さまざまなファッションやカルチャーを国内外、年代関係なく受け入れ、多様に変化していくことが「東京」という都市の面白さだ。セレクトショップがひしめき合い、常に好奇心をくすぐられていたが、いうまでもなく、近年はオンラインが私たちを取り巻くすべての環境を変えてしまった。ただ新しいものを見つけて並べるだけでは、既に常に刺激に麻痺した(わたしたち)消費者を虜にすることは不可能になってしまったのだ。
そんな時代の中、2018年2月、渋谷・神泉にセレクトショップ「R for D」がオープンした。面白いことに、母体はウェブメディアの「DEED FASHION」。ウェブメディアがオンラインショップだけではなく、実店舗もつくってしまったのである。
「経営」の視点からファッションへ
「いつか自分のウェブメディアを立ち上げたいと思ってました。漠然とお店をオープンすることにも興味がありましたが、具体的には“危機感”がお店を立ち上げる刺激になったように思います」と言うのは、オーナーの近藤弘一さん。
「僕がデザイナーズブランドを好きになった00年代以降、マーケットは縮小するばかり。なんとか、もう一度盛り上げるために、彼らの世界観が見せられる“場“を作る機会として今がラストチャンスだと思ったんです」(近藤さん)。
近藤さんは、故郷・愛知県で自営業を営む両親から影響を受け、上京後大学では経営学部で会計を学ぶ。古着屋が盛んな愛知県・大須で服を着ることの楽しみを覚え、強い探究心からデザイナーズブランドへの興味も広がったのだそうだ。デザイナーズブランドに感銘を受けた自身の初期体験は、Yohji Yamamotoのパンツ。友人と物々交換する際にもらった品だというが、履き心地とデザイナーの考え方に感動を覚えたと話す。
その後、経営とファッションへの興味を繋ぐ実践的なツールとして思い付かんだのがウェブ。「アパレルウェブ」に3年間勤め、自らいくつも新企画を立ち上げ、「コレクションレポート」の取材などを通してデザイナーとの関係を育んだ後に、「DEED FASHION」というメディアと、セレクトショップ「R for D」を立ち上げたのである。
「R FOR D = Room For Designer という名前の通り、“デザイナーがその世界観を表現するための空間“を意識しました。主役はデザイナーなのですが、実は、来店してくださるお客様も“デザイナー”だと捉えています。つまり、これだけ世の中に服や情報が溢れる中、“服を選ぶ感覚自体も、何かを表現しているといえるのではないか“と思うんです」(近藤さん)。
来店者は、ファッションに関心のある若い人はもちろんのこと、近隣に住むファッション好き(または関連業界に従事していそう)な40〜50代も少なくなく、センスの良さに加え、服のクオリティに目が肥えている大人の人たちとのコミュニケーションが図れるのは想定外だったという。
ライバルは音楽。ファッションをマスに届けるためには
学生時代は学級委員をつとめていたという生粋のディレクター気質は、これら個性的なブランドをまとめあげる力として発揮されている。一方でまとめるだけではなく、どのようにプラットフォームとしてデザイナーズブランドをマスに伝えられるかが今後の課題にもなってくる。
「マスへの接点がダイレクトに服でいいのか、ストーリーでアプローチすべきなのか悩んでいます。例えば、音楽のライブはその貴重な1回のためにお金を払ってでもみんな行きますよね。けれども、ファッションショーとなると無料で観られるのにも関わらず、人が殺到するほどではない。本来もっとファッションの魅力をマスに伝えらえるはずだと思うんです」。
そんな接点を作ろうと、オープン後も、定期的にポップアップストアや一般向けの受注会、展覧会、トークイベントなどを積極的に行っている。インタビュー中にもBALMUNG(バルムング)、SUÉSADA(スエサダ)、oldhoney(オールドハニー)などによる一般向けの受注会が開催されており、翌週にはウェブメディア「ROBE」キュレーションによるイベントも行われていた。
このように、デザイナーらとともにお店を作っていくという二人三脚の姿勢が基本。デザイナーから気軽に自主的にいろいろな企画が行える自由なしくみにしており、従来の「セレクトショップ」という概念を越えたデザイナーたちの成長の「プラットフォーム」として機能するよう工夫している。
これは当初知らなかったそうだが、後々調べてみると、ロンドンのセレクトショップ「Wolf&Budger」が近いのかもしれないと話す。また昨今の頻繁にモノやコトが流通するスピード感にもフィットするように、カナダ発のシステム「Shopify」を取り入れ、オンラインと実店舗の在庫状況を連動している(日本版は近年ローンチしたばかり!)。
「今後はこのシステムを使って『DEED FASHION』で紹介したブランドコレクションと連携する形でセールスも行なっていきたいですね。出来るだけお客様が『欲しい!』と思ったタイミングでスムーズに買えるシステムを作りたいと思っていす」(近藤さん)。
尊敬しているのは、
「high fashion – DESGINER INTERVIEW」
(文化出版局)
「high fashion – DESGINER INTERVIEW」
(文化出版局)
近藤さんの欠かせないバイブルとしてお店の本棚から取り出してきたのは、2012年に刊行された書籍「high fashion – DESGINER INTERVIEW」だった。ブランドセレクトのポリシーや、書籍にまとめられたそれぞれのデザイナーの個性が伝わるところに感銘を受けたと話す。
「DEED FASHION」でも今後このようなインタビューを行っていきたいと語る一方で、作るなら今の時代を汲み取った形で越えていきたいと話す。とはいえ、昨今、ウェブメディアの傾向として、ニュースまたはニュースリリースのような短い記事風のもの、まとめ記事等を大量に掲載するスタイルが一般化しており、長文のインタビュー記事の読者は一部のコア層に限られているのが現状だ。ターゲットの選定や、読者へのアプローチ方法についてなど、オンラインメディアは、いままた何回めかの転換期に差しかかっているといえそうだ。
「将来的には、“人が溜まれる場所”、“新しいコミュニケーションが生まれる場所”としての空間づくりをしていきたいと思います。例えば、くつろぎながら服を見れるように、真ん中に机と椅子を置いてみたりとか(笑)。今後ブランド数がもっともっと増えてきたら、そうですね。もっと大きな場所へ移転して続けていきたいです。タイにさまざまなブランドや服が一気に見れる巨大ファッションビルがあるらしく、そのくらいの規模で新しいものにもデザイナーにも会えるスペースを作りたいですね」。
理想像に近づくための悩みもありながら、今後もさらにプラットフォームとして積極的に展開していきたいと語る近藤さん。
「ある人が来店してくださった際に、『ここはファッションの希望』とおっしゃってくれて、その言葉を刺激に今後も積極的に新しいことに挑戦したいと思います」(近藤さん)。
[取材/文:Yoshiko Kurata(ファッションライター)]
[取材/文:Yoshiko Kurata(ファッションライター)]
R FOR D
住所:東京都目黒区駒場1−4−5 日興パレス駒場 B1F
住所:東京都目黒区駒場1−4−5 日興パレス駒場 B1F
OPEN:Mon - Sun, 13:00 - 22:00
TEL:03-6407-9320