keito(ケイト)
レポート
2013.01.04
ライフスタイル|LIFESTYLE

keito(ケイト)

手作り文化を発信するイースト東京の毛糸専門店

地域や工場ごとに異なる特色がある海外産の糸。国内産に比べて、色のバリエーションが豊富で発色のよさが魅力だ
従来の手芸用品店には流通してこなかったような少量生産の糸も品揃えしている。“2度と出会えない糸“とである点が今は逆に魅力となっている
毛糸を使ったアクセサリーや雑貨も扱っている。手芸目的以外の来店客でも楽しめる
店内に編み物作家を招いてワークショップを月5〜6回のペースで開催している
日本ヴォーグ社が所蔵する貴重な編み物関連の雑誌や書籍を閲覧できる
手芸・編み物関連を専門とする出版社、日本ヴォーグ社(東京都新宿区)が、世界各国から集めた糸を展示・販売する新しいスタイルの専門店「Keito(ケイト)」を2012年9月、セントラル・イースト東京(CET)エリアの日本橋馬喰町(東京都中央区)にオープンした。

かつて織物問屋の倉庫として使われていた築約40年、約90平方メートルのスペースをリノベーションしたショップ。壁面いっぱいにディスプレイされた糸は色彩も豊かで、見ているだけでも楽しい。何より色合いや質感などのバリエーションの多彩さに驚かされる。商品となる糸は、同社が世界各国の工房を訪ねて集めたものばかりだという。

これまで日本にあまり入ってきていないもの、色が綺麗で品質のよいもの、テクスチャーの珍しいものを中心に品揃えしました。実際にウェールズやイタリアのビエラ郊外で製造工程も見学したのですが、国ごとというより工場ごとに特徴があって、その伝統を守っているんです」と語るのは同店マネージャー兼バイヤーの三根寛子さん。

ショップロゴや宣伝物、ギフトボックスなどのデザインは、グラフィックデザイナーのセキユリヲさんが手がけている。ショップのカウンターをあえて大きく取った店内の雰囲気はカフェのようで、一見でも入りやすい。メインの来店客層は30〜40代だが、週末にはこのエリアのギャラリーやカフェを目的にやってきた10〜20代のカップルが訪れるそうだ。

さらに日本ヴォーグ社が所蔵している貴重な編み物関連の書籍アーカイブを、ソファに座って閲覧できるのも同店の特色。ソファのファブリックや時計もオリジナルの編みもので飾られていて、店内のあちこちから手作りの魅力が伝わってくる。

それぞれの糸には産地や特徴などがPOPで解説されているが、編み方などの詳しい情報はショップスタッフがコンシェルジュとして解説してくれる。ちなみにスタッフはほとんど、編み物指導の有資格者ださらに編み物作家によるワークショップを月5〜6回のペースで開催、国内外の人気講師とコミュニケーションを取りながら編み物体験ができる。

先日「アクロス」でも「DIYファッション&カルチャー」と題した記事で紹介したように、アクセサリーを自分で作ったり、トートバックにラメやスタッズを付けるなど既製品に手を加えてカスタマイズする「DIY(Do It Yourself)」を楽しむ動きが広がっており、商業施設やカフェ、スペースなどでアーティストやデザイナーとともに作る手作りのワークショップやイベントを開催する動きが目立つ。このKeitoもこうした「DIYカルチャー」の再発見の動きを象徴するショップだといえる。

Keitoのもう1つの特徴は情報力前述したように、海外の小規模な工房で生産される糸は生産量が少なく、また色味や風合いが毎年異なることから、魅力的であっても大規模な流通には乗らない素材が数多くあった。実際に現地へ赴き、産地の取材を重ねてきた出版社だからこそ、こうした商品を揃えることができたのだろう。
カウチンセーターのような大物の完成品もディスプレイされている。同社が発行する雑誌誌面との連動も行われる
店内にディスプレイされている織り機。「織り」をテーマとした提案も今後行っていきたいという
左の毛糸を編んでいくだけで、右のような柄のソックスに仕上がる商品。こうした他所にはない商品が店内のあちこちに
商品の情報や編み方などをショップスタッフがコンシェルジュとして解説してくれる。スタッフはほとんど、編み物指導の有資格者。右から2番目が同店マネージャー兼バイヤーの三根寛子さん
「keito」を運営する日本ヴォーグ社の瀬戸信昭社長。手づくり文化の魅力をより広い層に発信していきたいという
「海外の毛糸メーカーを視察してみると、色のバリエーションがとても豊富なことが分かりました。日本の流通は染色堅牢度(色の落ちづらさ)のチェックが厳しいので、色が綺麗な糸でも、日本の市場に入ってこないものが沢山あります。この規模のショップなら、そうした色落ちの問題もきちんと説明して、お客様に理解していただいた上で、むしろ魅力として伝えることができるのです」(三根さん)

つまり、色落ちや品質の不揃いを嫌う日本の消費者のニーズが、多様な糸の流通を阻んできたともいえる。さらに現在、糸や針などの手芸用品を100円均一のショップで購入するユーザーが増え、趣味で手芸をたしなむ人たちも大型クラフトショップ、ホームセンターなどを使うようになり、低価格競争になってしまっているのが現状だという。そんな縮小傾向のマーケットの中で、同社がショップの出店に踏み切った理由について訊いてみた。

もともと毛糸業界に介入する予定はなかったんです。しかし素晴らしい糸が世界には沢山あるのに、日本ではそれを売っている場所がない。ならばパイロットショップをやってみようというのがきっかけでした。国内にも京都などに特徴のある糸メーカーがあって、そういったニーズの存在を感じてはいました」と日本ヴォーグ社の瀬戸信昭社長は語る。

数年前に、同社は企業理念を「手作りをする人たちにデザインや材料を提供する」から「ハンドメイドでハッピーライフをへと変更した。また2011年『毛糸だま』の誌面リニューアルの際に、糸の産地などの裏話を誌面に盛り込むようにした。Keitoの出店もそうした流れから生まれたもので、従来ターゲットとしていた手芸のヘビーユーザーから、糸を入り口として、手作りの楽しさをより広い層に伝えていくことを目指したのである。

見るだけで楽しい、ラッピングに使うだけでも、飾るだけでも楽しんでもらえるような場所を作り、ほんわかした手作りのよさを訴えたかったんです。同じ売れ筋を追うだけのビジネスに閉塞感を感じていたこともありましたね」(瀬戸社長)。

Keitoの今後の展開について、三根さんに語ってもらった。「これだけ多くの糸を見て、触れられるところはなかなかありません。糸に触れたことのない方、編み物をされたことのない方に、まず糸を好きになっていただけたら嬉しいです。糸や編み物のことなら、まずあの店に行けば情報が集まっている、そんな場所にしていきたいです」。

もともと繊維、服飾系の問屋や小売業が集積していたCETエリア。そんな土地の記憶と上手く結びついている点もKeitoの魅力になっている。近隣にも販売と企画展示で情報を発信するアンティークボタンの専門店「CO-(コー)」(2010年オープン)など、クラフト系の面白いショップがある。エリア内での広がりや連携も含めて、さまざまな可能性を感じさせるスポットでもある。

【取材・文: 本橋康治(ACROSSコントリビューティングエディター/フリーライター)+across編集部 】

Keito(ケイト)

〒103-0002
東京都中央区日本橋馬喰町1-3-4
TEL:03-5642-3006
FAX:03-5642-3007
営業時間:11:00〜19:00
定休日:日・祝日(不定期)


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