J.W.アンダーソンやマルケスアルメイダ、そして、10年ぶりにコレクションを再開したエンポリオ・アルマーニなど、日本のファッションプロの間では、ロンドンファッションウィークが話題になっているのと同じころ、韓国ソウル市の南エリアにあるコンベンションセンター(aT Center)では、通算10回目となる、“Indie Brand Far 2018SS”の合同展示会とランウェイショーが開催された。
会期は9月14日(木)と15日(金)の2日間。しかも、2日目の早朝、北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、北海道上空を越え、太平洋側に着水したというニュースが飛び込んでくるなど、一瞬緊張感を覚えたものの、ホテルの部屋を出ると全く平穏で日常通り。また会場は初日よりも多くのバイヤーさんで賑わった。
日本からも某百貨店やセレクトショップのバイヤーさんが来場していた。
今回の出展者は、ウィメンズが61ブランド、メンズが30ブランド、アクセサリー(小物類)が72ブランドと合計163ブランドと出展者は前回より微増。バイヤーも、韓国国内だけでなく、中国やインドネシア、インド、日本からも某百貨店やセレクトショップのオーナーやディレクターなどが来場し、商談スペースは常に人がいっぱい。
「以前から活気のあるアジアのファッション・マーケットに興味があって、たまたま友人の紹介もあり、来てみました」と言うのは、大阪のセレクトショップ「ALUVOUS(アルブ)」のオーナー兼務バイヤーの谷川正則さん。保守化する消費者の志向に合わせたからか、MDの同質化が消費者のマインドの保守化に拍車をかけているのか、どちらが先か分からないものの、「日本のファッションは今面白くなくてヤバい状態」と本音を話してくれた。
実際に初めて同展示会やショーを見て、「クリエーションはまだまだのところもありますが、勢いはありますね。ECとかも積極的に展開していて参考になるところもたくさんありました。他にもタイとかも気になっているので見に行ってみようと思っています」(谷川さん)。
確かに、今回拝見した163の韓国ブランドは、日本のインディーズブランドに見られるような素材やテキスタイルの深み(のようなもの)や、身体構造にこだわったユニークなパターン、絶妙なジェンダーバランスといった点、そしてなによりもストーリーを大切にしたブランディングなどはあまり重視されていない。しかし、グローバルトレンドの取り入れ方、ウィメンズに関しては女性らしいデザインの取り入れ方と価格とのバランスが絶妙な(実は価格は大きい!)、独特の“K-Fashion”(Kファッション)という世界観があり、他のアジア地域から注目されている理由も頷ける。
実際に韓国以外への卸先(取引先)としてあがったのは、オフラインでは、フランスの「BK concept」やイギリスの「THE ALLOTMENT STORE」や「CLOSET CASE」、「UNCONVENTIONAL」、アメリカNYの「SOMETHING IN MIND」やLAの「POLITIX Store」、香港の「IT」や「ZALORA」、「bauhaus」、「Harvey Nichols」、「TWIST」、シンガポールの「SECTS SHOP」や「Actually」、タイの「SPACE」、マカオの「NEW YAOHAN」、インドの「V2V」、スウェーデンの「VATHIR」、中国は上海の「OOAK」や「U:US」他多数。日本も、「DOG」大阪店がプロデュースしているインポート商品を取り扱うセレクトショップ「NEVER MIND XU」や「MONOMANIA」、「LAFORET CONVINI」など予想以上に多様な国・都市の、多様な規模、多様なショップとビジネスを行なっていることがわかった。
アクセサリーの「VDN」はアプリを開発したIT企業といっしょに、スマホで撮影した写真を使って“試着”できるシステムを開発。人気ブースとなっていた。
もともとロンドンのシェアハウスでいっしょに住んでいたという2人。ロンドンで自身のブランドを展開していMinjin Choさん(左)。RCAでファッションデザインを学んでいたというDahye Kim(右)が卒業するタイミングで、いっしょに韓国に帰国し、メンズとレディスをそれぞれ担当し、ブランドを立ち上げたという。既に百貨店や海外の取引先もあるそうだ。
この他にもオンラインショップや各国のショールームと契約するブランドも少なくなく、予想以上に積極的に“Over Seas”のビジネスを行なっているようすが伺えた。
また、例えば、アクセサリーブランドの「VDN」の場合は、アプリ会社と提携し、スマホで撮影した写真に商品のアクセサリーの写真が重なり、まるで装着しているかのように試着できるサービスを取り入れており、それが功を奏してか、「ある日、ブラジルの百貨店から1,000個オーダーが入ったんです」と同ブランドのCEO、Yujin Joさんが話すように、ふつうにSNSがビジネスコミュニケーション・ツールになっているようすも確認された。
江南のサムソン(三成)洞にあるショッピングモール、「COEX(コエックス)」に今5月にオープンした巨大なライブラリー「Starfield Library」。地下1階から地上1階までの2フロア吹き抜けの巨大な空間はなんと約2,800平方メートル! 椅子はもちろんのこと、電源付きのデスクコーナーや、トークイベントスペースなども配備。とにかく“Wow!”な空間だ。
一方、韓国国内に関しては、それぞれ独自のオンラインショップを展開している他、現代百貨店や新世界百貨店をはじめとする大手百貨店やセレクトショップのオフライン、オンラインでも積極的に取引されている他、同協会と新世界百貨店が提携し、2017年8月にソウル特別区の隣りの高陽市(コヤン)市にオープンしたばかりの大型ショッピングモール「Star field(スターフィールド)」(これがめちゃくちゃ広い!)に、約100平方メートルほどの特設会場に、今秋から来年の9月までの約1年間、選抜された16ブランドがポップアップストアを展開することになっているという。
HYUNDAI CARDが運営する、ライブハウス兼アナログレコードを専門に取り扱うライブラリーショップ。大使館の多い、漢南洞(ハンナムドン)は、メインストリートには大手が、裏通りには近年、個人オーナーのショップやレストラン、バーなどが増え、ニューエリート層で賑わっている。
「韓国のアパレル業界は近年変わりつつあります」と言うのは、The Korean Fashion & Textile News代表のLee Young Heeさん。
基本的に景気はよくないものの、小さい会社や個人がつくる元気なインディーズブランドがたくさんデビューし、これまでの大手中心から、オンラインを中心としたモバイルマーケティングなど、新しいファッションビジネスを展開していて楽しみと話す。
梨泰院(イテウォン)は新宿歌舞伎町または渋谷といったところだろうか。クラブやバー、飲食店が無数にあり、深夜遅くまで若者たちで賑わっていた。最近の東京ではあまり見られないような盛り上がり方!
今ではすっかり“インターネット先進国”として世界的にも認知されている韓国。実はインターネット普及率は日本よりも高く、アジア太平洋地区では1位だそうだが(市場調査会社wMarketer調べ)、その背景には、1990年代後半の「ブロードバンド・ブーム」にいち早く取組み、インターネットインフラの構築を目論んだ韓国政府(や関係省庁)の明確な方針と実践があるといわれている。
そういえば、3年前に発足したグーグル社のイノベーションスペース、“Google Campus”も、アジアは東京ではなくソウルに設けられている。エンタテインメント業界もしかり。サプライヤー・サイドもプレイヤー・サイドも、この“思い切りの良さ”が、韓国のファッション、アパレルをも牽引しているといえそうだ。
[取材/文:高野公三子(本誌編集長)]