本屋 B&B(ビーアンドビー)
レポート
2013.01.11
カルチャー|CULTURE

本屋 B&B(ビーアンドビー)

ビールをお供に本を楽しむ
セレクト・ブックショップ

本や著者、内容などの繋がりをベースに編集した商品構成が特徴
棚の構成は内沼晋太郎さんならではの「文脈棚」だが、選書にはスタッフ全員が携わっているそうだ
ブック・コーディネーターの内沼晋太郎さん。“numabooks”のレーベル名で本を巡って多岐にわたる活動を展開している
博報堂ケトル代表にして雑誌『ケトル』編集長の嶋浩一郎さん
「本のある生活」を楽しむためのブランド「BIBLIOPHILIC(ビブリオフィリック)」などの雑貨も販売
本をぎっしり並べるのではなく、余白のあるレイアウトが心地よい店内
ブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんと博報堂ケトル代表にして雑誌『ケトル』編集長の嶋浩一郎さん。本好きの注目を集める2人がプロデュースした本のセレクトショップが下北沢の「本屋 B&B」だ。オープンは2012年7月。この店独特の棚構成や毎日店内でイベントを開催する発信力などから、本に関わる人々から広く支持を集めている。

小田急線/井の頭線下北沢駅から徒歩1分のビル2Fという便のいい立地。店内の家具や照明はサイズも形も不統一で、そのためか店内には書店というよりもアンティーク系輸入雑貨ショップのような雰囲気が漂う。白くフラットな照明が一般的な書店の店内だが、日中には自然光も入るB&Bの店内はカフェのようでもある。カウンターにはビールサーバーが備え付けられており、客はビールを飲み歩きながら本を探すことができる。店名の「B&B」とは「BOOK&BEER」なのである。

売場でお客にビールを飲ませると本が汚れるのではないか、と思うのが一般的な書店の考え方だろう。しかし嶋浩一郎さんはこう考えている。

「飲みに行った後、本屋さんに行くと楽しいじゃないですか。リスクよりもビールを飲みながら本を選べた方がお客さんにとっていいサービスになるんじゃないかという気持ちの方が大きかったんです」街の書店を目指しながらも、既存の書店には見られない試みが盛り込まれているのがB&Bの魅力である。

棚の構成は内沼晋太郎さんならではの「文脈棚」。スタッフ全員が選書に携わっている。出版社や著者、書名、ジャンルという分類でも、単行本/文庫/雑誌といった形状でもない。本や著者、その内容などの「繋がり」をベースに編集した構成になっているのが最大の特徴である。旅行や料理、クルマなどという“テーマくくり”の棚を構成する書店やブックカフェは他にも存在するが、B&Bの棚には文学や生物など、とても非効率的なジャンルのテーマにもスペースを割いており、内沼さんやスタッフのパーソナルな関心や美意識が反映されているように感じられる。

店内の本棚、机、テーブルなどのインテリアにはすべてタグがつけられており、商品として販売もしている。北欧インテリアを扱うショップ「KONTRAST」(東京都目黒区)のB&B内支店「KONTRAST.koncept」として位置づけられており、取り扱い商品はKONTRASTのウェブからもチェックできる。

ほかにも内沼さんがプロデュースする「本のある生活」を楽しむためのブランド「BIBLIOPHILIC(ビブリオフィリック)」の雑貨の販売や、代々木ヴィレッジのブックショップ「POST(ポスト)」(東京都新宿区)の出張所として商品の一部を取り扱うなど、本とその周辺でさまざまな「協業」が行われている。

東京の本好きの間で絶えず話題になっている印象のあるB&Bだが、その原動力となっているのが店内で毎日開催されるトークイベントだ。特に新刊のプロモーションに限定せず、内容は多岐にわたっている。
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カウンターにはビールサーバーが設置されている。店内の座席で本を読みながらビールが飲めるのは本好きには嬉しい
自然光が入る店内。照明器具も商品として販売されている
北欧インテリアショップ「KONTRAST」(東京都目黒区)のB&B内支店「KONTRAST.koncept」として店内の書棚を販売している
書棚に飾られているアート/クラフト系雑貨もすべて商品として販売されている
トークイベントやワークショップは毎日開催。写真はACROSS編集部が主催した下北沢のフィールドワークのWSでの元重慎太郎店長(左から3人目)によるレクチャーのようす
ロケーションは下北沢駅南口から歩いてすぐ、小さな飲食店が並ぶ路地のビル2F
「実際、毎日イベントを開催するのは大変です。でも、自分の好きな雑誌の編集者や作家のお話を聞いて雑誌や本が購入できたらうれしいでしょ。本を読む楽しみが倍増します。また、下北=サブカルとイメージがあるようですが、振れ幅を持って文芸系やアカデミックなトークも開催してより多様な人が訪れる本屋になりたいと思っています」(嶋さん)

「誰と誰に、何を喋ってもらうかを考えて、タイトルをつけ、商品として提供する。 イベントを編集するのも、本を編集することと基本的には共通しているんです。チケット代から出演者には出演料をお支払いし、店舗の収益にもなるようにしているからこそ、継続していけるんです」(内沼さん)

2人が出版業界が苦境にあるこのタイミングでリアル書店を開店したのは、今までの本屋と違うやり方で面白いものが作れるのではないか、という共通の思いがあったからだ。

「内沼君と一緒に本屋をやろうと思ったのは、 彼がデジタルもリアル書店も両方使いこなす人だったから。“デジタルでもいいものはデジタルで”と結構割り切ってくれるところが好きなんですよ。その辺の感覚が僕と一緒だった」(嶋さん)

「もともと新刊書店には興味があったし、いずれはやってみたいと思っていたんです。2011年の11月に嶋さんから声をかけていただいて、“今がその時なのかな”と思いましたね」(内沼さん)

そんな彼らが立地として選んだ下北沢は、音楽や演劇のイメージが強い一方、書店のイメージは希薄な街だ。事実「ヴィレッジヴァンガード下北沢店」の出店以来、書店に関して目立った動きはほとんど見られなかった。大型物件開発が難しいこともあってか、大型書店の進出もなかったが、下北沢駅を通る2つの沿線には学校も多く、“いい書店”へのニーズはもともと高かったはず。買い物の途中や通勤帰り、ビールを一杯飲むついでにふらりと寄れる、街で暮らす人のための本屋としてはまさに打ってつけの立地だったのだろう。

「特定のターゲットや顧客イメージを設定するのではなく、本好きだけを狙っているわけでもありません。下北沢の街に暮らす人、この街に遊びにくる人、働いている人、あるいは遠くからここにわざわざ来てくれる人...知的好奇心って年齢と関係なくあると思うんです。だから本好きにも限定せず老若男女、“ちょっと雑誌が買いたいな”くらいの人も受け入れられるような懐の深さをもっていきたいですね」(内沼さん)

B&Bは店舗の規模感を越えて、出版社や著者、編集者と読者へとネットワークを拡げている。「新しい街の本屋」を目指すその試みに注目していきたい。

本屋 B&B

〒155-0031
東京都世田谷区北沢2-12-4
第2マツヤビル2F
12:00〜24:00
年中無休(年末年始を除く)

TEL:03-6450-8272
HP:http://bookandbeer.com/
Twitter:https://twitter.com/book_and_beer
Facebok:https://www.facebook.com/bookandbeer


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