街の不動産屋にいくと物件情報の紙が窓ガラスに張ってある。普通の宝石や毛皮に比べれば遥かに高い買い物なのに、その扱いは今ひとつ粗雑。実際に店内に入って話を聞いても、つっけんどんな対応を受けた経験を持つ人も多いのでは？

青山学院に近い八幡通り沿いに店を構える(有)プロパティデザインオフィス（PDO）は一味違う不動産屋さんである。

「ジュエリーのように物件を扱いたい」と言うのは同社の代表菊池林太郎さん。

菊池さんは、池袋要町で造園業を営む家に生まれ、父がドラフターで図面を引く姿を見て育った。自然と設計に興味が湧き、ブランド構築や建築デザインを行なう（株）シーアイエーに就職。その後、（株）北山創造研究所を経て、30歳前の独立を目指し、宅建免許を取得、不動産業で独立した。北山創造研究所在籍中に、街の不動産屋を訪ねる機会があり「なぜ、こんなに対応が悪いのか」と思ったことが起業のきっかけだとか。

まず、実家のある池袋要町店に、クライアントが寛いで打ち合せ出来るように、という「カフェのような不動産屋」をオープン。インテリアデザイナー橋本夕紀夫さんによるデザインは、入口の左側にひとつひとつ照明を当てられた物件情報が、右側は大きな引き出しが並ぶ。引き出しは良い情報がたくさん詰まっているという意味でもあり、様々な顧客ニーズに対応するための菊池さんの人脈やコラボレーションの幅を想起させる。住まい作りや店舗作りに悩むクライアントにとってはドラえもんが出てくる引き出しに見えるかも知れない。

そして、昨年オープンした「青山サルーン」は、インテリアデザイン事務所「Jamo（ジャモ）」の高橋紀人さんがデザインを担当。週末の夜には「BAR不動産」としても機能させるなど、不動産業に加え、店舗デザイン、住宅設計等のプロデュース及びブランド構築のコンサルティングなど幅広い事業を手掛ける菊池さんの人脈交流の場としても活用している。

そんな若手の起業家の菊池さんだが、目指す方向は普通の起業家と一味違い、「事業が大きくなっても、せいぜい10名程度の会社規模に留めたい」とのこと。

1点ものの不動産に拘り、クライアントやクリエーターとのコミュニケーションに重きを置く仕事のやり方を大事にすれば、自然と規模を大きくする方向には向かわない。大手ディベロッパーの大規模開発より、路地を持つ住宅のように地域とのコミュニケーションを大切にしたいのだそうだ。

今、実際に手掛けているのは2006年3月完成予定の練馬区の集合住宅プロジェクト。100坪ほどの不整形の敷地の中に敢えて通り抜けの出来る路地を残す計画だそうだ。

「敷地内に不特定多数の人が出入りできる路地を設けるというプランは、通常ではあまり考えないと思います。ですが、長くこの地に住むオーナーや周りに住む人たちのことまでを考えると、閉鎖的な住宅より、地域に開放された住宅の方が望ましいと思い、あえて提案しました」（菊池さん）。

同物件では、昼間、車の出払った駐車場を、フリーマーケットで活用することも検討しているのだとか。同物件の着工から工事の進捗状況は、同社のホームページでも紹介されている。

「デザイナーズマンションと称して、単に賃料が高いだけの物件も少なくありません。練馬の同プロジェクトは適切な価格で賃貸することを計画しています。それでも、長期的に見れば丁寧に作った物件は値下がりしないはずです。周辺に良い影響を与える良質でアフォータブル（手頃）な価格の物件を供給して行きたいですね」と菊池さんは言う。

店構えがちょっと変わった不動産業者。供給する物件へのこだわりは店構えに勝るとも劣らないくらい強い。


[取材+文／荒川滋郎（元パルコ・マーケティング部マネジャー／現・不動産会社、経営企画室長）]





有限会社 プロパティ デザイン オフィス
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