かつて小規模なアナログレコード店が林立していた渋谷区宇田川町。特にオルガン坂周辺は有名店が集積していたが、05年以降、音楽のネット配信とネット通販が拡大するとともに相次いで閉店。現在では雑貨店や飲食店が急増しすっかり様変わりしている。
そんな宇田川町オルガン坂に、「NORTH VILLAGE BOOKS & SHISHA」(ノースヴィレッジブックス&シーシャ)がある。まるでツーリスト向けの看板のような「SHISHA & WiFi」と描かれた案内板が目印の同店は、自伝を中心とした書籍を発行する出版社「NORTH VILLAGE」が2012年7月にオープンした水タバコカフェ&書店である。約9坪、20席ほどの空間には、シーシャのパイプを手にした等身大エルヴィス・プレスリーの人形が置かれ、壁の棚には、窪塚洋介や高橋歩らの自伝本が並んでいる。
「音楽を聴きながら本を片手に、足湯・足つぼマッサージを受けつつ、美味しいシーシャ(水タバコ)が吸える。これって最高じゃないですか!?」と語るのはNORTH VILLAGE代表取締役の北里洋平さん(32)。
北里さんは2008年、27歳の時に自身の自伝本を出版した事をきっかけに、“自伝家による自伝家のための、自伝中心の出版社”として(株)NORTH VILLAGEを設立。著者とともに旅をしながら本を作るというスタイルで自伝本を刊行し、同時に都内、近県でリサイクルショップを運営している。
もともと埼玉県大宮市の自宅近くで、事務所兼打合せスペースとしてカフェ&バーを営んでいたが、仕事上、利便性の高い東京への移転を決めたという。候補地として北里さんが思い至ったのが、高校生の頃アルバイトをしていていた渋谷だった。
「小学校6年生から南米チリで暮らしていて、17歳で帰国したんですが、その時に人生で初めて渋谷を歩いて、何ておもしろい街なんだと衝撃を受けました。なので、僕にとって特別な場所である渋谷に店を出したかったんです。当初はなかなかいい物件が見つからなかったんですが、歩き回って偶然ここを見つけました。センター街よりマイペースで多国籍のお客さんが来店してくれる理想的な場所でしたね」(北里さん)。
自社の本を販売している他の大きな特徴はやはりシーシャである。窪塚洋介さんの自伝本『放浪』を制作するために行ったエジプトでシーシャに魅せられ、店で提供することを決めたという。