脳は鍛えなくてよかった! 「脳トレ」ブームを斬る?!

脳は鍛えなくてよかった! 「脳トレ」ブームを斬る?!

2007.06.11
その他|OTHERS

『スピンドル式 鍛えない脳』〜刊行記念トークショー
バカバカしくも真剣な「脳の探求の旅」

止まるところを知らない「脳トレ」ブーム。音読だ、ぬり絵だ、百ますだ、とあまりに正しそうすぎなうえに世代を越えてて、もはや誰も何も言えなくなってきたところに、『鍛えない脳』である。出た! 挑戦的!と、思う人は多いのだろう、刊行記念のトークショーは、満員御礼の大盛況。脳はいずれにせよ、すごい。

著者は、ゲーム作家麻野一哉・飯田和敏・米光一成の3人。ユニット「ふいんき語り」で、ベストセラーや文学作品をゲーム化する、という独自の視点での放談が俄然注目を集めている。

この本では、『ゲーム脳の恐怖』(森昭雄)で「ゲーム中の脳波は痴呆と同じ」とゲーム批判はされるし、バカ売れした脳トレゲームには乗り遅れるし、と脳にやられた感のある3人が、オレたちゲーム脳なの? ほんとに脳は鍛えられるの? という疑問に真っ向から取り組んでいる。

話題の脳本(『海馬』池谷裕二・糸井重里、『脳と仮想』茂木健一郎など)を丹念に読み込み語りあいつつ、脳の権威に、脳のしくみについて教わる、というきわめてまっとうな作り。「記憶力」を高めるために「海馬」を、「発想力」の原点として「クオリア」を理解しよう、とまさしく「バカバカしくも真剣に」脳を探求している。

語り口は「ふいんき」(「雰囲気」を「ふいんき」と覚え間違えてるかんじ?)ならではの奔放さ、というかどこかへ行ってしまう感が笑える。「焼肉で言うとなんだろう、クオリアって」「焼肉か・・・カルビなのかロースなのか・・・。ハラミとか内臓じゃない気がする・・・」「うん。周辺ではない、どまんなか。」「君たちなんの話かまったくわからないよ」(本文より)。クオリア感じました!ところどころ漢字の書き取り、なぞり書き、誤字探しなど「脳トレ」のパロディがあるのも、お得なかんじだ。

さて、トークショーのメインイベントは、ゲームプレイ中の脳波を測定して「オレたちはゲーム脳なのか?」検証する、という実験VTRだ。測定は、メディカルシステム研修所という脳波研究の専門団体で、所長の岡田保紀氏はかねてより『ゲーム脳の恐怖』を苦々しく思っており、今回もノリノリで協力してくれたとか。気になる結果は・・・結果というか、そもそも脳波でそんなことはわからない!そうで。脳腫瘍やてんかんなどの疾患を発見するには脳波はすごく役立つけど、精神的なことなどわかるものではないと。『ゲーム脳』で測っていたのは、脳波じゃなく目や眉の動きを拾った「筋電図」なんだとか。「まばたき筋の恐怖かよ!」と、とんだ拍子抜け。しかし実際にここまで試したからこその結果。体験はえらいのだ。

結局、この岡田所長も、本の監修者医学博士米山公啓氏も、推奨するのは「会話してコミュニケーションとることや、ウォーキング」「朝ちゃんと起きて、普通に生活するのがいちばん」「楽をするな、もっと汗水たらして歯をくいしばれ」と、極めて現実的。ほんとだよ。老人ホームで脳トレやってるお年寄りも、ドリルそのものじゃなくて、やりながら介護士さんとおしゃべりしてることが、脳を活性化させてるんじゃないか、って話もあったし。

とはいえ、規則正しい生活して積極的に出歩いて人と会って、って今やハードル高い人結構多そう。DS版脳トレやって、「脳年齢上がりました!」と言われる(DSに)ほうがなんぼか楽ちんで鍛えた気分も味わえるから、280万本のヒットになったんだろうが。

そういう意味では、本を何冊も読んで、話し合いを重ね、色んな人に意見を求め、という『鍛えない脳』の試みは、まさにリアルな脳トレ。読んでる方も、その追体験を十分味わえる。

トークのラストは、飯田和敏氏による「鍛えない脳のうた」弾き語りで、これが、大喝采。新しいことを聞き、見て、発見した多幸感が最後の歌でピークになった、という気がする。これって脳鍛えたのかも? でもそう言わないよね、普通。おもしろかったー、いいもの見たー、でいいんじゃない?
あまりによかったので、歌の一部をちょびっとご紹介。

脳を家に帰そう/イソウロウを追い出せ 
脳の家は体だ/Noとは言えない、だからだ
余計なミソを絞り出せ 

脳と家 脳と家 Noと言え・・・・・・Noと家無い日本人!

【書籍概要】
『スピンドル式 鍛えない脳』(しょういん)
著 麻野一哉、飯田和敏、米光一成
監修 米山公啓
本体1500円+税

【イベント概要】
『スピンドル式 鍛えない脳』刊行記念
麻野一哉×飯田和敏×米光一成 トークショー 
バカバカしくも真剣な「脳の探求の旅」
2007年6月2日(土) 15:00〜17:00
於/青山ブックセンター本店

[取材・文]神谷巻尾(フリー編集者)

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