andMade(アンドメイド)
レポート
2017.05.15
ファッション|FASHION

andMade(アンドメイド)

進む「パーソナルファブリケーション」をサポートする施設の細分化!

自分でデザインした服を着たい、昔の服を直して着たい、手仕事をしたい。
“服をつくりたい”という欲求も多様化している。

3Dプリンターを筆頭に、個人のレベルでの“ものづくり”、「パーソナルファブリケーション」をサポートする施設が全国各地で増えるなか、その細分化も進んでいる。

副都心線「北参道」からすぐ、東京・千駄ヶ谷に428日にオープンしたandMade(アンドメイド)」は、ファッションに特化したファブ施設である。運営するのは、タレントのマネジメントやテレビ番組などの企画・制作をてがける古舘プロジェクトだ。

同社には、90年代のストリートファッション史に多大なる影響を及ぼした、“シノラー”こと篠原ともえさんが所属。実は、彼女が文化女子大学短期大学部(現在の文化学園大学短期大学部)出身で、現在、ユーミンをはじめとするアーティストへの衣装提供などを行うデザイナーとしても活躍していることもなにか関係しているのだろうか? ということで、オープン前に取材させていただいた。


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1階はフリーのワークスペース。ミシンを持ってきて作業をしてもいいし、生地を広げて裁断などをしてもいい。

「もともとIT屋さんなんです」と言うのは、同プロジェクトをゼロから立ち上げた荒木浩二さん。名刺には、「事業開発部MMB事業本部エグゼクティブプロデューサー」とある。MMBとは、MAKE MY BRANDの略だそうだ。

荒木さんのキャリアのスタートはNTT。その後、「スペースシャワー」のIT部門の立ち上げに携わり、音楽やエンタテインメント業界にて番組やイベントなどのデジタルコンテンツを手がけるなか、テレビ局にも出入りするようになり独立。あの人気番組の「テラスハウス」などにも携わっていたという。

「最近ものづくりがブームですよね。少し前はフリマがブームで、ハンドメイド大賞とかも大勢の人が出展しています。また、貴和製作所とかブルックリンチャームといった業態もあっちこっちに出来て、ミンネとかでCCで販売する人も増えています。一方、ファッションにおけるものづくりという動きは、まだそんなにみんな思ってなくて、場所さえあったら、一般化できるんじゃないかと思ったんです」(荒木さん)。


そこで“IT屋”らしく、厚みが2センチくらいの企画書を作成し、さっそく出資してくれる企業に売り込もう!といちばん最初に訪れたのが古舘プロジェクトだったのだそうだ。


「そこはIT屋ですから、投資事業を考えそうな会社をリサーチするのは得意です(笑)。会長も社長も興味を示してくださって、さっそく会ってくださり、『やりましょう』とあっという間に決済が通ったんです。そこからは物件探し、内装やミシン業者との折衝、システム構築とか急ピッチで進んでいきました」(荒木さん)。


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場所は北参道駅から徒歩3分。「OKストア」千駄ヶ谷店のすぐ裏手にある趣きのある3階建ての1、2F。

物件は立地にこだわって探した結果、北参道駅から徒歩2JRの千駄ヶ谷駅からも徒歩8の元商店のところに決定。3Fには大家さんが住んでいる、趣きのある建物の1Fと2Fをフルリノベーションし、各フロア約80坪だそうだ。1Fは広々としたワークスペースとなっており、ミシンを棚から自由に取り出して利用したり、裁縫をおこなったりできる他、ミーティングスペースやフィッティングルーム、ヘアメイク室なども配備しており、服づくりからフィッティング、撮影までトータルに活用できるよう、工夫されている。

設備は、JUKIの協力を得て、職業用ミシンや工業用ミシン、刺繍ミシン、ロックミシンをはじめ、シリンダーベッドミシン、フルサイズ高機能コンピュータミシン、カバーステッチ・チェーンステッチ専用ミシン、キルト用ミシン、1本針縫上下送り倍釜自動糸切りミシンなど合計40台を提供してもらい、他にも、テキスタイルプリンター、プレス機、3Dプリンタ、レーザーカッター、UVプリンター、テープクリエーター、デジタルスクリーン製版機、カッティングプロッターなど、ファッション系の大学や専門学校顔負けの設備が揃い、会員になると自由に利用することが出来る(一部のデジタル機器は有料で事前予約が必要)。


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2階は各種デジタル機器や特殊ミシンなどが使える上級者向けのフロア。制作途中のものはストレージボックスにて保管してもらえるそうだ。

営業時間は、現在10:0022:00。会員になると、「デイリープラン(日額利用)」の場合、1日3,500円または1時間600円、「マンスリープラン(月々定額)」の場合は9,800円、「イヤリープラン(年間定額)」は定額98,000円という設定となっており、製作途中の服や布地などの資材は、別途1個あたり700円(月額3,000円)で預かってくれる保管サービスもある。

ほかにも、1Fのスペースでは、専門学校の先生を招いて服づくりに関する勉強会を開催したり、いろんな業界で活躍しているタレントの人を講師に迎えたトークイベントなども企画中だそうだ。


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本事業の責任者の荒木浩二さん。NTTを経てTV業界にてシステム構築などを行う“IT屋”だそうだ。(撮影:Tas Yard)

「“つくる人”をつくりたいんです。ですから、オモテ向きはスペースビジネスですが、ウラは新しいデザイナーの発掘なんです」と話す荒木さん。

たしかに、ファッションの専門学校は全国にたくさんあり、また大学や短大などでもファッションについて専門に学ぶ学生は多いが、卒業後、ファッションの分野に従事する人、特に服づくりに関わることを仕事としている人は少ない。


そのことについて、教育の現場では、「つくること、ファッションデザイナーになることのロマンばかり教えていて、マーケティングやビジネス、マーチャンダイジングを教える学校が少ない」という批評もある一方で、「最近はビジネスばかり教えていて、クリエーションがお粗末だ」という批評もあり、双方が学べるよう工夫した授業も増えてきた。しかし、肝心の卒業後=“出口”が、「企業デザイナーとして就職する」か「デザイナーブランドとして独立する」かの2択しかない就活事情もあり、途中で諦めてしまうケースも少なくない。


「そういう若者たちの受け皿になりたいとも思っていて、あるときは自分のために、またある時は誰かのためにという意味で、
and Madeという名前に込めたんです」(荒木さん)。

今後、ファッションが盛り上がってる地方都市を中心に多店舗展開を具体的に計画中という。


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「andMade kitasando」のフラッグ。ここを旗艦店として、全国の都心部へと多店舗展開を目論んでいるという。

“服がつくれるシェアアトリエ”という業態を、ファッション業界にいたからこそ隠れたニーズとしていち早く発見し、提供したcoromoza(コロモザ)」が原宿のど真ん中に登場したのは2013年のこと。現在もどちらかというとプロの方が利用者の中心なので、「and Made」とはターゲットが異なりそうだ。

また、2016年にオープンした老舗縫製工場小倉メリアス製造所がはじめたシェアファクトリー「nuuiee(ヌーイー)」は、小ロットで服づくりをしているセミプロに支持されている。縫製工場と直結していることが利用者の最大のメリットで、ものづくりを推奨する墨田区の地域活性化にも一役かっている。


一方、「アトリエ249」(福島県南相馬市)は、趣味で服をつくりたい、昔の服を改造したいという年配の人から、子どもの服や小物をつくりたいというハンドメイドのママ(やパパ)、自分でデザインした服を着たいという若い人など、ふつうの人がターゲット。オーナーの宮森佑治さんは、自身のブランド「アーティジャングル」を手がけつつ、地域に開いた“服づくり=手仕事”をサポートする場を提供し、評判をよんでいるという繊研新聞の記事を発見。45年ほど前に鹿児島をFR(フィールドリサーチ)した際に見かけたミシンの販売店(天文館)に、幅広い年齢の女性が集まって、楽しそうに服などをつくっていたシーンを思い出した。


これらに共通する“ミシン”をめぐる日本の近代史については、(機会があったら)ハーバード大学のアンドルー・ゴードン教授が自身の著『ミシンと日本の近代—消費者の創出』(みすず書房)を読んでいただくとして、ファッションのカジュアル化、グローバル化を背景に、ゼロ年代以降の家庭からすっかり姿を消した“服をつくる機械=ミシン”が、近年の“ものづくり”や“手仕事”、“ていねいな暮らし”といった不脈から再び注目されている点に注力していきたい。


[
取材/文:高野公三子(本誌編集長)]


andMade(アンドメイド)

〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-34-3
営業時間:10:00~22:00(不定休)
TEL:03-6434-5573
 
東京メトロ副都心線「北参道駅」2番出口より徒歩2分/JR中央・総武線「千駄ヶ谷駅」より徒歩8分
 


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