手芸・編み物関連を専門とする出版社、日本ヴォーグ社(東京都新宿区)が、世界各国から集めた糸を展示・販売する新しいスタイルの専門店「Keito(ケイト)」を2012年9月、セントラル・イースト東京(CET)エリアの日本橋馬喰町(東京都中央区)にオープンした。
かつて織物問屋の倉庫として使われていた築約40年、約90平方メートルのスペースをリノベーションしたショップ。壁面いっぱいにディスプレイされた糸は色彩も豊かで、見ているだけでも楽しい。何より色合いや質感などのバリエーションの多彩さに驚かされる。商品となる糸は、同社が世界各国の工房を訪ねて集めたものばかりだという。
「これまで日本にあまり入ってきていないもの、色が綺麗で品質のよいもの、テクスチャーの珍しいものを中心に品揃えしました。実際にウェールズやイタリアのビエラ郊外で製造工程も見学したのですが、国ごとというより工場ごとに特徴があって、その伝統を守っているんです」と語るのは同店マネージャー兼バイヤーの三根寛子さん。
ショップロゴや宣伝物、ギフトボックスなどのデザインは、グラフィックデザイナーのセキユリヲさんが手がけている。ショップのカウンターをあえて大きく取った店内の雰囲気はカフェのようで、一見でも入りやすい。メインの来店客層は30〜40代だが、週末にはこのエリアのギャラリーやカフェを目的にやってきた10〜20代のカップルが訪れるそうだ。
さらに日本ヴォーグ社が所蔵している貴重な編み物関連の書籍アーカイブを、ソファに座って閲覧できるのも同店の特色。ソファのファブリックや時計もオリジナルの編みもので飾られていて、店内のあちこちから手作りの魅力が伝わってくる。
それぞれの糸には産地や特徴などがPOPで解説されているが、編み方などの詳しい情報はショップスタッフがコンシェルジュとして解説してくれる。ちなみにスタッフはほとんど、編み物指導の有資格者だ。さらに編み物作家によるワークショップを月5〜6回のペースで開催、国内外の人気講師とコミュニケーションを取りながら編み物体験ができる。
先日「アクロス」でも「DIYファッション&カルチャー」と題した記事で紹介したように、アクセサリーを自分で作ったり、トートバックにラメやスタッズを付けるなど既製品に手を加えてカスタマイズする「DIY(Do It Yourself)」を楽しむ動きが広がっており、商業施設やカフェ、スペースなどでアーティストやデザイナーとともに作る手作りのワークショップやイベントを開催する動きが目立つ。このKeitoもこうした「DIYカルチャー」の再発見の動きを象徴するショップだといえる。
Keitoのもう1つの特徴は情報力。前述したように、海外の小規模な工房で生産される糸は生産量が少なく、また色味や風合いが毎年異なることから、魅力的であっても大規模な流通には乗らない素材が数多くあった。実際に現地へ赴き、産地の取材を重ねてきた出版社だからこそ、こうした商品を揃えることができたのだろう。