「ビビを見た!」の舞台衣装に注目!
BLESS(ブレス)のパタンナーも手がけつつ、 自身のブランドも等身大で展開中。
知る人ぞ知る「テリアカ」は、2014年に濱田がLCF(ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション)在学中に立ち上げ、卒業後ベルリンに移住して育ててきた小さなブランドである。
濱田は年に1度帰国して東京と関西で展示会を開く。原型を使わない、幾何学的な造形に特徴のあるユニークで躍動感あるデザインは、SNSなどで少しずつ知れ渡り、2018年夏には、島根県立石見美術館で、個展とワークショップが開催された。
その島根県益田市での展覧会を見ていたのが、KAAT神奈川芸術劇場のプロデューサーの小沼知子である。美術館と同じ施設内のいわみ芸術劇場での、キッズプログラム「不思議の国のアリス」の巡回公演に随行して、たまたま目にしたテリアカの展示に新鮮な驚きを感じた小沼は、記憶を大事に持ち帰った。そして翌年のKAAT神奈川芸術劇場のプロデュース公演「ビビを見た!」が決まると、早速、濱田明日香の起用を提案し、濱田の招聘と滞在制作を決めたのだった。
このプロデューサーの大胆な行動力が吉と出るか、凶と出るかは、まだわからないけれど、これまで舞台衣装など手がけたことのない濱田明日香にとっても新しい挑戦であることは間違いない。彼女の口から、このチャレンジを語ってもらうことにしよう。
きっかけは、石見美術館とKIITO神戸で開催された
「THERIACA 服のかたち/体のかたち」展。
——「ビビを見た!」の衣装デザインの話が来たとき、何を考えましたか?
ポイントはパーツ。 役柄の記号になるよう、サイズ感や素材などを考えてデザインしました。
——それもよかったですね。でも、実際の衣装はこのフライヤーで俳優たちが着用しているものとは全く違うのでしょうか。
「着る」っていう行為が、
服の、ファッションの面白いポイントだと思います。
——ライティングもフランス人のヨアン・ティヴォリ(Yoann Tivoli)さんが来日して担当するそうですね。
濱田:ライティングは、専門外なのですが、ここに視察に来た時に、ちょうどある舞台の初日があって、見せてもらいました。ライティングで空間を区切るというのが、舞台ならではだなあ、と思いました。一方、その時に、「ビビを見た!」を上演する劇場にも連れて行ってもらって、石見美術館で展示した作品を何点かもってきて、置いてみたり、着てもらったりしたんですが、ああ、衣装ってすっごいちっちゃいなあ、と思いましたね。舞台の空間に対してね。舞台美術も入ってくるから衣装だけで持たせる必要はないんだろうけど、想像つかないなあと思ったら、その日見せてもらった公演で、照明で空間を区切っていくことがわかり、衣装だけでなんとかしなくてはいけないわけではないとわかったり。
色も見え方も変わるし、空間も変わるし、ライティングはちょっと未知ですね。ヨアン・ティヴォリさんのサイトを見たら、すごいおもしろい実験的な舞台をやっている人でした。
——そして舞台美術はベテランの杉山至さんですね。
濱田:すごく柔軟な方です。こうじゃなくちゃダメ、というのがなくて、これならこうしたら、とアイディアがどんどん出てくるんです。最初、空間は具体的で、部屋のシーンからスタートするのですが、「部屋」という感じのスケッチだったのが、どんどん抽象的に変わってきて、それも勉強になりましたね、おもしろいなあ、と。
舞台の人たちはやっぱり動きを中心に考えるのが新鮮でした。自分と違った点というか。例えば、人は何か、抗えないもの、敵みたいなのが来た時に、右往左往するんだけど、じゃあ、本当にパニックになった時に、人は右往左往するのか、みたいな問いを立てて考えていくんです。
すごく重い服にして、その重みを引きずりながら芝居をするという意見も出ました。
——そういうリクエストは制作のプロセスで出てきたのですか?
濱田:最初は全くストーリーも無視して、私の展覧会図録とかを見ながら、私と一緒にできること、みたいな形でアイディアを出したりしました。ストーリーとか、キャラクターとか、動きとかが出てくると、実現できないことが見えてきますよね。でも、最初のブレストみたいな段階では、こういう服もありなんじゃないか、と話の中で出てきたりしました。
——演劇の人たちは、ふだんはあんまりファッションデザインの現場とは接点がないかもしれません。既製服から探したり、衣装デザイナーが作ることもありますが、今回のようにファッションデザナーと一緒に作り上げていくようなケースは、珍しいと思います。
濱田:そうですね。私が作るのはザ・衣装ではないので、テストピースをラックにかけた状態で説明をしていく段階ではピンと来ていない感じもありましたが、実際に役者さんが身につけてみると、可愛かったりして、着てみての可愛さというものを、そこで感じてにらえたびでは、と思います。
——そういう反応はうれしいですね。服にはそういうところがありますよね。着てみて初めて見えることは必ずありますね。
濱田:そうですね。着るっていう行為は、服のおもしろいポイントですよね。この前、服作りのワークショップをやった時も、あとで子どもたちと一緒にショーをやったんですが、子どもたちはもう脱がないんですよ。脱がないで走り回って。ああ、服ってただの布じゃないんだ!と思いました。
大海赫(おおうみ・あかし)さんのシュールな世界観が、
松井さんの演出でとってもアーティスティックな仕上がりに。
——でも、今回の経験は、思ったよりも大変だったのでは?
絵本と聞いた時は、子どもシアターみたいになるのかなと思っていたんですけど、全然違いました。とてもアーティスティックで、贅沢な作り方だなと思って見ています。ミーティングでも、アイディアが出るたびに、感心しながら聞いています。
兵庫県生まれ。京都市立芸術大学テキスタイル科卒業。アパレル企業勤務を経て、イギリスのロンドン・カレッジ・オブ・ファッション(LCF)に留学。在学中に個人ブランド<テリアカ(THERIACA)>を立ち上げ、原型に頼らない独自のパターンメーキングの実験を始める。卒業後は日本に戻らず、ドイツ・ベルリンに移住。BLESS(ブレス)、ANNTIAN(アンティアン)などのコンセプチュアルな作風のブランドで働きつつ、個人の制作活動を続け、年に1度は帰国して展示会を開催、少しずつファンを増やす。並行して、自主企画の手芸図書もすでに4冊刊行。長崎県美術館でのワークショップ(2017)、島根県立石見美術館での「服のかたち/体のかたち」(2018)、同展の神戸市KIITOへの巡回展(2019)などの他、2019年、KAAT神奈川県立芸術劇場の松井周演出の「ビビを見た!」で初めての舞台衣装を手がける。
松井:今回は世界が、僕の世界というよりは、絵本の異次元の世界なので、そこに、僕もゼロから挑むし、濱田さんもゼロからそこに飛び込む、という形で挑戦してくれるというのがおもしろいんじゃないかなと思います。彼女の作っているものは、なんか直感で、この世界と合うんじゃないかと思ったんですよね。これは直感としか言いようがないんですけど。
例えば、展覧会で見せた服の発想源にしても、ゴミ袋だったり、テーブルクロスだったり、ものと人が関わるような感じで作るという。その感覚。人にフォーカスするだけじゃなくて、人も、そこにあるものも、何かくっつく。くっついてたまたま服になっている。たまたまテーブルクロスだったり。その何か、偶然結びついているかのような、そういう自由さというか、人にフォーカスあんまりしていない感じというのかな。
僕も演劇作るときに、あんまり人間を描きたい、みたいに思ってなくて、なんか、人間と、ものと、風景を等価として作りたい、みたいなところがちょっとある。そういう意味でも、人間の人間味をちょっと消してみたいという感じはちょっとあるかも。
僕は幸せですね。こういう出会いというのはなかなかないし。あそうか、こういう可能性もあるのか、という。いいものって、俳優を乗せてくれるというか、それが僕はうれしいんです。
俳優が濱田さんのつくった衣装を身にまとって楽しいと言ってるんです。ラベルをつけて、そう見えているんでしょ、というんじゃなくて、俳優が動いて、着て楽しいという状況は、結局、作品を強化すると僕は思っている。濱田さんの世界観の素晴らしさだけでなく、それを身につけた俳優の喜びも、多分考えてくださっている。演劇の衣装とかも、これからもどんどんやってほしいなと思います。
KAAT神奈川芸術劇場 プロデュース