)などの資格に対応している。
「自転車のビルディングに使われる道具は、ビルダーが作業経験の中で工夫して使いながら作りあげてきたものが多く、体系的に整備されているものがないんです。アメリカにはビルディングを教える学校があるのですが、その設備をそのまま日本に持ってくるのはコストやサイズの問題から難しかったので、日本向けに約2年かけて試作を重ね、オリジナルの工具や設備を作ったんです」
と同校コースディレクターの高橋政雄さんは語る。
ジュエリーからスタートした水野学園が、時計やバッグ、靴など身体に関わるファッションのスクールを増設しはじめたのは約10年前。そしてアクセサリーからさらに幅を広げ、金属や皮革の加工技術の設備など既存のリソースを活用でき、かつ社会的にもニーズの高まってきた自転車に着目し、準備を続けてきた。レザーのサドルや自転車用のバッグには靴や鞄の技術が、 歯車などのパーツを作るのには時計などの金属加工の技術が、それぞれ自転車づくりのフィールドのなかで活かせることも大きなポイントだったという。
「実際にスタートしてみると、鞄の職人が提案するサドルなど、新しい提案も生まれてきました。私たちには彫金の技術もありますが、そこにビルダーの方が逆に興味を持ってくださったり、ということもあります。カスタマイズの需要も高まっていますし、自転車にはまだまだ可能性があると改めて感じています。ビルダーの先生たちも一緒に楽しみながら、学校作りに参加してくださっています」(高橋さん)
初の自転車専門学校ということもあって、 競技用自転車のビルダーやメーカー、量販店まで幅広い分野の企業が同校に関心を寄せているという。
「専門店ではアルバイトから経験を積んでそのまま社員になるというケースが多いのですが、パンク修理のような店頭での需要が多いケースに対応はできても、より幅広い、深い技術を身につけるのはなかなか難しいんです。メンテナンスを2年3年しっかりと学んだ学生なら研修期間も短く済むため、企業からも即戦力として期待されています」(広報部・平山八都香さん)
従来の自転車のものづくりは、個々のメーカーやビルダーなどそれぞれがスペシャルな技術を磨き上げてきた職人の世界だ。後継者不足が進む小さなビルダーでは積み上げたノウハウが継承されず、やがて日本のフレームビルディング文化がなくなってしまうという危機感も業界にはあり、技術を体系的に伝えていきたいというニーズが高まっていたところだったという。
「ビルダーさんやメカニックの方から集めた技術を、学生向けのテキストやフォーマットに置き換える作業を続けています。学校や教育という核があったからこそ、こうして技術を体系化に踏み出すことができたんです。カリキュラムづくりでは技術面だけでなく、コミュニケーションも重視しています。デザインもでき、メンテナンスの技術があって、ビルディングの経験もある。そういう人材を毎年送り出していきたいですね」(高橋さん)
実際の現場に即した技術に加えて、自転車文化の幅の広さを伝えることも重要だ。同校では、ビルダーのアトリエ訪問や販売店へのインターンシップ、またヨーロッパへのツーリング旅行など、硬軟取り混ぜたカリキュラムを用意している。
同校が準備を進めてきた約2年間に、自転車専用道路の整備など、我が国の自転車を巡る環境は大きく変化してきた。自転車へのニーズが高まる一方で、自転車で快適に走ることができる環境を実現するまでには、交通などのインフラ整備が今後まだまだ必要なのが現実だ。
「自転車ブームとして捉えることもできるとは思いますが、自転車文化が今後衰退していくようなことにはならないと思います。自転車は“人力で動ける最速の乗り物”です。エコロジカルな意識から自転車の魅力に改めて気付く人が増えていますし、私たちもこれまでにない広がりを感じています」(高橋さん)
サステナブルな社会を希求する動きが広がる中、自転車はライフスタイルの中でいっそう重要性を増してきている。そうしたニーズを捉えることができるセンスと専門的な技術力を併せ持つ人材は、今後更に必要とされるはずだ。自転車を文化として成熟させていく上で、専門学校が設立されたことの意味は大きいといえるだろう。
初の自転車専門学校ということもあって、 競技用自転車のビルダーやメーカー、量販店まで幅広い分野の企業が同校に関心を寄せているという。
「専門店ではアルバイトから経験を積んでそのまま社員になるというケースが多いのですが、パンク修理のような店頭での需要が多いケースに対応はできても、より幅広い、深い技術を身につけるのはなかなか難しいんです。メンテナンスを2年3年しっかりと学んだ学生なら研修期間も短く済むため、企業からも即戦力として期待されています」(広報部・平山八都香さん)
従来の自転車のものづくりは、個々のメーカーやビルダーなどそれぞれがスペシャルな技術を磨き上げてきた職人の世界だ。後継者不足が進む小さなビルダーでは積み上げたノウハウが継承されず、やがて日本のフレームビルディング文化がなくなってしまうという危機感も業界にはあり、技術を体系的に伝えていきたいというニーズが高まっていたところだったという。
「ビルダーさんやメカニックの方から集めた技術を、学生向けのテキストやフォーマットに置き換える作業を続けています。学校や教育という核があったからこそ、こうして技術を体系化に踏み出すことができたんです。カリキュラムづくりでは技術面だけでなく、コミュニケーションも重視しています。デザインもでき、メンテナンスの技術があって、ビルディングの経験もある。そういう人材を毎年送り出していきたいですね」(高橋さん)
実際の現場に即した技術に加えて、自転車文化の幅の広さを伝えることも重要だ。同校では、ビルダーのアトリエ訪問や販売店へのインターンシップ、またヨーロッパへのツーリング旅行など、硬軟取り混ぜたカリキュラムを用意している。
同校が準備を進めてきた約2年間に、自転車専用道路の整備など、我が国の自転車を巡る環境は大きく変化してきた。自転車へのニーズが高まる一方で、自転車で快適に走ることができる環境を実現するまでには、交通などのインフラ整備が今後まだまだ必要なのが現実だ。
「自転車ブームとして捉えることもできるとは思いますが、自転車文化が今後衰退していくようなことにはならないと思います。自転車は“人力で動ける最速の乗り物”です。エコロジカルな意識から自転車の魅力に改めて気付く人が増えていますし、私たちもこれまでにない広がりを感じています」(高橋さん)
サステナブルな社会を希求する動きが広がる中、自転車はライフスタイルの中でいっそう重要性を増してきている。そうしたニーズを捉えることができるセンスと専門的な技術力を併せ持つ人材は、今後更に必要とされるはずだ。自転車を文化として成熟させていく上で、専門学校が設立されたことの意味は大きいといえるだろう。