白を基調としたコンパクトな空間に書籍とアート作品が並ぶ。「豊かに暮らす」というテーマで集められた。比較的手頃な値段で手に入れることができる。

白を基調としたコンパクトな空間に書籍とアート作品が並ぶ。「豊かに暮らす」というテーマで集められた。比較的手頃な値段で手に入れることができる。
表通りからは見つけにくい場所に店の入口がある。建物のルールにより目立つような看板は禁止されているので、さりげなくドアの上部に表示が出ているだけ。裃を着た夫婦猫のイラスト。

ご主人の好きな世界観を感じさせる棚の一角。福沢幸雄やスティーブ・マックイーンなどかつて憧れた男たちへの思慕は冷めやらず。
渋谷と青山の中間地点、静かな裏通りにある、その筋では有名なヴィンテージマンションの一室に、ギャラリーショップ「麓覺堂(ろっかくどう)」が2017年9月オープンした。小ぢんまりとしたスペースには、アートや児童書、建築関連などの古書に混じって、使い心地のよさそうな陶器や手作りのアクセサリー、絵画などの作品が並び、静謐でいて心安らぐ癒しの空気が満ちている。

向田邦子、白洲正子などが奥さんのお気に入り。おすすめの本や品物には手書きのPOPが添えられている。
店主さん夫妻が関西から東京に移り住み開いたこの店は、実は第2号店にあたる。以前は兵庫・西宮に同じ店名で別業態の店舗を営んでいた。若いころからの趣味が高じて扱うようになった映画の宣材(ポスター・チラシなど)を揃えた、1994年の開店からおよそ10年間、関西の映画愛好家の間では有名な店だったという。
マニアならではのディープな価値観のもと、レアな品、マニア受けする品が高額で取り引きされたことも。一方ネット販売など市場が様変わりするにつれ、物に対する人びとの価値観も変化。古物商をビジネスとして続けるには難しい時代になってきたとご主人は語る。
マニアならではのディープな価値観のもと、レアな品、マニア受けする品が高額で取り引きされたことも。一方ネット販売など市場が様変わりするにつれ、物に対する人びとの価値観も変化。古物商をビジネスとして続けるには難しい時代になってきたとご主人は語る。

明治~昭和期のに実際に生活の中で使われていたと思われる器。大きめの伊万里焼4,000円。小さい皿は500円ほどから。
「居場所を作りたかったんです」とは奥さんの弁。
シニア世代となる今後に向け、夫婦で東京に移住したいという思いが昔からあったという。東京の人は感性を重視し、自身の必要なものや好きなものを選んで生活しているイメージ。新しい店舗のコンセプトも、そんな本当に好きなものを揃えたセレクトショップのような古書店。想定していた客層は、感度が高く時代の思い出を共有できる「大人」。利益を追従するよりも、無駄を削ぎ落としシンプルに気持ちよく過ごしたい。そんな夫妻の第二の人生設計を表現しているようにも思える。

アクセサリー作家・毛馬千智さんによる水晶のペンダントなど。価格帯は2,600円~17,000円。ほか、銅版画作家の井戸明美さんの作品や、深澤香世加さんのポストカード(150円)なども販売している。

店の奥のバスルームにも商品を並べている。店頭の商品はネット通販と同時進行中で入れ替わりが激しい。品物との出会いはまさに一期一会だ。
出店場所にもこだわり抜いた。
「街の喧騒からは少し離れた立地で、雰囲気の好い物件をじっくり探し、デザイナーズマンションの先駆けであるこの建物に入れたことは幸運だった」とご主人。
実際には看板が出せないなどの制約も多いのだが、このマンションも少しずつ人が替わり、かたちを変え残ってきた。日々の移ろいの中で人が集まる場にふさわしいと感じているという。
現在はショップ兼ギャラリーのスペースだが、今後はワークショップやイベントなどの催しも展開していきたいとのことだ。
[取材・文/柳原由加子(編集者、ライター)]
Book Gallery麓覺堂(Rokkakudo/ろっかくどう)
東京都渋谷区渋谷1-3-18 ビラ・モデルナA104
営業時間:12:00~18:00 月曜休(祝日の場合は翌日休)
TEL:090-5362-5595