渋谷駅の南に位置し、オフィスビルやマンション、飲食店の中に、アパレル系のショップやアトリエが点在する桜丘町。10年には学校法人文化学園が運営する「文化ファッションインキュベーション」(若手デザイナーの創業支援施設)も完成し、ファッション業界人も多く集まるエリアでもある。そんな桜丘の雑居ビルに、ショップ/オルタナティブスペース「ANDERCURRENT(アンダーカレント)」がある。オープンしたのは今年6月。
場所は、雑居ビルの3階。同じビルには、「Nidi gallery(ニーディギャラリー)」のほか、ファッション、内装、フォトグラファーなどクリエイター系の事務所などが入居し、どこか自由でオルタナティブな雰囲気が漂う。オーナーを務めるのは、「STOF(ストフ)」「bedsidedrama(ベッドサイドドラマ)」などのディレクション/デザインを手がける谷田浩さん(34歳)。
谷田さんは名古屋モード学園を卒業後、アパレル企業数社で、販売・MDを経験。02年には有限会社メタルバーガー(METALBURGER)の設立に携わり、「DIET BUTCHER SLIM SKIN(ダイエットブッチャースリムスキン)」の企画営業を担当。04年、26歳で独立し「STOF」を立ち上げた後、「seesaw(シーソー)」、「bedsidedrama」、「STORAMA(ストラマ)」など複数のファッションレーベルを立ち上げた。さらに、06年にはリトルプレスレーベル 「POETRY BOOKS(ポエトリーブックス)」、08年にはプロダクトレーベル 「THOUSAND LEAVES(サウザンド リーヴス)」を設立、自身も文筆活動を行うなど、ファッションに留まらない複数のジャンルで活動を行っている。
「ANDERCURRENT」の前身といえるのが、09年に立ち上げ2年間の期間限定でオープンしていた、吉祥寺のセレクトショップ 「四月(しがつ)」(2011年6月閉店)。谷田さんが商品セレクトと内装も手掛けていた。「コンセプトは(四月馬鹿、にちなんで)”嘘”。現実か嘘(夢)かが分からないようなお店を作りたかった」と谷田さんが話すように、ウイット富んだ個性的なセレクトで多くのファンを集めた。
「2年だけやろうと思って始めた『四月』が、予想以上にモノ好きな人に反応が良くって。だから閉店後も、何かの形で残したいと考えていました。ちょうど中目黒にあったアトリエが手狭になったこともあり、スペースを探していたところ、今年この物件が見つかり、アトリエの移転と、出店を決めました。この物件はいい感じに古くて値段も手頃、自由に改装できるところが気に入り、ショップ、ショールーム、アトリエ兼シェアオフィスの3部屋を借りています」(谷田さん)。
渋谷・桜丘周辺は取引先が点在していたり、周辺に来るバイヤーや関係者も多いため、仕事上の都合も良かったという。
「『ANDERCURRENT』では、何屋と定義できないような、いろいろなものを販売します。自分も全身を一つのブランドで固めることが苦手で、好きなものを合わせて着ているし、あまりブランドの世界観を表現するようなオンリーショップには興味がないんです。売ることだけを目的に作ることはできないし、売れないものでも置きたいと考えてしまう。そんな自分の器に合ったお店を作ろうと。『四月』もそうでしたが、売るというよりも、表現のひとつとして、ある種の姿勢を見せられるような場所にしたいですね」(谷田さん)。
営業は週に4日。時には期間限定で「ALCOVE(アルコーヴ)」と名前を変えて、知人のブランドの展示会、作家やアーティストのギャラリーとして場所を提供する。「自分の経験上、若い頃に展示会のための安くていいスペースを見つけるのが難しかったこともあって、いろいろな使い方ができる場所にしたかった」(谷田さん)。
一方、自身のブランドでは、各ブランドごとにシーズンテーマやコンセプトを明確に提示する。”ストーリー性のある服”がテーマのユニセックスブランド「STOF」、レディスブランド「bedsidedrama」、実験的要素の強い「STORAMA」など、それぞれが独自の世界観を作り上げている。これら複数のレーベル・ジャンルでの活動は、「やりたいことに忠実」という谷田さんの軌跡でもある。
「作りたいものが明確にあるから、レーベルを分ける。テイストが多岐に渡るとブレてしまうので、分けざるを得ない」と谷田さん。
自分達で改装したという店内は、広さ7坪。「いろんなテイストに変化できる、ニュートラルな空間を意識」し、天上や壁は白を基調にしたシンプルな空間に仕上げ、自身がデザインして作家に作ってもらった棚や家具を配置している。
店内には洋服やアクセサリーのほか、食器や生活雑貨、キャンドル、アートやオブジェなど、どこか力の抜けた、遊び心のあるアイテムが並ぶ。セレクトの基準は「自分が欲しいもの、他にはないもの」(谷田さん)。商品構成は、雑貨と洋服が7:3だが、時々によって変動する。