Across the Book Review
2007.07.10
その他|OTHERS

Across the Book Review

「今」しか知らない若者たちのための読書案内。
続々リリースされる新刊本をきっかけに、時間や空間を超えて(=Across)読みたくなった本や思い出した本をピックアップし、紹介する「つながり読書」企画です。


#001:『消費社会から格差社会へ 〜中流団塊と下流ジュニアの未来』(三浦展、上野千鶴子/河出書房新社)

 「下流」で勢いに乗る元アクロス編集長と、社会学界の大御所上野千鶴子氏の語り下ろし対談である。

 この二人の組み合わせには、正直驚いた。自分がアクロス出身ということもあるが、三浦氏の独特の分析は、マーケティングとも学術的とも異質な、なんというかアクロス的な、いわゆる“本流”ではない(いい意味で)と思っていたし、一方上野氏といえば、生粋の社会学者だしフェミニストだし、東大でビシビシしごいてる厳しい教授だし、畑違いの下流論争にのってくるようなタイプではないのでは?というイメージがあったからだ。

しかし上野さん、京都の大学院時代はシンクタンクのアルバイト研究員でマーケティングの手法を学んだり、現代風俗研究会という学際的な集まりで考現学にはげんでいたり、意外とやんちゃな経歴の方だったらしい。さらに、80年代にはセゾングループ社史の執筆者としてパルコにも取材に行っていたり、アクロスの数少ない定期購読者だったなど、実は近しいお二人だったというわけだ。

そんなわけで本書は、消費社会、少子化、世代論など、まさにこの二人の専門フィールドについて、ノリノリで語り合っている。三浦氏発案「かまやつ女」のスタイル「スカートの下にパンツ」を、上野氏は「はにわファッション」と呼び、そこに「ラク」「女子校文化」という記号を与える、というように小気味よいテンポで議論を展開していく。

中心のテーマになっている「中流団塊と下流ジュニア」についても、団塊世代は、日本経済全体が上げ潮だったところに乗って階層が上昇しただけで、個人が努力したわけではない。それに気づかない彼らが、マイホーム主義、私生活主義で育てた団塊ジュニア世代が、やがてマイルームに閉じこもり「私は誰?ここはどこ?」みたいな人間になるのは当然、などと大変わかりやすい。聞くとこの本、四十代女性によく読まれているとか。確かにこのあたりの、「子どもの下流化」に敏感に反応するのはこの層なのだろう。キレたり引きこもったりしない子にするにはどうすればいいか、あるいは独身ならこの先どう暮らしていくか、悩みは多い。社会学が、実用的に必要な世代である。

そしてそんな論考が生まれた背景として、かなりの紙幅を割いて三浦氏のパルコ、アクロス時代の経験が披露されている。アクロス編集室の、新聞切り、茶紙(西武百貨店の包装紙)を使ってのブレストとか、卒業生としては懐かしすぎて苦笑いだが、一般の読者にとっても『下流社会』や『ファスト風土』の手法、発想の方法が垣間見えて、面白いかもしれない。

上野氏も、セゾン社史『セゾンの発想』寄稿のタイトルが「パルコ−西武よりも西武的な」というだけあって、パルコに相当詳しい。70〜80年代の若者文化の象徴としてセゾンやパルコが語られることが今でもたまにあるが、ここでは内側からの話だけに結構泥臭く、しかし冷静に鋭く語られていて、なかなか面白い。

上野氏が三浦氏を評して「徹底したリアリズムと目線のクールさ」がよい、と賛辞を与えていたが、2人の目線の冷たさが、幻想や思い出話だけではないものを生み出しているのではないかと思う。


[神谷巻尾(フリーエディター)]

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