川沿いを中心にライフスタイル系セレクトショップやデザイン関係の事務所などが設立され、クリエイティブ色が強まった東京・中目黒。通年、人気を集める成熟した街という印象があるが、しかしその実情は、なかなか厳しいようだ。近年の地価高騰により個人オーナーの店のスタミナが続かず、閉店を余儀なくされる店も少なくない。桜の季節に毎年開催される「桜まつり」にかけて盛り上がりを見せるものの、それ以外の時期に目立ったイベントが行われていない。
そこで、そんな中目黒を盛り上げようと立ち上がったのが、中目黒駅前ナカメアルカスでマルシェを開催する「中目黒村」という地域コミュニティを運営する団体。その一環として、「映画と中目黒を好きになってもらおう」というコンセプトのもと、無料の映画上映イベント「ナカメキノ(旧:中目黒シネマズ)」が誕生した(プレ開催は2012年11月)。主要メンバーは中目黒で飲食店を経営し、ナカメキノの代表を務める須藤晋次朗さん、雑誌編集者の山﨑真理子さん、そして会社員でありながら映画解説者として活躍する中井圭さんの同世代の3名だ。
「以前、中目黒はもっと挨拶が飛び交う昔ながらの下町だったというお話を地元の方から何度か伺いました。でも、いまはここ15年内に中目黒に集まってきた20〜40代と地元に先代の時代から住む50代以上の世代の方々が気軽に交流する場が少なく、会話を交わす機会も少ない。混沌とした雰囲気も中目黒の良さなのですが、「中目黒が好き」、「中目黒を盛り上げたい」という気持ちは世代や環境を問わず共通していることや、地元の方たちが若い個人店を応援したいと思っていることも知りました。ならば地縁を通して同じ方向を向いているこの縁を、ひとつのコミュニティとして繋ぐことができれば、中目黒はもっといい街になるんじゃないかと思ったのが始まりです」(山﨑さん)
そこでまず持ち上がった企画が、フランス・パリの街角にあるようなマルシェを中目黒の駅前広場ナカメアルカスで開催すること。きっかけは山﨑さんがご近所付き合いを通じて、中目黒の商店街、飲食店、町内会の関係者と交流する機会が増えたことだという。
そこから、仕事柄、広いネットワークを通じて数年前に知り合っていた須藤さんにマルシェ計画の相談を持ちかけた。須藤さんはかつて「中目卓球ラウンジ」の店長を務めていた人物。その須藤さんが、2010年に独立し、自身の店「ビストロオランチョ」を構えたことも、中目黒村を始動させる後押しとなった。
「山手通りと駒沢通りが交差していて、日比谷線も乗り入れているし、3月には副都心線も延長したばかりといろんな街の狭間にあるわけです。そんな中目黒で、目黒区の顔になるようなイベントをやりたいと長年、思っていました。でもなかなかチャンスもないし、実現できなかったんです。個々に独立したお店を経営することも手ですが、それぞれがつながれば、面白いことができる。そういう場所や機会が中目黒にあればいいなと考えていました」(須藤さん)。
そしてそこへ、当時卓球ラウンジの常連で須藤さんと10年来の付き合いであった映画解説者の中井さんが合流するかたちで、「ナカメキノ」の計画が立ち上がったという。
「もともと10年前に知り合ってから、2人で何かをやりたいという構想はありました。でもそれまでは、何ができるわけでもなかったので、酒飲み場の会話に留まっていましたけど…」(中井さん)。
「中目黒」をキーワードに、同じ思いを抱える30代の3人がつながったというわけだ。
さらに中井さんは続ける。
「今回の話が持ち上がったとき、中目黒で映画イベントを開催することは意味があると考えました。中目黒は、昔、映画館があったという歴史を持つんです」(中井さん)。
「ナカメキノ」の根本的な狙いとしては、劇場体験の面白さを実感してもらうこと。ここ数年、映画業界は右肩下がりという実情があり、一時期は年間興行収入が2000億円を超えていたが、近年は1800億円までに落ち込んでいる。それはソフト化へのサイクルが早くなったことと、ホームシアターの普及など要因は様々あるが、まずは観賞チケットが高いというハードルがある。
「たとえばデートで映画館に行って、1人1800円の観賞代に加えてジュースやポップコーンなどを購入すれば、2人で5,000円くらいかかってしまう。若い世代にとっては辛いんです。だからまずは無料で、気軽に劇場体験をしてもらうことに重点をおきました。これは今後も変わらないスタンスです」(中井さん)。
(※野外での映画上映シーン:撮影/相良博昭)