humor(ユーモア)
レポート
2018.01.02
ファッション|FASHION

humor(ユーモア)

“お年寄りのまち”巣鴨で若者たちに人気の古着屋

“都市部のすき間”に出現する古着屋シリーズ。第4回となる今回取り上げるのは、巣鴨の「humor(ユーモア)」だ。

同店を知ったのは、2017年5月の定点観測でインタビューした男性が、「よく行くショップ」として名前を挙げてくれたことから。お年寄りのまちというイメージが強い巣鴨に若者に人気の古着屋という意外な組み合せに興味を引かれ、さっそく取材することにした。

北千住や谷根千みたいな、雑というか下町っぽい感じのまちが好きなのと、元々古着屋がありそうなところには店を出さないって決めていました。そういう観点から物件を探していたら、たまたま巣鴨のここが出てきたんです」。

そう話す同店オーナーの山本裕太郎さんは、岐阜県久瀬村出身の現在27歳。もともとは実家から近く、学生時代を過ごした名古屋にオープンする予定だったそうだが、開店資金を稼ぐために東京でアルバイトをしながら暮らすうちに東京の魅力に気づいたのだそうだ。
 
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写真右がオーナーの山本裕太郎さん、左が弟の拓夢さん。
「休みの日に居酒屋巡りをするのが好きなんですが、老舗の居酒屋を探すと行き着くのはだいたい下町なんです。地方にも下町がないわけではないけど、ポツポツ点のようにあるだけ。東京は人がめちゃくちゃいて、そこここで働く人たちが通う居酒屋や定食屋が根付いている。いろんなまちに必ずある、そういうスポットを巡るのが楽しかったですね」(山本さん)。

巣鴨という場所を選ぶ決め手になったのは、初めて駅に降りたとき、山手線の駅なのに高いビルが少なく、空が広いという第一印象がよかったこと、そして、たくさんのお年寄りが商店街を歩く光景が、温かく人情味溢れる地元の雰囲気とダブって見えたことだという。
 
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巣鴨地蔵通り商店街に面するビルの「アルプスシューズ」が目印。右脇の階段を上った2階がhumorだ。
とはいえ、基本的に若者が少ない巣鴨に古着屋を出すというのは不安ではなかったのだろうか?

最初からリアルショップとSNS、オンラインショップを同時にやろうって決めたのが大きかったですね。そうじゃなかったら、さすがに巣鴨には出せなかったと思います。好きなまちを選ぶ代わりに、とにかく自分が宣伝をがんばるつもりでした」(山本さん)。

取材中にたまたまお店に訪れたお客さんたちに話を聞くと、「SNSで店からフォロリクをもらって知った」という人も。また、オンラインショップでも1日に平均10件ほどは注文があるそうで、売上げ自体はオンラインショップの方が高いという。

近年、ウェブだけの古着屋も少なくないが、山本さんはリアルな店舗も絶対に欲しかったと話す。その根底には、ご自身が古着屋を志すきっかけとなった体験がある。

山本さんは学生時代、服が見たくて通いはじめた古着屋に、進路などの悩み相談するようになっていったそうで、いろいろと親身になって話を聞いてくれる店主に憧れ、いつか自分も古着屋をやりたいなと思うようになったのだという。その思いは“humor(ユーモア)”という店名にも表れている。

「ユーモアって相手を笑わせたり喜ばせたりするって言う意味ですけど、調べてみたら、相手のことを思って敬った上、っていう前提での言葉だったんです。相手を大事に思って喜ばせてあげるって、すごくいい言葉だなって。そんな風に、服とか会話を通して人を喜ばせたくて店名にしました」(山本さん)。
 
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お客さんとの丁寧なコミュニケーションのひとつが、オンラインショップのショッパー。オンラインショップで売れた商品を発送する際には、必ず1枚1枚手書きの装飾を施している。
客層は10代~20代前半の男女が中心。特に東洋大学、大正大学、学習院大学、立教大学など、巣鴨周辺の大学生が多く、なかには中高生も。お客のほとんどが山本さんよりも年下だという。

「単に古着屋というよりは、学校の保健室みたいな感じになっていますね(笑)。恋愛相談や進路相談しに来る子もいます。学生だったお客さんが就活とかを経て、成長していくのがわかったり。そういうことがあると、自分が憧れていた古着屋さんのように少しはなれているのかなって思います」(山本さん)。

店内に並ぶ商品は特に柄ものが豊富で、幼少期の夢はネイチャーガイドだったという山本さんがこだわっているのが動物柄。服だけでなく、店内のいたるところに動物モチーフのディスプレイがある。
 
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アニマル柄の服だけでなく、タペストリーなどもアニマル柄のものだらけ。
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こまごまとした置きものもすべてアニマルモチーフのもの。
オープンから1年半、実弟の山本拓夢さんもスタッフに加わり、店の運営も少し余裕が出てきたそうで、新しいことにもチャレンジしたいと山本さんは話す。たとえば先日は、humorとして大正大学の文化祭に出展したそうだが、巣鴨という立地はこの先も変えるつもりはないという。

戦略的なものなんて何もなくて、落ち着いたところがよかったから巣鴨を選んだんですよね。たとえば、渋谷とか原宿って、人が多すぎて疲れちゃう。たまに渋谷にある知り合いの古着屋に遊びに行くと、東京に住んでいるのに『東京に来たな~』みたいな旅行気分になる。休みの日に行くのはいいけれど、毎日仕事にしてると疲れそう(苦笑)」(山本さん)。
 
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店内はかなりの商品量。「せっかく巣鴨まで来てもらうからには、たくさん商品を見てもらいたい」という山本さんの思いが込められている。
さらに、興味深いのは、当初裾のお直しやほつれ直しのために導入したミシンが、いまではリメイクに留まらず、生地からポストマンバッグを作り、販売するまで同店にとって重要なツールとなっていることだ。ミシンの用途がどんどん拡大しているそうで、家庭用ミシンでは縫えない生地などもあるため、とうとうこの12月、工業用ミシンが導入された。

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12月に導入した工業用ミシン。
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オリジナルのポストマンバッグ。
学生時代に被服について学んだわけでもない山本さんがオリジナル商品を作れるようになったのは、文化服装学院に通う学生のお客さんからミシンの使い方を教えてもらったからだという。

ミシンを介してコミュニケーションが生まれる場という意味では、以前取材した椎名町のミシンコミュニティカフェ「シーナと一平」などがある。また、アマチュアだけでなく、服作りのプロが集まる原宿のコワーキングスペース「coromoza(コロモザ)」のような業態も増えてきた。しかし、同店においては、結果的にミシンがコミュニケーションに一役買っている点が新鮮だ。

また、ミシンだけでなく、フォトグラファーのお客さんから一眼レフのカメラの使い方を教えてもらい、オンラインショップ用の撮影に活かしているという。

一方、山本さん自身も、同じビルに入居する老舗の靴屋「アルプスシューズ」のオーナーにInstagramの使い方を教えてあげたそうで、大都市では難しくなった“お店とお客さん=売る人と買う人(消費者)”という関係性とは異なる“フラットな人と人とのつながり”が自然に育まれているのがとても魅力的に感じられた。
 
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店内には巣鴨地蔵通りの公式キャラクター“すがもん”も。
ちなみに年末から年始にかけては、オンラインショップに特別価格の新商品が一気に130点入荷されるとのこと。遠方のファンたちへの感謝を込めて、実店舗よりも先にオンラインで展開しようという試みだそうだ。

また、来年は山本さんがヴィンテージの銀食器を再利用して彫金したシルバーアクセサリーの販売を開始する予定だという。さらに同店の2周年記念には、拓夢さんが中心となってノベルティを用意するとのこと。お客さんを楽しませるため、より一層活動の幅が広がっていきそうだ。

【取材・文:大西智裕(『ACROSS』編集部)】


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