東京・下北沢では昨今、毎日トークイベントを行うブックセレクトショップ「B&B」、30代の女性店主が手がける”女子の古本屋”「七月書房」、古本バー「赤いドリル」など、本の新しい楽しみ方を提案する書店が増えている。先日リリースした『ACROSS』のPDF版フリーペーパー「the across」vol.4では、インディペンデントな小規模ショップが独自の文化圏を形成している下北沢の“今”を「ちょうどいいまち、“ゆるタウン・シモキタ2013」(ダウンロードはこちらから)としてまとめたのでぜひご覧頂きたい。
そんな下北沢北口に12年10月にプレオープンした、ここ「ピリカタント書店」も、その新たな流れを感じさせるユニークな本屋として話題を集めている。
店舗があるのは、かつてギャラリー「commune(コミューン)」があった場所(2011年新代田に移転後の取材記事はこちら)。「ピリカタント書店」では「旅と暮らし」をテーマにセレクトした古本(一部新刊書あり)と雑貨などを販売するだけでなく、世界の家庭料理を提供するのが特徴。
店主はアノニマ・スタジオ(出版社)で編集者として本づくりに関わっていた西野優さん(29歳)。11年11月に知人にこの場所を紹介されたことが出店のきっかけだという。「それまで10年後くらいに自分の店を持てたらと、漠然と思っていましたが、この物件を目の前にしたらやりたいことがどんどん膨らんできて。すぐに借りることに決めました」と西野さん。
12坪の店内は、自然素材を組み合わせたナチュラルな空間。内装は、知人であり、家具の製作や内装も手掛ける「noteworks」によるもので、「都会の中にいながら自然とつながれる場所、室内でもアウトドアを感じられる空間」を目指し、本や写真などでイメージを共有して作り上げたという。
「昔から本作りに興味があった」という西野さんは、文化服装学院で広告・雑誌メディアを学んだ後、音楽制作会社の販促デザインチーム、大手出版社でのアルバイト勤務を経て、食と暮らしの本を出版するアノニマ・スタジオに入社。「ごはんとくらし」をテーマとした、食や暮らしにまつわる書籍の編集に携わった。
アノニマ・スタジオは、出版事業のほかイベント、料理教室、ミニライブ、展示を行うなど、本から広がる世界を展開する出版社。その中で「大量生産とは対極の小さな単位で作る楽しさを知った」(西野さん)という。
「充実した毎日でしたが、忙しい日々の中で、どんどん情報を更新していくことに疲れてきて。次第に自分には本作りとは別のアウトプットがあるのかも、と考えはじめました。ここで一度生き方をリセットしようと、旅に出ることにしたんです」(西野さん)。
退社後は、アルバイトをしながらお金を貯め、月一度旅に出る生活に。トルコやタイ、イタリア、フランス、アメリカなど13カ国を旅した。
「旅はだいたい予定も立てずいきあたりばったり(笑)。そのほうが、現地の人たちとの思いがけない出会いがある。何より旅中で感動するのは、夕景など日常の何気ない瞬間でした。旅は非日常ではなく日常の延長で、”毎日は同じではない”と改めて気づいたんです」(西野さん)。
旅をライフワークとする生活の中で、偶然にも「環境が整ってしまった」ことから、1年をかけて開店準備をスタート。北海道出身の西野さんは、アイヌ語で「美しい今日」を意味する「タントピリカ」をもじって、店名を「ピリカタント」と名付けた。
「普段の生活に、旅の要素を持ち込んで暮らしたいと、”旅と暮らし”をテーマにしました。編集とお店をやることは別のようですが、自分の中では同じところから来るもの。良いものを伝える架け橋のようになれたら」(西野さん)。