overlace(オーバーレース)
レポート
2018.03.02
ファッション|FASHION

overlace(オーバーレース)

創業43年の老舗レースアパレル企業とYUKI FUJISAWAのタッグによる新ブランド誕生!
地方のファッション産業の活性化を目指す2代目にインタビュー

老舗アパレル系企業の新たな取り組みに着目するシリーズ。2回目は、2017年10月の東京コレクション中にデビューしたブランド「overlace(オーバーレース)」を取材した。

同ブランドを運営するのは岡山県を拠点とするレースアパレルの老舗「株式会社さえら」だ。いわゆる“マンションメーカー”がいくつも誕生しはじめた1974年に、レディースの下着の企画・製造・販売会社として創業。現在は洋服・ナイトウェア・インテリア商品を展開しており、直営店は全国に28店舗を構えているが、今回、東京を拠点としたテキスタイルレーベル「YUKI FUJISAWA」のデザイナー・藤澤ゆきさんとタッグを組み、まったく新しいブランドをスタートしたのである。

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overlace2018SSシーズンのルックより(写真は株式会社さえら提供)。
「実は、入社してからずっと若い方向けのブランドをやりたいと思っていました。既存のブランドが顧客とともに齢を重ねていましたが、顧客の方々の志向性を考えると、デザインを思い切って新しくすることができない状況にあったんです」。

そう話すのは同社の営業係長であり、創業家の2代目でもある木谷実さん。創業以来43年間一度もセールをしなくてやってこられた老舗の同社。主な顧客は50~60代の富裕層で、商品の価格帯はカットソーで2万〜3万円、ブラウスで3万後半〜6万円台、またテーブルクロスが25万〜35万円と高額だが、商品のほとんどに高級なインポートのレースを使用しており、その縫製技術にも定評があったからといえる。

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写真左が木谷さん、右がoverlaceデザイナーの三沢さん(写真は株式会社さえら提供)。
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さえらの既存ラインのルックブックより(写真は株式会社さえら提供)。
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さえらの既存ラインのルックブックより(写真は株式会社さえら提供)。
一方、「YUKI FUJISAWA(ユキ フジサワ)」は東京を拠点とするテキスタイルレーベル。2013年よりデザイナーの藤澤ゆき氏が活動を開始し、代表作の「NEW VINTAGE」シリーズは、ヴィンテージのニットやバッグ等の素材に染め・箔を手作業で施した一点モノとして販売。そのほか、百貨店や企業へのアートワーク提供なども行ない、Instagramでも人気を集めているが、一点モノであるが故に量産化が難しく、より多くの人々に作品が行き渡りにくいというジレンマも抱えていた。

両者はそれぞれ順調ではあったものの、未来を考えたきに出てくる課題に対して、タッグを組むことで解決しようとチャレンジしたのである。

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overlace2018SSシーズンのルックより(写真は株式会社さえら提供)。
10月の東京ファッションウィークに合わせて開催した展示会には、台風直撃という悪天候にも関わらず、のべ約200人が来場。そのうちの多くが、「YUKI FUJISAWA」のInstagramでの告知を見たのがきっかけで、中には深夜バスで地方から来たという若いお客さんもいたそう。そのほか、ブランドロゴの制作やルック撮影には、藤澤さんのコネクションで著名なクリエイター陣に依頼。彼らもSNSで発信をしたことで、ブランドの認知度がぐっと広がったと話す。

セールス面でも、藤澤さんが卸していたお店を中心に取り扱いが決まったり、10万円を越えるドレスやワンピースの個人オーダーが何点も入ったりと、デビューコレクションは好調なスタートを切った。

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2017年10月22日の展示会。台風直撃にもかかわらず、会場は大盛況だった(写真は株式会社さえら提供)。
ブランド名の「overlace」は“レースの概念を超える(over)とレースを重ねる(over)”に由来しているという。

使用しているレースは、同社の既存のブランドと同じ高級なインポートものを起用。もともと装飾の一部に過ぎないレースをメインにした同社の縫製技術は他に類をみない独自のもので、今回の取組みは、それをさらに超えるという意味で、箔やパール加工などの加工をレース自体に施したのだそうだ。これまで堅牢度の関係でチャレンジをしてこなかったが、表面加工は藤澤さんの得意分野でもあったため、チャレンジすることができたという。

「特に箔を施したレースをブラウスに縫い付けるのは難しいので、テスト縫いに時間をかけてもらっています。「overlace」によってまた新しい技術を取り入れることができて、工場の技術力アップになるように思います。さらに、業界として、岡山県の縫製業全体としてのレベルアップに繋がったら嬉しいですね」(木谷さん)。

服が売れないと言われる昨今では服よりも雑貨小物の方がリスク無くできるが、敢えて前者を選んだのは、同社の強みである高い縫製技術を発信できるという点が大きいからだそうだ。また木谷さんは、「『おしゃれな子がいなくなった』とか『若い人が高い服を買わなくなった』と言われていますけど、『そんなことばっかりでもないだろう!』って思ったんです」と熱く話す。

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overlace2018SSシーズンのルックより(写真は株式会社さえら提供)。
岡山のファッション産業と「さえら」の取り組み

もともと学生服の生産が盛んであった岡山県。1965年以降、純国産のデニムが作られるようになるとともに、生地や付属、洗い加工といった業種が発展していき、デニムの存在が岡山の繊維産業に活性化をもたらしたと言われている。現在もデニム産業を利用した町興しが盛んに行われている。

しかし、特にここ3〜4年は高齢化や業績悪化により、工場の廃業が年間何百件と後を絶たないのも事実。20年程前は生産基盤がしっかりしているということから、東京からデザイナーが移住してくることも珍しくなかったというが、いつしかそういった流れもなくなってしまっていた。そのような状況を踏まえ、同社では若手育成のため来春から研修生を迎え入れ、マッチすれば正社員化するという制度を始動させるそうだ。

高齢化が著しい業界の中で、若手が活性化して自由な社風へと変わっていけば、という木谷さんの願いは、生産背景にもプラスの効果があったという。藤澤さんと組み東京で展示会を行うことでメディアへの掲載が増え、注目度が上がったことで職人さんのモチベーションアップに繋がり、複雑な縫製でも進んで協力をしてくれようになったそうだ。

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さえらのアトリエの風景(写真は株式会社さえら提供)。
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さえらのアトリエの風景(写真は株式会社さえら提供)。
一方、社内でも、ミセスアパレルで働く若手のモチベーションを保つのが難しいという課題があり、先輩社員たちの間にも若手を活躍させられる会社にしたいという気持ちがあったそうだ。そんな環境を変化させる第一歩として「overlace」を立ち上げることができたのは会社としても大きな意味があると木谷さんは話す。

「若手社員のモチベーションが上がり、社内が活性化しましたね。老舗の土台を使って、岡山にいながら東京のクリエイターと仕事ができるというのは一つの憧れだと思います」(木谷さん)。

基本的なチームのコミュニケーションはスカイプで行い、月1回程度は直接顔を合わせ、ミーティングを行っているという。デジタルツールの進化や、データのクラウド化によって遠隔でのやりとりがスムーズになっていることも、取り組みの中では重要なポイントだ。

若い人材、熟練した職人どちらにとっても、気鋭のファッションブランドとの活動は自信に繋がり、良い循環を生み出していると言える。“繊維産地と東京のクリエイターがタッグを組むプロジェクト”はこれまでも幾たびも行われてきているが、継続することで、人材育成という観点でお手本となるモデルケースになるのではないだろうか

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2017年10月の東京コレクション期間中にACROSSのInstagramでスナップさせていただいた三沢さん(左)、藤澤さん(右)。
ちなみに「overlace」は、2月21日〜3月6日の期間、新宿伊勢丹本館2階の「TOKYO解放区」で「透ける。」をテーマに開催中のポップアップにも出展中。2月24日・25日には、お客さんの目の前で職人さんがレースを好きなところに好きなだけカスタムしてくれるイベントを開催した。

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TOKYO解放区で実施されたイベントのようす(写真は株式会社さえら提供)。
今後は、「YUKI FUJISAWA」がこれまでも購入者へ提供してきたお直しサービスを同社の技術・ノウハウを生かして、「overlace」でも対応できる体制を整えていく予定だそうだ。

【取材・文:石川千央+『ACROSS』編集部】


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