同店は以下の住所に移転しました。
東京都目黒区中央町1-3-2ダイアン目黒ビル4F
最寄り:東急東横線学芸大駅
詳細はInstagramをご確認ください。
https://www.instagram.com/youarewelcome.tokyo/
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2018年5月、田園都市線池尻大橋駅から徒歩3分の場所にヴィンテージ・インテリアショップ「YOU ARE WELCOME」がオープンした。駅前の商店街を抜けた閑静な一角。古いタイル張りのビルの2階、事務所のようなドアを開けると白い壁に黒字のシンプルな表記。店名と矢印の示す先には一転、とりどりの色の洪水が目に飛び込む。北欧、イタリア、アフリカ、アメリカ、中国……地域も時代もさまざまに集められた品が並ぶ空間は、宝箱のようなワクワク感に満ちている。公式ホームページはなく、インスタグラムでの告知だけが情報の手がかり。一見謎めいているこのショップに潜入してみる。
色とりどりの鉱石や珊瑚も矢口さんの手にかかればキッチュでアーティスティックな表情に。
「基本的に1人でやっています」と言う店主の矢口周太郎さん。GUやRIMOWA、新宿Flagsなどのキャンペーン広告や音楽、雑誌などの撮影現場でプロップスタイリストとして活躍しながら、週4日程度この店を運営している。プロップスタイリストとはそれらの現場で、空間のスタイリングやデザイン~小物制作まで空間装飾の全般を担当する職業のこと。奥様の丸井“Motty”元子さんは、ルミネの広告やSUCHMOSのキャンペーン、木村カエラ、KICK THE CAN CREWのジャケットデザインなど、ファッション、音楽などのカルチャー系の分野で活躍している売れっ子アートディレクター/グラフィックデザイナーだ。矢口さんは元子さんが手掛ける現場を担当することも多く、「YOU ARE WELCOME」は夫婦で経営するデザイン事務所NIIが運営する。
矢口さんがつい好きで集めてしまうという、存在感のあるオブジェのような花器類も見どころだ。現代華道の草月流や、西ドイツ、ベネチア、スカンジナビアなどの花器が一同に並ぶ世界観が斬新。
アパレル出身の矢口さんがヴィンテージの面白さにハマったのは、友人の誘いで中目黒のヴィンテージショップ「ニューテリトリー」の業務を手伝うようになったことから。初めは先輩バイヤーの真似から入り、ロスなどに買い付けに行き多くの品を吟味することで次第に物の価値や面白さを見極める目が培われ、さらに自分自身の好きなものの傾向がはっきりしていった。最初はアルバイト、最終的にはフリーのヴィンテージ専門バイヤーとして10年近くニューテリトリーに関わりながら、やがて自分の店を持ちたいと思うようになったところに、知人でもあり中目黒で業界人が集うバー「ナカメネオン」を運営するネオン企画から声がかかり、同社が入居するスペースの一角を事務所/店舗としてシェアすることに。池尻大橋に馴染みのない人が多いかもしれないが、実は中目黒から徒歩圏内、渋谷、三軒茶屋にも近く、アクセス面は便利な立地だ。
左奥にあるのはアフリカ・クバ王国のヤシの繊維で織られた草ビロード。刺繍による幾何学模様がプリミティブな印象を増している。
時代もジャンルもさまざまなアイテムが並んでいるのに不思議と統一感がある店内。いわゆるヴィンテージショップとは異なる、ポップでシュールな感覚が新しい。
「幾何学的なシュッとした造形が好きです」と、さらりと語る矢口さんには品揃えやカテゴリについてのこだわりは特にないという。コンセプトは「自分が好きなもの」。彼の視点で集められたものたちは、ロシアンアヴァンギャルド、ポストモダン、ミッドセンチュリーなどの“シュッとしたデザイン”に混じって、アメリカのE.T.のおもちゃがあれば、アフリカン工芸などのプリミティブアートやオリエンタルな調度品、鉱石や、現代華道の花器などが並び実にさまざま。性格を異にするもの同士のマッチングの妙が楽しく、新鮮な驚きがある。時代やカテゴリに縛られない独創的なディスプレイもおもしろく、そんなミクスチュア感を大事にしたいと矢口さん。実はセレクトショップ等へのヴィンテージ商品の卸しも手掛けている。
アクセサリーは3,000円前後~。ランプは2~5万円程度、家具など高いもので10~15万円ほどというラインナップ。
建築家・磯崎新のシルクスクリーンの横にはハンガリーのデザイナー/マシュー マテゴのラックとアフリカの仮面という組み合わせ。
客層は、雑誌等のメディアや舞台、広告関係の美術さんなどのプロフェッショナルが多く、それには矢口さんや元子さん周辺のコミュニティのつながりが大きいという。ニューテリトリーがそうであったように、「YOU ARE WELCOME」では撮影小物のリース需要をふまえたセレクトもしていたりと、クリエイターたちの創作活動に寄与する、東京らしさの色濃い店といえるだろう。とはいえ一般客の来店も少なくなく、インスタを見て20代の若い女性も訪れる。価格はランプや小物などが1万円台後半~、高額なもので10~15万円程度だが、手頃な価格帯のアクセサリーは3,000~4,000円台からあり、花瓶、オブジェなど、ギフトにも喜ばれそうな品が人気だ。「近所にあまり同業の店がないエリアという点も、わざわざ来る楽しみがあるのでは」と矢口さんはいう。
ネット通販はしていない。「ネットで何でも買える時代だからこそ、ここにしかないものを見に来てほしい」という思いからだ。
「面白いものを見つけて、人に見せるのがとにかく楽しくって」と矢口さん。お客さんとの楽しみの共有、共感を大切にしたい、と静かな面持ちで希望を語る姿が印象的だ。友人に考えてもらった「YOU ARE WELCOME」という店名も、奇をてらわず誰もが知っている言葉をリクエストして決めた。偏らず、ニュートラルな姿勢が表れているようだ。
隙間にはこんなチャーミングなおもちゃや雑貨、色とりどりの鉱石やガラス細工などなど、発見する喜びがある。
雑居ビルの2階「オフィスネオン」と書かれたガラス扉を開けると「YOU ARE WELCOM」の文字が迎えてくれる。
矢口さんのショップ構想は、いわゆるアンティークショップとは一線を画す。実は売りたくないもの、単に好きで集めているものがあったり、古いものばかりや売れ筋ばかりでもない店は「プロップスタイリスト視点によるヴィンテージ・インテリアショップ」といった呼び方がしっくりくる。プロの視点で撮影ニ-ズも想定しながら、しなやかな感性で一品一品と向き合い、そんな出会いから新しい発想やライフスタイルへの提案が生まれる。それが「YOU ARE WELCOME」の魅力といえるだろう。今後はランプやテーブルなどオリジナルプロダクトを作り、ネットショップや卸しでの販売も考えているようだ。単に過去を振り返るのではなく、“未来を見据えるヴィンテージショップ”として可能性を広げている。
【取材・文/柳原由加子+『ACROSS』編集】
「自分主体で表現ができるお店の仕事をメインにしていきたい」という、オーナーの矢口周太郎さん(33歳)。