Across the Book Review Vol.03

Across the Book Review Vol.03

2007.10.01
その他|OTHERS

「今」しか知らない若者たちのための読書案内。

続々リリースされる新刊本をきっかけに、時間や空間を超えて(=Across)
読みたくなった本や思い出した本をピックアップし、紹介する「つながり読書」企画です。

取りあげて欲しい書籍がある方はぜひご一報ください。もちろん、出版社の方からの売り込みも歓迎。新旧問わず、ぜひ新しい世代に読んでもらいたい書籍を伝えましょう!

Vol. 03:岡田斗司夫『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)

オタクはダイエットに向いていた!

実は先月、このコーナー用の本を探していて、岡田斗司夫氏の『「世界征服」は可能か?』(ちくまプリマー新書 61)はどうかなと思っていたが、却下された。「今の若者、岡田斗司夫知らないんじゃない?」と言われ、そうかもなー、オタキングってもピンとこないかも、私90年代引きずってます? と自嘲したところで、今月は岡田本なのである。だがしかし、オタクとは対極にある(と普通は思う)、ダイエット本。反対される要素はなかったようだ。

ごらんの方も多いと思うが、連日電車の中吊り広告が下がり、書店ではドカンと平積み、いまや新書コーナーでは『女性の品格』(PHP新書)に代わるヒット本扱いだ。著者のブログによると、発売1ヶ月で8刷16万部というから、ミリオンセラーもありえそうな勢いである。

もちろん、これはオタク評論家・岡田斗司夫著作だからというわけではなく、「1年で50キロの減量に成功!」という帯コピーと、デブ時代のズボンのウエストをビョーンと伸ばして履いている、痩せた岡田氏の写真のインパクトによるものだろう。著者は本書で、中身ではなく見た目で判断される時代=「見た目主義社会の到来」を述べているが、それを自著でも体現してるというものだ。

その「見た目主義社会の到来」で、人は見た目・印象で「キャラ」付けされ、それによって中身も評価される、と説いているのだが、1年前、117キロだった著者は、それに気づいていなかったそうだ。

自分から「オタクの王様・オタキング」などと名乗っていたから、一般のTV視聴者からは「オタク」の人というラベリングかなぁ、と考えていた。
が、違っていた。

私のキャラは「デブ」だったのだ。」

電車の中で思わず吹き出した。と同時にちょっと感動した。社会的評価が定まっている人が、自分のマイナス面に気づき、それをさらけ出す、というのはなかなか気概を感じる。

その“気づき”から、一挙にダイエットに突入するのだが、まずは理論武装から。オタクの面目躍如である。自己投資の手段(出世・資格取得・ファッションなど)、さらにはダイエット法のリスクとリターンを分析し、もっともローリスク・ハイリターンの方法を見つけていくのだ。

そこで編み出されたのが「レコーディング・ダイエット」。食べ歩きのメモをつけているうちに、どんどんデータが詳細になっていき、ダイエットを思いついたという。方法としては、1日に食べたものをすべて、カロリーとともに記録し、その合計を目標の摂取カロリー以内に収める、というもの。それを、「助走」(記録するだけ)、「離陸」(カロリーの計算)、「上昇」(カロリーの制御)、などの段階を踏んで進めていく。岡田氏は、「助走」の段階で10キロ痩せたそうな。それは、お菓子をつまもうと思っても「その後の「メモを取る」という行為のほんのちょっとした面倒くささがブレーキをかけているよう」だかららしい。

1日1500kcal以内の食事も「1日1500円以内でヒッチハイクをしている」と考えて、「朝食で180円使って、お昼に350円でカレーを食べて・・・・・・」と、貧乏旅行のつもりで楽しめる、とか。

そのあたりが、これまでの健康・美容方面からのダイエット本と、発想が違う。アプローチが、ローカロリー食品やバランスの取れた食事ではない。メモとデータなのだ。体に悪そうだって、数字上カロリーオーバーにならなければ、よし。だから、メガマックも、八等分して、「八つのピースから一番肉汁が多くてソースたっぷりで美味しそうなのを選ぶ。残りは・・・・・・その場でゴミ箱にポイ、と捨てる!」

 ええっ!捨てちゃうの? ポテトチップスも、5枚選んで残りは水をかけて捨てるとか!このエコの時代に、グローバル化の時代に、こ、これは・・・・・・と混乱した。それをどう着地するのか、まさかそのままでは・・・・・・と思っていたら、終章、食糧難の考察や資源を守る方法につなげていた。安心しました。思考の転換の仕方もまた文化系で、説得力があるので、思わずやってみたくなる。というかやってみた。現在4日目、2kg減。確かに、メモをつけるのが面倒だしちょっと恥ずかしいので(温泉饅頭、とか)、それなら食べなくていいや、という気になった。けど、これを続けられるかどうかは、他のダイエットと変わらず高い壁がある気は、する。

しかし、岡田氏は1年続けて50キロ減だ。本書の冒頭に1年前と現在の写真が載っていて、それも驚くが、著者の最新のブログ(http://putikuri.way-nifty.com/blog/)を見たら、仰天。別人になっていた。髪型、ファッションに「見た目主義」の拍車が、もはやかかりすぎているような。「オタキング」キャラは、もはや過去のものなのか? ダイエット、恐るべし。

[神谷巻尾(フリーエディター)]

読みたくなった本




・『「世界征服」は可能か? (ちくまプリマー新書 61)
・『平和なカラダ』サンプラザ・ホメオパス・中野(ユビキタ・スタジオ)

思い出した本




・『人は見た目が9割』竹内一郎(新潮新書)
・『オタク学入門』岡田斗司夫(太田出版)
・『やせる旅』都築響一(筑摩書房)

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