VEGEO VEGECO(ベジオ ベジコ)
レポート
2017.08.07
カルチャー|CULTURE

VEGEO VEGECO(ベジオ ベジコ)

愛情一筋 八百屋「IT時代の三河屋を目指す!」

食べる側の意識を変えることが、農業の未来を変える。

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千代田線「根津」駅と「千駄木」駅の中間くらいに位置する不忍通り沿い。すぐ近くには高級な魚を扱う魚屋「松本」や、老舗の「根津のたいやき」などがある。

“勝手な使命感”から故郷の野菜を伝える


スマートフォンのアプリから、野菜を注文すると最短1時間でデリバリーされるサービスがある(*現在23区内で地域限定)。しかも新鮮な有機栽培の野菜だ。今年の1月に始まったサービス「VEGERY(ベジリー)」である。

仕掛けたのは、株式会社ベジオ ベジコ、2013年にスムージー用の野菜や果物専門の宅配を始めて一躍話題になった会社で、4年目の今年、デリバリーサービスの開始とともに、リアル店舗を根津にオープンした。


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ひとつひとつの野菜には生産者の名前や場所、栽培方法などがきちんと記されている。
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生産者のそれぞれの野菜に関するコメントも。ちなみに、このパクチーは葉っぱの先のツクツクまでしっかり存在感があって、エスニック調のサラダにはぴったりでした。

代表の平林聡一朗さんは、まだ26歳。事業を始めたのは大学生の時だ。「学生起業家ですね?」と水を向けると、「いや、僕は起業家になりたかったわけでも、ビジネスチャンスを狙ったわけでもないんです。出身も法学部ですしね」と苦笑する。「故郷、宮崎の農業を守りたかっただけなんです」

平林さんと、一緒に事業を立ち上げた相棒である田村健登さんは、ともに宮崎県出身。どちらの実家も農業に関わっている。2011年に東日本大震災が起きた際、現地でのボランティア活動を重ねていくうちに、故郷宮崎のことを強く意識し、考えるようになったという。当時、宮崎では、口蹄疫や鳥インフルエンザの問題、新燃岳の噴火などが立て続けに起こり、農業は窮地に陥っていた。「地元のために何かできないか?」。そこからスタートしたのが、スムージー用の野菜・果物の宅配だったのだ。

「勝手な使命感で、宮崎の農業をなんとかしなくちゃという思いに突き動かされた感じです」(平林さん)。


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まるでフィールドノートのように丁寧にまとめられた無印良品製の記録にびっくり。スタッフが直接農家さんを訪問し、丁寧にインタビューした上で契約しているのだそうだ。
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時にはレシピも教えてもらうことも。1軒1軒ていねいなコミュニケーションがいい野菜との出会いに繋がる。最近は農家さんからの申込も増えているそう。

独自のビジネスモデルで、有機野菜を適正価格で

ベジオベジコの野菜は、有機栽培にこだわっている。本拠地を宮崎に構え、契約農家が育てた有機野菜を適正価格で仕入れ、独自の配送網で東京まで輸送、販売する独自のビジネスモデルを作り上げた。有機野菜というと、どうしても価格が高くなってしまうが、「今までとは違う売り方をする」、コストを下げるために「できることはなるべく自分たちでやる」ことを徹底して、適正価格を守ってきた。

「必要なことは、食べてくださる側の意識を変えることだと思っています。そのためには、もちろんおいしいのは大前提ですが、その野菜がどのように作られているかを伝えることも大切ではないかと。なぜ有機野菜なのか? 誰がどういう思いで作っているのか、きちんと伝えて売りたい。その上で僕らの野菜を選んでくれる人が増えれば、農家も農業も変わっていくと思っています」(平林さん)。

当時から、一貫しているのは「シェアの精神」だ。自分たちが注目されて、会社として儲けたいのではなく、「お客さんと農家のひとたちがハッピーになれば、自分たちもハッピーである」という考えが根底にある。


 
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「現代の三河屋さんを目指しているんです。地域に根ざして、お客さんとのコミュニケーションを大切にしたい」(平林さん)、という間にも近所のお客さんが訪れる。

現代の三河屋でありたい、という

宅配で成功をしたベジオベジコだが、平林さんには、「野菜を手渡したい」という思いがずっとあった。「元気ですか? きょうのおすすめはこれです。この野菜はこの人が作っているんですよ」と声をかけながら売っていきたいというのだ。デリバリーサービス「VEGERY」と根津の実店舗を作ったことで、一歩理想に近づいたという。取材の間も、近所に住む常連客と思われるおばあちゃんが、店のスタッフに野菜の調理法を聞きながら買い物をしていた。「このキノコ食べてみるわね。あ、きゅうりは1本でいいわ」。スーパーマーケットではできない買い物だ。

「僕らは、現代の三河屋を目指しているんです。地域に根ざして、お客さんとのコミュニケーションを大切にしたい」と平林さんは言う。26歳の若き社長の口から、「三河屋」という言葉が出るとは……。

実は、平林さんは、高校時代にアメリカ・ポートランドに1年間留学した経験がある。ポートランドは、DIY精神あふれる個性的なスモールビジネスで活気であるエリアだが、この時に経験したカルチャーが、少なからず平林さんに、今のベジオベジコのビジネスに、影響を与えているようだ。

「週末は家族でキャンプや川遊び。クリスマスには気を自分たちで切って家まで運ぶ。コミュニケーションを大切にしながら、自分たちの手で作る“オンリーワン”のビジネスが当たり前にある、そんなポートランドのムーブメントに共感しました」(平林さん)。


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左から並木洋輔さん、平林聡一朗社長、草薙多美さん。スタッフはけっこう同年代=80年代生まれが多いそう。
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内装デザインやのれん、エプロン、そしてTシャツなど、すべてシンプルでオシャレ!なのも特徴。それぞれ販売もしている。

次の時代の農業のロールモデルに
 
リアル店舗の場所に根津を選んだことについては、「下町にこだわっていたわけではないのですが、物件を探しながら、食材をていねいに売っている商店を見て回っている時に、魚屋の“根津・松本”に出会ったんです。店のつくりも、売り方もすばらしいなあと感動して、自分たちが八百屋をやりたいことを伝えたところ、近くの物件がもうすぐ空くよ、と。それがこの場所なんです。ご縁というか、ほんとうにラッキーだったと思っています」。
 
渋谷や世田谷という選択肢もあったが、結果的に下町で良かったと平林さんは言う。「魚屋の隣に八百屋があるのは便利だよね、って言われるのが嬉しいですね。根津というエリアだからこそ、自分たちの思い描いていた“町の八百屋”が現実になったと思っています」
 
ベジオベシコは、リアル店舗の設計やデザインもだが、ECサイトアプリのインターフェイスも、美しく、わかりやすい。最先端のテクノロジーを使いながら、どこかアナログ的な温かみがある。
 
そんなベジオベジコには、ユニークなスタッフが自然に集まってくるようだ。根津のリアル店舗のチーフである草薙多美さんは、元バリスタだ。サードコーヒーブームの聖地、蔵前で働いていた時に、ベシオベジコの野菜と出会い、平林さんのビジョンに惹かれて転職した。

「コーヒーも野菜も、農産物なんですよね。どう届けるか、ということに興味があるのかもしれません」。また、並木洋輔さんは、舞台関係の仕事をしていたという。前職をやめた後、ポートランドに行っていた繋がりで、平林さんと出会い、一緒に働きたいと思ったそうだ。「農業はおもしろい」と目を輝かす。
 
「若い人たちが、農業っておもしろそうだな、仕事をしたいな」というようなロールモデルを作りたい」と話す平林さん。ベジオベジコの周りには、宮崎にIターンして有機農業に取り組み始めた若者もいるという。
 
今後、ベジオベジコはデリバリー可能なエリアを増やしていきたいという。「現代の三河屋でありたい」という平林さんに言葉の先に、次の時代を明るく照らす光が見える気がした。
 
(取材・文‥フリーエディター・ライター:菅野和子)
 


■VEGEO VEGECO(ベジオ ベジコ)リアル店舗:
〒113-0031
東京都文京区根津1丁目26−5
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