ここ数年、さまざまな小売業態で、「アート」を取り込もうとする動きが盛んだ。
なかでも際立って増えているのは、洋服や小物、雑貨、本などを扱うショップの一角にギャラリースペースを設けたり、売り場にギャラリーを併設する「ギャラリーショップ」。「アート・コンプレックス」をテーマに、人気アーティストのマーク・ゴンザレスが手がけるブランドを扱う「re・unitts」や、ショップ内にギャラリーを併設した「LAD MUSICIAN」、恵比寿・駒沢通り沿いの「ヴィドキッド」など、原宿〜渋谷〜恵比寿・代官山〜中目黒を中心に、次々とオープンしている。
そんななか、9月12日にまたひとつ「アート」を切口にしたショップがオープンした。名前は「FACTORY」。場所はキャットストリートの裏だ。
約30坪の店内には、陳列棚や什器はほとんどない。服やバッグが天井から吊り下げられていたり、床に置かれた白いボックスの上にアクセサリーが並べられていたりと、商品のひとつひとつがアート作品のように展示されているのが特徴。もちろん、商品はすべて購入可能だ。
運営するのは(株)ジェネレーション。「H.P.FRANCE」を全国展開するアッシュペー(株)のグループ会社である。プロデュースとバイイングを手掛けるのは、南貴之さん(27)。同社が運営するメンズセレクトショップ「CANNABIS」のバイヤーでもある。
「『CANNABIS』では、00年のオープン以来、国内のドメスティックブランドを中心にアート性の高いファッションアイテムを販売してきました。さらに02年11月からは店内に『CANNNABIS GALLERY』をオープンし、国内のアーティストによるエキシビジョンも行っています。『国内でこれだけ面白いデザイナーやアーティストがいるのなら、世界にはもっといるはず』という南の発想に基づき、新しくショップを立ち上げ、より大規模に展開することにしたんです。店名は、かつてNYに存在したアンディーウォーホールのアトリエ『FACTORY』からネーミングしました。ファッションに限らず、様々なジャンルの表現者が集まって交流し、新しいものが生まれる場にしたいという思いが込められています」と、プレス担当のアビリオさん(23)。
「CANNABIS」が国内のドメスティックブランド中心の品揃えなのに対し、同店はロンドン、パリ、NYなど海外のブランド中心の商品構成。現在はウィンディ&ジム、マラヤン ペジョスキーなど25ブランドを取り扱っている。商品はすべてユニセックスで、1点ものやデザインが一風変わったアートピース的なアイテムが多いのも特徴だ。また、「CANNABIS」ではシーズンごとにコンセプトを設定し、内装も作りこんで展開していたのに対し、同店は、作品一つ一つを際立たせるために、あえてノーコンセプト。内装も白い壁に打ちっ放しのコンクリート床と極めてシンプルだ。さらに同店では「FACTORY GALLERY」と題し、3カ月ごとに海外のさまざまなジャンルのアーティストのエキシビジョンを展開。現在はジュエリーデザイナー・ララ ボーインク ワンオーセブンの作品と、彼女の作品をテーマに写真家・デイビッド トンプソンが撮影した写真を展示している。
「00年以降、メンズファッションはそれまで主流だった裏原系から奇抜でルーズなレイヤードスタイルへと大きく変わりました。『CANNABIS』はその火付け役ともいえるショップです。しかし、当時は個性的だったレイヤードスタイルも今ではすっかり浸透し、街は似たような格好をした男の子達で溢れています。若者達はファッションで個性を競うとはいっても、マスなトレンドからは決して外れようとはしません。そういった意識を変え、本当の個性を提案するのが『FACTORY』の狙いです。洋服をアート作品としてとらえ、デザイナーの世界観を理解すればファッションはもっと楽しくなると思うんです」(アビリオさん)。
ここ数年の定点観測を振り返ってみると、先月はおしゃれだったアイテムが1カ月後にはもう古く感じるという状況が続いており、トレンドを消化するスピードが目まぐるしく速くなっている。同時に、トレンドアイテムを安価に提供する古着屋やカメレオンショップも急増。マスなトレンドに飛びつくファッション・アディクト族が台頭して久しいが、一方で、誰もが知っているブランドやどこでも買えるアイテムではなく、知る人ぞ知るブランドや、人とはちょっと違った自分だけのお気に入りアイテムに魅力を感じる層も確実に増えている。ファッションをアートとして提案し、希少価値の高いアイテムを扱う同店は、そんな消費者心理の変化を象徴するショップといえそうだ。
FACTORY
レポート
2003.12.21
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