去る2017年9月30日・10月1日、東京湾に浮かぶ東京都大田区京浜島を舞台に、クリエイティブフェス「鉄工島フェス」が開催された。
この島は、羽田空港を目前に臨む、わずか1.03平方キロメートルの人工島。かつては鉄工業などが盛んに行われていたが、現在は少しづつ鉄工所がリサイクル工場などに変わってきている。
京浜島をアートのバブに。オープンアクセス型ファクトリー「BUCKLE KÔBÔ」
JR大森駅からバスで約25分、東京モノレール昭和島駅から徒歩約20分の場所にある京浜島。この島とアートが結びついたきっかけは、2016年3月に寺田倉庫が、鉄工所の一部にオープンアクセス型アートファクトリー「BUCKLE KÔBÔ(バックルコウボウ)」をオープンした事だ。
寺田倉庫は、従来の倉庫業の「保管」だけに留まらず、空間活用のノウハウを活かして文化発信の拠点となる事業を積極的に進めている。天王洲周辺を芸術文化の発信地とすべく、美術作品の展示スペース「T-ART HALL」や多目的スペース「TERRATORIA」、伝統画材ラボ「PIGMENT」を運営するなど、さまざまなアート事業を展開しており、「BUCKLE KÔBÔ」もその派生プロジェクトとしてオープンした。
「NYではソーホーやダンボ、ロンドンではイーストエンド、あるいは北京の798地区のような工場地帯をアーティストのクリエイティブによって開拓し、世界中から観光客が集まる文化発信都市に変えてきた歴史があります。しかし東京にはかつてこのような場所があった歴史がありません。東京最後のフロンティア、京浜島の鉄工場をクリエイティブハブに変えることで、周辺湾岸地域を中心とした新たな文化発信を目指しています」(BUCKLE KÔBÔ、鉄工島フェス実行委員会事務局長/伊藤悠さん)。
寺田倉庫は、従来の倉庫業の「保管」だけに留まらず、空間活用のノウハウを活かして文化発信の拠点となる事業を積極的に進めている。天王洲周辺を芸術文化の発信地とすべく、美術作品の展示スペース「T-ART HALL」や多目的スペース「TERRATORIA」、伝統画材ラボ「PIGMENT」を運営するなど、さまざまなアート事業を展開しており、「BUCKLE KÔBÔ」もその派生プロジェクトとしてオープンした。
「NYではソーホーやダンボ、ロンドンではイーストエンド、あるいは北京の798地区のような工場地帯をアーティストのクリエイティブによって開拓し、世界中から観光客が集まる文化発信都市に変えてきた歴史があります。しかし東京にはかつてこのような場所があった歴史がありません。東京最後のフロンティア、京浜島の鉄工場をクリエイティブハブに変えることで、周辺湾岸地域を中心とした新たな文化発信を目指しています」(BUCKLE KÔBÔ、鉄工島フェス実行委員会事務局長/伊藤悠さん)。
「BUCKLE KÔBÔ」は1Fが様々な加工作業ができる工房、2Fにはオフィスとアーティストや職人の制作・滞在スペースになっており、藤元明さんによる360 x100cmサイズの巨大オブジェ『2021』が制作された他、ここで制作された幸田千依さんの大型絵画『二つの眼を主語にして』(291x227.3cm)はVOCA展2017でVOCA賞を受賞。また、2017年5月からは漫画家の根本敬さんが滞在し、ピカソの『ゲルニカ』サイズ(349x777cm)の絵画を描く「根本敬ゲルニカ計画」がスタート。大きさや発想に制限されずにものづくりができる環境を活かした、ダイナミックな制作が行われてきた。
「音も火も自由に出せる環境では、アーティストが都内でできないことができるし、実際にスタジをオープンしてみると制作だけでなく、ライブや撮影など、この場ならではの可能性があって。改めて場所の可能性を広げるきっかけとして、フェスができたらと思うようになりました」(BUCKLE KÔBÔ、鉄工島フェス実行委員会事務局長/伊藤悠さん)。
京浜島でSXSWのような複合フェスを!
2017年頭に鉄工島フェスの企画を練り始め、鉄工島フェス実行員会の代表には、「BUCKLE KÔBÔ」の物件オーナーである「須田鉄工所」の代表、須田眞輝さんが就任。資金は、クラウドファンディングや資金チケット販売の他、公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京の「東京文化プログラム」の助成を受けている。さらに、大田区が後援しており、品川区の天王洲から大田区の天空橋までの京浜運河沿いで実施された「しながわ・おおた水辺の観光フェスタ」とも連携。空き工場の活用は大田区にとっても課題であり、街の魅力を高める上で、行政が「鉄工島フェス」に大きな期待を寄せていることが窺える。
「社会人が来て『ヤバイのを見たな』となったらいいし、情報がたくさん流れている今の時代の中で、若い人はここの生々しさは新鮮に感じるのでは。絵の力はタイムラインに流れるピクセルでは回収できないデータ量があると思うし、どこか呪術的な力は生で体感してこそ。普段とは違うレイヤーのものに出会って、『何だったんだろう、あの日は』と後々に残る日になればと思います」(伊藤さん)
メイン会場は「BUCKLE KÔBÔ」と隣接する須田鉄工所で、サブ会場は隣のブロックにある京浜島防災公園。さらに付近の公道も会場として利用された。
料金は、1日券4,000円、2日通し券5,000円(前売は各500円引き)。アート作品展示に加え、様々なプログラムが実施された。1日目は、映画上映&トークを実施。また、防災都市ブートキャンプも開催し、10組が防災公園に設置したテントでキャンプをしながら、大規模都市災害における避難の知識を学んだ。さらに「しながわ・おおた水辺の観光フェスタ」連携企画では、未来美術家の遠藤一郎さんによる船の作品『未来へ丸』が大田区から品川区の運河をパレードした。筆者らが訪れた2日目は、ライブやパフォーマンスが中心だった。
メインステージでは多彩なライブが開催された。朝一番は「根本敬ゲルニカ計画」の除幕式で、『樹海』というタイトルの絵がお披露目され、根本敬さんのDJに合わせて岸野雄一さんがパフォーマンスを行った。その後、「F.I.B JOURNAL(エフアイビージャーナル)」や七尾旅人さん、石野卓球さん、明星/Akeboshi」「INDUSTRIAL JP(インダストリアルジェイピー)」らがライブを行い大いに盛り上がった。
また、メイン会場の周辺には『2021』などの巨大アート作品が展示されており、アートを全身で感じることができるのも、他のフェスとは一線を画している。
さらに周辺の公道にはキッチンカーが並び、来場者がお酒を飲んだり食事を楽しんでいる。大型トラックを改造したステージでは、「おやすみホログラム」や「社長(SOIL&"PIMP"SESSIONS)」によるDJが行われ、さらに防災公園の芝生ではダンスなどのパフォーマンスなどが行われており、歩けば何かにぶつかる、初めてのものに出会う、という状態で自分の中の既成概念が破れていく感覚が新鮮だった。
来場者は、2日間と前夜祭を合わせて約2,000名。20代後半〜40代が中心で、小さな子ども連れファミリーも多い。音楽を聴いたり、踊ったり、作品の写真を撮ったり、また公園の芝生でくつろいだりと、各々が自由に楽しんでいた。
来場者にインタビューをすると、facebookやtwitterでフェスを知ったという人が多数。京浜島に初めて来たという人がほとんどで、工業地帯にアートや音楽などが混在している意外性に面白さを感じて参加したという声が多かった。「工場音でつくった音楽など、自分の理解の範疇を越えた音楽を聴けた」(28歳男性)、「ふつうのフェスとは違い、美大の文化祭のように至る所で自由にパフォーマンスが行われているのがおもしろい」(30歳女性)と、来場者も様々な角度から刺激を受けていたようだ。
伊藤さんは、「フェスは何十年としつこくやっていきたい。今回を機に話したスピーカー屋さんや舞台の人などが、自分たちもこういう場所でやりたいという企画を持ってきてくれるんです。みんな、都内ではできないフラストレーションがあったのかも。自由に発信したり、信頼し合ったり、より良いセッションの仕方みたいなことに集中できる環境が作れればいいですね」と話す。「鉄工島フェス」「BUCKLE KÔBÔ」の影響で、京浜島にどのような変化がもたらされていくのかを長く見ていきたい。
取材・文 緒方麻希子+ACROSS編集部
写真 鈴木雄介、越間有紀子、菊池良助
写真 鈴木雄介、越間有紀子、菊池良助
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