進化する「DIYファッション&カルチャー」
レポート
2012.12.01
カルチャー|CULTURE

進化する「DIYファッション&カルチャー」

自分でつくれば100%好みで気持ちいい!

写真1:「襟にビーズを縫い付けてみました。最近、木の本棚もつくりました」大学3年生
写真2:「今日のピアスだけでなく、アクセサリーはほとんどDIYです」会社員
写真3:「今日着ている服ではありませんが、彼氏の厚手のスェットをリメイクしてビッグトップスに仕上げました」大学1年生

ファストファッションやそれに追随するようなドメスティックブランドの浸透で、表層的なトレンドを次々と取り入れるのが主流になっている。一方で、それらに自分で手を加えてカスタマイズしたり、古着をリメイクしたり、布を買って最初から手づくりするなど、オリジナリティ溢れる「DIY(Do It Yourself)感覚」でファッションを楽しむ人が増えてきた。


「昨年の秋に買った黒いつけ襟に自分でビーズを付けました」と言うのは大学3年生のAさん(写真1)。「ちょっと変わったデザインのものが好きなんですが、お店で売られているものはふつうのデザインのものが多いので、自分でアレンジしています」と話してくれた。インタビュー時に着用していたトップスは「アメリカンアパレル」のもので、ボトムスは「フォーエバー21」、シューズは「ローリーズファーム」でバッグはお母さんの「セリーヌ」と、ファッション好きな90年代生まれならではのミックス感覚。興味深かったのは、「植木鉢を置くためのボードが欲しかったんですが、いいのが売っていなくて自分で板を買ってきてペンキを塗って作りました」と、洋服以外のものも手作りしていたことだ。

「アクセサリーはほとんど自分でつくっています」と言う金融関係の会社員のBさん(写真2)は、何年か前に「マウジー」で買った帽子に自分でアンティークリボンを付け、マトリーシュカの自作ピアスをしていた。「水原希子さんちゃんがしていたチョーカーがすごくかわいくて欲しかったのですが、売ってないし、たぶんあっても高いから買えないので自分でつくりました」と話す。

そういえば、以前「定点観測」をはじめ、「日経消費ウォッチャー」に寄稿した記事でも紹介した「タトゥストッキング」も自分の好きな絵柄をマジックで描いたという女子大生に出会ったのは記憶に新しい。

また、定点観測のインタビュー時は別の服を着ていたが、「最近DIY的なことを何かしましたか?」と尋ねたところ、「彼氏の服を自分用にリメイクしました」と答えてくれたのは大学1年生のCさん(写真3)は、スウェットっぽい厚手のロングTシャツの袖を切ってドルマンスリーブにし、切った袖でポケットをつくって付け、襟ぐりも広げて今どきのビッグトップスに仕上げたと話してくれた。友だちの間でも評判が良く、作り方をシェアしているそうだ。

いずれも、「欲しいものがなかった」という点では共通しており、さらに、「自分でつくった方が自分の好み100%なので妥協しなくていいから気持ちいい」(Bさん)と、そろそろファストファッションのように過度にマーケティングされた「ロープライス×ほどほどトレンド」のバランス観に飽きている人も少なくなさそうだ

Bさんがインタビュー時に着用していたワンピースやフェラガモのパンプスは、古着店で購入したもの。実は今秋冬のトップメゾンから提案されているファッションのトレンドが、「クラシック」「ヴィンテージ」「レトロ」ということもあっての古着やリメイクの人気の復活ともいえるが、ポイントは、新品のワンピースがセールで500円など「買う」のが当たり前というファストファッションで育った80年代後半〜90s生まれにとっては、「初めての古着&リメイク」の体験であるということだろう。 

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「ギミック使いでおしゃれ度UP!〜DIYスタイルアイデア集」という特集を組んていた「NYLON」2012年7月号
そんななか、ファッション雑誌「NYLON」の7月号では、「ギミック使いでおしゃれ度UP! DIYスタイルアイデア集」と題してDIYを大特集。女優やモデルのちょっとしたDIY私物が紹介され、その方法も紹介されていた。

戸川貴詞編集長は同誌冒頭の文章では、バブル期の「人より新しいもの」「最先端のブランドのもの」という画一的な志向性からの反省として書かれた堤清二氏の「消費社会批判」に触れ、バブル崩壊後のロンドンのファッションカルチャー誌に掲載されていた古着・リメイクのパンクキッズにみられた「新しい技術と古い文化のミックス感」が、今再び魅力的に感じる、と指摘しているのが興味深い。

一方、「装苑」11月号には、人気ブランド「Violette Room(バイオレットルーム)」のデザイナー、ハマノさんによる「リメークレッスン」と題した特集を掲載。「折り紙やプラモデル感覚でラフに楽しくリメークしよう」と、型紙を図解しつつ丁寧に紹介している。

また、東京の新世代デザイナーブランドとして注目されるブランドのひとつ「THEATRE PRODUCTS(シアタープロダクツ)」は、2013年春夏のコレクションとして、既製品だけでなく、数種類の型紙と生地を販売するプロジェクト「THEATRE, yours(シアターユアーズ)」を発表。型紙に、国際的非営利組織である「クリエイティブ・コモンズ」のライセンスを取得し、実質上は誰もが自由に使っていいとしているのもユニークな試みだ。

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ロンドン在住のRosie Martinさんが主宰する「diy couture」からおしゃれなイラスト入りのHOW TO本がリリースされている。
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NYからはJenni Radosevichさんが「I SPY DIY STYLE」という本がリリース。キャッチフレーズは、“Find Fashin You Love and Do It Yourself”!
 今は既製服を購入するのが主流ですが、これを食に例えるとレストランに出かけて食べるという行為のみということになります。型紙をレシピに、生地を素材として考えて自分でつくることで洋服の新しい楽しみ方が見えてくるのでは」とデザイナーで同社社長の武内昭氏は話す。

さらに、「ちょうど“クックパッド”が広がっていくように、服づくりの輪が広がっていったら嬉しい」(武内氏)。

ちなみに、「diy Couture」「I SPY DIY」などの洋書をパルコブックセンターの「ファッション」のコーナーで発見。実は、このファッションにおける「DIY感覚」は、世界同時多発的に起こっているようだ。

「THEATRE, yours」のプロジェクトのワークショップを行った「DESIGN EAST(デザインイースト)」(大阪)の実行委員で、京都造形大学非常勤講師および慶応大学情報環境学部専任講師の水野大二郎氏は、「今世界では、なんでも自分でつくってしまおうという“Fab”というものづくり革命のムーブメントが起こっていて、かつての“DO IT YOURSELF”が今は“DO IT WITH OTHERS”というムーブメントへと進化している」と話す。

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慶応大学情報環境学部の田中浩也准教授の「FabLife」。キャッチフレーズは、デジタルファブリケーションから生まれる“つくりかたの未来”。(左)/「FAB」という造語をつくったMIT(マサチューセッツ工科大学)のNeil Gershenfeeld教授による書籍。キャッチフレーズは「The coming revolution on your desktop - from personal computers to persona, fabrication」(右)
“Fab”とは、“fabrication(ものづくり)”と“fabulous(すばらしい)”を掛けた造語で、数年前MIT(マサチューセッツ工科大学)のニール・ガーシェンフェルド教授がその著書で提唱されたものなんです」と言うのは、東京芸術大学芸術情報センターにて非常勤講師をおこなっている岩岡孝太郎さん

実は、数年前から、“FAB”というコンセプトをキーワードに、“FabLab(ファブラボ)”という、ハイテク工作機械(主にレーザーカッター)を配備した一般市民向けのオープンな工房ネットワークが世界中に増えており、2010年にはFabLabJapan日本にも2011年に鎌倉と筑波にもオープン。その立役者となっているのは、岩岡さんの師匠の慶応大学情報環境学部の田中浩也准教授である。
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FabCafeのスタッフたち。いちばん左が岩岡さん。

その後、岩岡さんは、2012年3月に、弊社からほど近い渋谷区道玄坂1丁目のビルの1Fにレーザーカッターによるものづくりを軸としたカフェ「Fab Cafe(ファブ・カフェ)」をオープン。場所がら近隣のIT系企業で働く人たちで連日賑わっている。

同店の運営は、株式会社トリプルセブン・インタラクティブの代表であり日本を代表するクリエイティブディレクターである福田敏也氏(個人)と、株式会社ロフトワーク、岩岡さんらによるFab Cafe LLP(有限責任事業組合)だ。

さらに、岩岡さんらは、今年7月より東京都、東京文化発信プロジェクトと共同による「渋谷アートファクトリー計画〜DIWO Lab.新世代ものづくり実験シリーズ」と題した全6回のトークイベントを企画。彫刻家の名和浩平氏と3Dコンサルタントの原雄司氏、モデレーターはロフトワーク代表の林千晶氏による第1回めに参加したが、20代、30代を中心に大盛況だった。

ちなみに「Fab Cafe」はロフトワーク本社ビルの1Fに位置し、さらに、10月には原氏が代表を務める株式会社ケイズデザインラボが2Fに転入。3Dスキャン機器メーカー、イグアス社のショールームを兼ねた3Dスキャナ&3Dプリンタを配備したスタジオ「CUBE」としてオープンした。「Fab Cafe」と連動してワークショップなどを行いながら、ものづくりの楽しさを啓発していくという。

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今秋、プロデューサーにシアタープロダクツのプロデューサー金森香さん、アートディレクターにスタジオキギの植原良輔さんによる、ラッピングとDIYにまつわる専門店「WRAPPLE & wrapping DIY(ラップル&ラッピング・ディーアイワイ)」がオープン。運営元はラッピング専門商社のシモジマ。
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2010年前後から、NYやシアトル、サンフランシスコなどを中心に、「クリエイティブクラス」の人たちらによる「アートブックフェア」が大人気に。写真は2010年のNY ART BOOK FAIR。
 「デジタルファブリケーション」が浮上している一方で、ローテクなものづくりともいえる、ラッピングとD.I.Y.にまつわる専門店「WRAPPLE(ラップル) Wrapping & D.I.Y(ラッピング・アンド・ディーアイワイ)」が、11月22日、渋谷パルコ パート1の4Fにオープンした

これは、1920年創業の包装材料卸問屋である株式会社シモジマによる新業態で、クリエイティブディレクションに先述したブランドシアタープロダクツのプロデューサーでNPO法人ドリフターズ・インターナショナルの理事の金森香氏、アートディレクションにスタジオキギの植原良輔氏を起用。隣接してパブリックスペースが設けられており、ラッピングに留まらず、ひとり1人のアイデアと想像力が育まれるようなワークショップも開催され、連日賑わっている。

さて、「定点観測」を振り返ると、90年代前半に、新品よりも古着やリメイクを着用する若者の数が上回り、それらを「リサカジ(リサイクル・カジュアル)」として注目したことを思い出した。90年代当時も、個人資本によるファッションブランドやカルチャー誌、音楽レーベル、小規模映画館などが多数登場。「インディペンデント」がひとつのキーワードとなったのは「大人世代(70年代生まれ以前)」にとっては記憶に新しいだろう。

時代は巡り、2010年、日本でも第1回目のアートブックフェア「ZINE'S MATE」が開催されたが、NYやシアトル、サンフランシスコなどを中心に
“クリエイティブクラス”の人たちによるリトルプレスブームが数年前から始まっている。

つまり、今回の「DIY」のムーブメントは、ストリートファッションの歴史的視点からみると、90年代的な現象の再来ともいえそうだが、テン年代の特徴としては、分離してしまった「生産者」と「消費者」の関係性をもう一度考え直してみよう、という動きが、ハイテクとローテクの両方が入り交じった形で出て来ているのが面白い

さらに、そういった「新しい動き」が、やはり渋谷から始まっている点にも注目しておきたい。【取材・文/高野公三子「アクロス」編集長】


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