イコール(=)フェスティバル in 中崎町 2018
レポート
2019.01.31
カルチャー|CULTURE

イコール(=)フェスティバル in 中崎町 2018

大都市梅田の裏で、共存しながら成長していく町、中崎町


2021年春、大丸心斎橋店の北館に心斎橋パルコがオープンする。パルコとして大阪への出店は2011年に心斎橋パルコの営業が終了してから10年ぶりとなる。『ACROSS』編集部では“街はメディアだ”という考えのもと、今現在の大阪・ミナミを理解するために心斎橋店準備室と共にフィールドリサーチを実施している。そのなかで目にしたのは目覚ましい勢いで開発が進む大阪の巨大都市、梅田だ。超大規模開発の真っ最中である梅田の未来感のある様子を「オモテ」とするならば、その「ウラ」とも言えるエリアに中崎町、中津、豊崎がある。近年若い人たちを中心に盛り上がりを見せるエリアだが、なかでもいちばん賑わっている中崎町で
イコールフェスティバルというイベントが開催されるというので取材した。

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20代の若いカップルを中心に古着や雑貨、飲食店を回る人達の姿が見られた。
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参加店舗を中心に、町内では「イコールフェスティバル」のポスターが貼られていた。

今年で2回目となる「イコール(=)フェスティバル in 中崎町」は10月24日〜11月4日の12日間に渡って開催された。“さまざまな感性や価値、モノがイコール(=)になる、アート・ファッション・フードのお祭り(公式ホームページより)”というコンセプトのもと、専門店約80店舗が参加し、10数店舗でアート作品の展示などが行われた。

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関西大学梅田キャンパス1階に併設されている「TSUTAYA BOOK STORE 梅田MeRISE」には増田セバスチャンが学生と共に制作したキノコのオブジェが。
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ミヤケノリコ展「Relax」@アトリエ三月。鮮やかな色彩や踏み心地の面白いオブジェに囲まれた空間で、ミヤケさん御自身が来場者にマッサージをする。

主催は株式会社ワンオー内のイコールフェスティバル実行委員会。同社は2017年末、中崎町にセレクトショップ「
NAKAZAKI O HEIGHTS」をオープンしている。
今回のイベントでは、各ショップにてワークショップや限定メニューなどが用意され、「NAKAZAKI O HEIGHTS」は初日の5時間限定で古着屋に姿を変え、「VINTAGE DELIVERY SERVICE」を開催。モデルやユーチューバーとして活躍する4人のバイヤー(あさぎーにょ、KINOKO、相羽瑠奈、MASAKI)が買い付けた古着約300点が用意され、集まった府内外からのファンにより整理券150枚は一瞬にして配布終了となった。

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NAKAZAKI O HEIGHTS外観。日本家屋をリノベーションし、3階のフリースペースを含む3フロア構成になっている。
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1階にはディレクター大坪洋介氏のクローゼットをイメージした国内外のアイテム、ヴィンテージなどが並ぶ。
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2階ではディレクター神谷温子氏セレクトの国内のジュエリーを販売している。

「メーンイベントを打ち上げて集客するよりも、9日間ずっと店に足を運んでもらえるように、店を主役にした内容に変えました」(株式会社ワンオー代表取締役・松井智則氏)。

実は今回2回目の開催となった同イベント。2017年10〜11月の初開催時は、初日に中崎町ホールにて『Meets Regional』編集長の竹村匡己さんや大宮エリーさんなどのトークイベント、お笑い芸人“たいぞう”さんやアーティスト“buggy”さんのライブペインティングなど終日イベントが開催され、1,000人強が集まったそうだ。

今回は、そういった一カ所での大型イベントの開催はせず、トークイベントや企画展などは、それぞれの参加店舗を会場に開催され、来場者が自然といろんなお店に足を運べるような仕組みとなっていた。実際に、SNSを見てそれぞれが興味のあるイベントをめがけて訪れ、当然ながら土日を中心にいつもよりも多くの人で路地は賑わっていた。

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天人BAR朱夏では「Indeed gallery in 中崎町」として、Indeedと関西で活躍するアーティストとがコラボレーションした「はたらく」をテーマにした作品が展示されていた。
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写真は松林真幸さんの作品(天人BAR朱夏にて)。

「均一化された街が増えている日本で、大都市梅田の近くにこんな古くて新しいと感じる街並みに魅力を感じました。大阪・梅田から徒歩圏内にありながらも、戦前の街並みが残る中崎町の活性化を目指し、PR会社ワンオーが企画する。最近は昭和レトロな街の魅力に引かれた個性派ショップやクリエーターが集まるようになったことを受け、さまざまな感性や価値、モノがイコール(=)になる祭りとして始まりました」(株式会社ワンオー代表取締役・松井智則氏)。

戦火を逃れ昭和の街並が残る中崎町で新しいカルチャーを発信していこうという動きは、90年代頃から少しずつ始まっていた。同じく梅田まで徒歩圏内で、古い建物の残る町が豊崎、中津だ。

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阪急「中津駅」から徒歩数分に位置する「中津商店街」。昭和から続く老舗の店舗が多く並ぶ他、若いオーナーが経営するギャラリーや飲食店も混在している。

中崎町の北側に位置する豊崎エリアには、国の登録有形文化財にも登録されている「吉田家住宅」があり、その更に北側には2027年に竣工予定の“うめきた2期”開発により梅田と繋がる中津エリアがある。いずれも古い建物が残る「レトロ」な町だ。両エリアも梅田の開発が進むにつれて若いオーナーがオープンさせた店などが増え、注目されつつある。特に豊崎は近年の梅田・中崎町エリアの拡大により新しい店が増えており、今後注目したい新しいエリアだ。しかし中崎町と同時期に同様の動きがあったと思われる中津は、なぜ中崎町に遅れをとってしまったのだろうか?逆に、中崎町がここまで急成長を見せた背景には何があるのだろうか

その急成長の鍵となった人物の一人に、今回は話を聞いた。
2001年、パフォーマーのJUNさんは、中崎町で1880年代に建てられた長屋にて、空き家再生パフォーマンスを行った。JUNさん自らが、長屋を修復し、リノベーションしていく様子を撮影し続けるといったものだ。

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前日はイコールフェスティバル期間内のイベントとして、音楽家とのパフォーマンスを行っていたJUNさん。

当時はまだ昔からの住民が多く残っており、現在のような店舗は数える程、空き家も多くあった。梅田から目と鼻の先という立地と貴重な古い建物の並ぶ街並に魅力を感じた若いオーナー達が少しずつ空き家に移り住み始めた頃だった。後の2004年に閉校となる「済美小学校」の児童数は激減しており、住民の高齢化も進み、治安の悪さを懸念されるエリアでもあった。

来た時は空き家だらけ。住民は80〜90代のおじいさん達と、新しく来た20〜30代の若者達で、その間の世代はいなかった。当時は不動産仲介などもなく、直接借りて、1階で店舗をやって2階が住居という昔ながらのやり方でしたね。今は空き家は無い、むしろ空くのを待っている人達がいるくらいです。1階と2階で別の店舗が入っている、というのも当たり前になっています」(JUNさん)。

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細い道に住宅と店舗が密集している。空き家や空き地は見当たらない。

空き家再生パフォーマンスを実施した2ヶ月間は、地元住民との濃い日々があったという。地元住民が覗きに来て、左官作業のやり方を教えてくれたり、気になって様子を何度も見に来る人もいた。

「確かに同時期に、中津や谷六(谷町六丁目)でも、同じように空き家再生の動きはありました。その中で中崎町がここまで変わることができたのは、建物を作って終わりにせず、地元の人との関係を作り上げ、また観光地として生き残っていけるような仕組みを作ったからだと思っています」(JUNさん)。

JUNさんはパフォーマーとして国内外で活動している。その中には治安的に容易に足を踏み入れることの難しい場所などもあった。そのような土地に住む人達に対し特別に大きな支援をするわけではないが、そうして自ら足を運ぶことで喜ばれ、JUNさんを通して大阪、日本のことを知り、そして結果的に中崎町の発展にも繋がったそうだ。

こちらから出向くと、向こうも訪れてくれる。私はパフォーマーなので、その場でパフォーマーをするのが仕事。それを続けていくうちに、今では海外から中崎町に来る人も増えました。ヨーロッパからのお客さんも多いですし、その前は韓国が多かった。2017年にはニューヨークタイムズにも掲載されました」(JUNさん)。

2017年の11月26日、米紙ニューヨーク・タイムズは大阪の観光スポットを紹介する記事を掲載しており、堀江や道頓堀、スパワールド、国立文楽劇場などと一緒に中崎町についての記載もある。

“あまり知られていない大阪の一側面、中崎町のことも知ってください。細い小道と木の家屋が並ぶ、第二次世界大戦の戦火を逃れた珍しい町です。(中略)最近では創造的な地元の人々が長い間放置されていた建物を独創的な空間に変貌させています”(ニューヨーク・タイムズより)

その例として、アーティストが運営するカフェでありコミュニティスペースでもある
Salon de AManTo天人(サロン・ド・アマント)が紹介されている。このカフェが、JUNさんが2001年に空き家再生パフォーマンスを行い、その後営業を続けている場所だ。

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「Salon de AManTo天人」入口。入ると広々とした空間に驚く。
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おばあちゃんの家に遊びに行ったような懐かしさと親しみやすさのある店内には外国人観光客も多かった。

私は地元の人達とコミュニケーションを取り、話し合って理解を深めてはきましたが、共同体のようなものは作らないようにしていました。そういったコミュニティを作ると、反対する人が出てきたり、対立が生まれてしまう。あくまでフラットな関係にしたかった今回のイコールフェスティバルも、そうですよね。舵を取ってくれているのは実行委員会ですが、あくまで対お店、対住民とのフラットな関係、話し合いで成り立っている。こういった動きはとても有り難いです」(JUNさん)。

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「container」店内、レジ前にはワッペンやバッジ、ステッカーなど思わず集めたくなるような商品がびっしり並んでいた。

中崎町には「Salon de AManTo天人」のように10〜20年以上店を構えるところも多く、その1つが
古着屋「container」だ。90年代から営業を続けるこちらの店は質の良くデザインの面白い古着だけでなく、ワッペンやスニーカー、インテリアなど、決して広くない店舗にぎっしりと詰まったバラエティに富む品揃えが人気だそう。気さくで個性的なオーナーとの会話を楽しみながら掘り出し物を見つける、中崎町に初めて訪れた人にもおすすめしたい店の1つだ。そんなオーナーとの会話でも出てきたのは、近年の周辺へのマンション建設だ。

前述の済美小学校は、2004年に閉校後、地元の夏祭りなどの会場としても使われ地域のコミュニティースペースとして活用されていたが、2010年に解体、その跡地にマンションが建設された(2009年には遺跡が発掘されるという驚きのニュースもあった)。

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右が済美小学校跡地に建設されたマンション。写真奥にも近年建てられたと思われるマンションが見える(2018年8月撮影)。

済美小学校にまだ児童がいた頃から中崎町を見守ってきたJUNさんは、マンション建設の裏にある事情をこう語った。

「私が来た時にはすでに住民の高齢化は進んでいましたが、20年近く経って、ご高齢の方々が1人で古い家を管理するのはとても難しくなってきた。そして現状、中崎町の空き物件を狙う経営者、不動産業者がたくさんいます。つまり、高齢になった住民はマンションに移動してもらい、その空き家が欲しい。実際に少しずつ、移動が始まっていますよ」(JUNさん)。

済美小学校は1930年竣工、重厚で美しい外観とその長い歴史から、廃校後も地元住民にとって大切な場所だった。売却が決まるまで地元民の反対は多く、マンションとなってしまった今も惜しむ声は絶えない。しかし敷地の一部には地元民のそんな思いが残された場所がある。地域住民が運営する公共施設で、多目的ホール(中崎町ホール)が併設された済美福祉センターだ。

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済美小学校跡地。右手丸い看板に「中崎町ホール」の記載がある。

施設が建っているあの場所は、実は済美小学校の催事などが行われる講堂でした。地元住民にとって特別だったあの場所を使うことを提案してくれたのは、昔から住んでいたおじいちゃん達だったんですよ」(JUNさん)。

空き家が多く、人の流れもまばらだった町も、今や20代の若者で賑わう1つの商業エリアとなった。大阪らしい個性的な店舗だけではなく、近年では東京と変わらないような最新トレンドの商品を扱う店も増えている。それでもどこか懐かしさと親しみやすさ、ゆったりとした時の流れを感じるのは、そんな町の魅力に惹かれてやってきた当時の新しい世代が、先の住民に敬意を払い、町を大事にしてきたからではないだろうか。そしてそれぞれが協力し合うというよりは、「お隣さん」のような感覚でフラットな関係性を保ち、共存しているのだ。「イコールフェスティバル」は、そういった新しい世代による感性をいかし、「イコール(=)になる」イベントだ

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“うめきた2期”開発地。高層ビルに囲まれた広い土地は中津エリアにまで及ぶ。

2018年11月に2025年の大阪万博の開催が決まり、“うめきた2期”開発は2027年に竣工予定。万博開催による経済波及効果は試算値で約2兆円、想定来場者数は約2,800万人とされている。これからの10年、大阪はこれまで以上に世界から注目され、そして大きく変わる。その中で中崎町は、梅田の恩恵を受けながらも、独立した存在として町を守っていく必要がある。今後10年はメディアへの露出も更に増え、自然と来街者は増加していくだろう。だが、更に先の10年を見据えて、それぞれの店舗が長く続けることを考えていかなければならない。
そのためには自店の顧客を大事にし、「お隣さん」を紹介し足を運んでもらうようにする。これからやってくる新しい世代も含め、競合するのではなく共存するための地道な作業を長く続けていくことが町を守ることに繋がる。そうすることで、これまでのように行政からの支援を受けずとも、中崎町の個性を保ち、更に時代と共に成長していくことができるのではないか。

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古い家屋が並ぶ細い路地。

「イコールフェスティバル」の本当の活動はまだ始まったばかりだ。感性を、価値を、歴史やアートを、町の人達とそこにあるモノとで「イコール(=)」にしていくお祭りは、新しい世代にそのメッセージを伝えるための1つの手段のように感じる。そしてそれは大都市・梅田と中崎町が競合せず統合もせず、共存していけることに対する願いが込められているのかもしれない。

【取材・文:堀坂有紀(『ACROSS』編集部)】

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「イコールフェスティバル」内のイベントとして「coffee shop WARARA」にて開催されたカメラマン高橋正男さんの展示。長年に渡りストリートファッション誌の制作に携わってきた高橋さんが「カジカジ」で90年代から撮影し続けてきた大阪のストリートスナップが展示された。
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取材時、偶然来店されていた高橋さんにお会いすることができた。「90年代は色もサイズも面白かった。その後の2000年代はノームコアの流れで大人しくなってしまったけど、最近はまた90年代リバイバルもあり、面白くなってきている」と、若者のファッションの変化をお話してくださった。
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スナップはアメ村や堀江など、主に「ミナミ」エリア周辺が多いが、その中に中崎町で撮影された写真も。「イコールフェスティバル」初日のイベントとして来場者のスナップを撮影し、どんどん足していくという企画によって展示されたものだそう。「中崎町で撮影したスナップは、昔のものだとほとんどなくて数枚くらいだった。こんなに若い人達が増えたのは最近のことですよね」と高橋さん。


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