演劇、音楽、古着、サブカル、カフェといったワードとともに語られることが多いまち、下北沢(シモキタ)。大型商業施設や最先端の新規ビジネスというような派手な動きはないものの、実は近年、「ACROSS」の取材記事として登場頻度が高いまちの1つである。
現代の「ファッション」を捉えるとき、モードやアパレルの動きだけでなく、カルチュラルスタディース的な視点が欠かせないように、渋谷や新宿、銀座等の動きを見ているだけでは、「今の時代のリアル」を考察することはできない。なぜなら、「まち」はメディアであり、その担い手は、デベロッパーや大手企業だけではなく、私たちひとり1人の日々の営みだったりするからである。
そういう「ひと」視点を、私たちはしばしば忘れてしまいがちななか、渋谷、新宿のいずれにも近く、なおかつ独自の地域文化を保持しているシモキタをフィールドワークし、取材することで、2013年以降、確実に主流となるであろう、新しい価値観と出会った。
編集室主宰によるフィールドワークは11月18日(日)に実施した。天候は晴れ。最高気温17℃、最低気温10℃だった。事前のリサーチにより作成したマップを片手に有志約13名が北口〜一番街〜南口を回遊。下北沢エリアにこの4〜5年にオープンしたショップを中心に、「古着/アパレル」「カフェ/レストラン」「その他:書店/CD/ライブハウスなど」の3ジャンルでプロットし、マップにまとめた。マップはこちらのリンク⇒(http://www.web-across.com/todays/cnsa9a00000a40nd-att/cnsa9a00000a40u8.pdf)及びページ下の関連リンクよりダウンロードしてご覧いただけます)。
これを見ると、チェーン店が多く、物件開発の余地が少なくなった南口よりも、新規出店の重心が北口側に移っていることがわかる。
中でもACROSSで注目しているエリアが、古くからの商店街「下北沢一番街」だ。銭湯をリノベーションした古着店「NEW YORK JOE EXCHANGE(ニューヨークジョー・エクスチェンジ)」や、ガーリー感覚のセレクトが新鮮な女性店主の古書店「July Books/七月書房」など、既存の業態に新しい感覚を持ち込んだり、従来にないジャンルのミックス感が魅力のショップが出現。若い世代を中心に支持されている
さらに、住宅街の趣が強かった北口の路地にも、古着やアパレルのショップが増加しており、駐車場を改装して小割りの店舗とし、常に新しい若手起業家たちのショップで賑わう「東洋百貨店」などは、北口エリアに新しい人の流れを生み出している。
こうして新陳代謝が進んでいるものの、まちの印象が大きく変わっていないのは、既存の建物を生かしたリノベーションによる小規模なショップが多いからだろう。実際に下北沢のまちを歩くと、周辺に高級住宅街があるのにも関わらず、高級感を感じさせるようなショップは少ない。未だに残っている戦後〜昭和の駅前マーケットのような個人(インディペンデント)な商いがあちこちに根を張って「毎日の暮らし」を感じさせるのが下北沢の個性であり、こうした実質本意のスタンスが、「シモキタ・カルチャー」とでも呼ぶような独特の文化圏を形成しているのである。
現在、小田急線の地下化とターミナルビルの新設、駅周辺の道路整備などの計画が進み、戦後からの名物であった駅前食品市場もまもなくその役目を終えようとしている。こうした再開発への住民からの反対運動も起こっているが、それが従来型の組織的な反対運動ではなく、曽我部圭一さんや岸田繁さん(くるり)らのクリエイターが先導する「save the 下北沢」だったり、「グリーンライン下北沢」のような、ソフトな運動になるところがいかにもシモキタらしい。
ストリートのユースカルチャーと山の手のコンサバ感、地元住民とカルチャーコンテンツを求めて外部から集まる人たちなど、多彩な人々がゆるやかなコミュニティ感に集まっているのが下北沢の魅力なのである。
テン年代になり、90年代ストリートカルチャー復権のムーブメントを背景に、今後どんなに開発が進んだとしても、きっとこのバランスが崩れることはないだろう。そんなちょうどいい“ゆるタウン・パワー”がここには備わっている。
[取材/マップ作成:アクロス編集室、文:本橋康治、高野公三子]
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