世田谷区・豪徳寺が、いま“いい感じ”【前編】
レポート
2019.09.11
カルチャー|CULTURE

世田谷区・豪徳寺が、いま“いい感じ”【前編】

松陰神社に続き、個性溢れるショップが続々オープン
“いい感じ”の豪徳寺をフィールドワークしてみた

豪徳寺が「いい感じ」である
 
世田谷区豪徳寺エリアは、小田急線の豪徳寺駅と東急世田谷線の山下駅が交差する場所だ。この1-2年、駅の南北に延びる商店街(南側は「豪徳寺商店街」、北側は「山下商店街」)を中心に、20~30代の比較的若いオーナーたちのフレッシュなお店が集まってきており、「いい感じ」の飲食店やショップが次々オープン。豪徳寺がおもしろいという声をしばしば耳にするようになった。

なぜいま、豪徳寺が盛り上がってきているのか? という素朴な疑問から、今回実際にまち歩きをし、考現学的にまとめてみることにした。

豪徳寺駅を降りて南側の商店街をのぼり、世田谷線の隣駅、宮の坂駅を越えると名刹、豪徳寺がある。すこし足を伸ばせばすぐとなりの上町駅で、そこからまた松陰神社にも歩けるという距離感ゆえ、散歩がてらこの一帯を歩いている人たちも見かける。お寺の豪徳寺は“招き猫発祥の地”としても有名で、海外のメディアでも観光スポットとして紹介されるなど、最近はアジア系を中心に頻繁に外国人観光客の姿も目につくようになった。
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小田急線・豪徳寺駅の高架下を世田谷線が走る。踏切の左手すぐが世田谷線山下駅
この数年で豪徳寺エリアにオープンしたお店をいくつかあげてみよう。
バレアリック飲食店(食堂)、まほろ堂(和菓子)、IRONCOFFE(コーヒースタンド)、AKEMI CAKE LABO(ケーキ・焼き菓子)、シュエット・トレファクチュール・ラボラトワール(コーヒーショップ・ロースター)、旬世(八百屋)、FIKAFABRIKEN(スウェーデン菓子、カフェ)、九百屋旬世(八百屋、フルーツスタンド)、SLAVE OF PLANTS(多肉植物、2019年2月に取材済)、ketoku(レストラン・ワインバー)、Gould(古着)、洋食ボンバー(食堂)、Teatro Acca(イタリアン)、うつわのわ田(和食器)、HANAZUKAN生花販売)、スワロウデイル・アンティークス(アンティーク・リペア)、niente と tokyobike(自転車・雑貨)、そして行列ができる人気店uneclef(パン屋カフェ)の姉妹店としてetroit(雑貨)が今年4月、SAKATAYA1793(和菓子販売)が5月にオープン。(*これ以外にオープンしたお店もある⇒Googleマップ参照)。ここ最近は若手の飲食をはじめ、古着屋や、植物、器、雑貨、自転車など、ファッション~ライフスタイル系の地元民以外も集客する多様な業態が増えていて、それが「いい感じ」の雰囲気を醸し出しているようだ。
 

★豪徳寺 Googleマップ-2019 by『ACROSS』

豪徳寺Googleマップはこちら↓
https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1AnOfp6tarIVMCT0Dx76iO15lfqRUvEbR&hl=ja&usp=sharing

大きなまちから少し離れた、ローカルタウン

   急行が止まらず、三軒茶屋や下北沢といった大きな街から少し外れているという条件は、家賃のリーズナブルさ、思い切ったことができる可能性にもなっている。

数字をすこし見てみると、豪徳寺駅の1日の乗降客数は2017年の数字で27,258人。近隣の駅と比べると、急行の止まる経堂(77,959人)、大学のある梅ヶ丘(32,921人)、そして下北沢(115,658人)と比べて少ない(参照:小田急グループ/鉄道部門:「1日平均駅別乗降人員」)。家賃の相場は9.19万円。経堂(9.47万円)、梅ヶ丘(9.91万円)、千歳船橋(9.72万円)、世田谷代田(10.26万円)よりも安めとなっている(参照:キャッシュバック賃貸HP)。
 
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「豪徳寺は昔から知り合いが多く住んでいてよく来ていたこともあって、もともと好きなまち。大手チェーン店が少なく、個人店が多いので、店を出すには理想的だなと思っていて。性格的に誰も出してないような場所に店を出したかったというのもあります」というのは2018年11月にオープンした古着屋「Gould(グールド)」の井上拓也さん。

下北沢の老舗「hickory(ヒッコリー)」で長年働いていた井上さんが、流行に左右されずオリジナリティにこだわってセレクトした古着が並ぶ、雑誌『POPEYE』などにも取り上げられる話題の店だ。これまでファッション要素が皆無だった豪徳寺に登場した同店のインパクトは大きい。ちなみにGouldはピアニストのグレン・グールドから命名された店名である。
 
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山下商店街から少し梅ヶ丘方面にはずれた場所にある「グールド」。インスタグラム等のSNSを通じてファッション好きの感度の高い層を集客している
同じく2018年11月にオープンした「ketoku(ケトク)」の松岡さんも、
「豪徳寺は商店街の規模もちょうどよかった。ずっと三茶でやっていたので、それよりスロウというか展開が早くないイメージ。それにここは商店街から少しハズれていることもあって家賃も安かったんです」という。

松岡さんは、三軒茶屋のビストロ、「uguisu(ウグイス)」で10年ほど働いてからの独立。和洋折衷こだわらず日替わりの料理や自然派ワイン、日本酒まで幅広く提供する居酒屋スタイルの店。松岡さんは、プライベートを充実させたいという想いをもって独立したので、沿線の自宅との距離の近さもこの場所に決めたポイントだったという。

『ユヌクレ』があることにも可能性を感じていましたが、もしかしたら商売にはちょっと向かないかもしれないなとも思ってました。都心だけど、ぽかっと空いてる感じもあって。例えば自然派ワインなんかの認識にしても、三茶と比べると多少なりとも文化的なズレみたいなものはあるのかなと。だからあえてイチから始めることを楽しんでもらえるかなと狙った部分はあります」(松岡さん)。
 
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自然派ワインも楽しめる居酒屋「ケトク」。オーナーシェフの松岡さんがひとりで切り盛りしていて、メニューは日替わり。ボリュームたっぷりのメインディッシュも
 「グールド」も「ケトク」も、比較的古めで安めの物件をリノベーションして個性を出しているが、豪徳寺はそうした物件がまだまだ残っており、個性的な狭小物件も活用されている。以前紹介した植物店「SLAVE OF PLANTS(スレイブオブプランツ)」も、雑居ビル奥の2畳程度の小さいスペースであった。この物件はもともと腕時計の修理と販売をする「L o'clock(エルオクロック)」が入居していた(現在は北側の商店街のもう少し広めの場所に移転)。
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塊根植物を中心とした珍しい多肉植物を扱う「SLAVE OF PLANTS(スレイブオブプランツ)」店主の池上大祐さん

ゆったりした緑道と、商店街と、2本の線路がクロスオーバーするまち

 豪徳寺の重要な地形は、山下駅の脇から伸びている緑道である。目黒川の支流である北沢川の上流で、今は暗渠になっているがもともとは川が流れていた。車も自転車も通らないこの緑道は、散歩やランニング、親子連れがよく利用する経路になっていて、豪徳寺のゆったりとした雰囲気の軸になっている。

この緑道の起点に、1995年開業の「PICON BER(ピコンバー)」がある。豪徳寺の「いい感じ」の歴史の1つはここからはじまったといっていい。昼から夜まで開いていて、お酒が飲めて食事もお茶もできる。外のテーブル席も気持ちのいいバーレストラン。近所の猫たちが集まる場所でもあり、猫好きが店の前の路地を通っては店主の宮武一昌さんと情報交換をしていたりする。
 
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1995年オープン、地元の常連に愛され続ける「ピコンバー」。まるでパリのカフェのようなたたずまい
 「はじめた時は、商店街のお店以外だと、ソーセージ屋さんの『冨永オリジナル デリカテッセン』、あとは駅の近くにあったイタリアンの『フィレンツェ』くらいしかなかったかな。豪徳寺のお客さんは、お金の使い方がわかってる、しっかりした人が多い。だから商売はやりにくいといえばやりにくいところはある」(ピコンバー宮武さん)。
 
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老舗の「冨永オリジナル デリカテッセン」はドイツハムとソーセージを主体とするデリカテッセン。昭和35年創業の富永精肉店の2代目が1995年より今の業態に
 「ピコンバー」があるのは山下駅に隣接する小さな細い路地の商店街だ。豪徳寺に2店ある新刊書店のうちのひとつ(ちなみに古本屋はブックオフも含めて3軒!)、渋い帽子屋、大きな金魚の水槽が子どもたちに人気の電気屋さん、200円の醤油ラーメンを出していた中華料理店(惜しまれつつ閉店)、豪徳寺エリアで一番の古株である果物屋さんなど、平成、もとい令和とは思えないレトロな趣のあるお店が並んでいるこのエリア。

「昔はスナックが並んでたし、舗装もされてなかった」(ピコンバー宮武さん)この一角、おそらく元々はスナックであろう3畳ほどの細長い物件に、カレー&カフェ「WOHOS MART(オホズマート)」が9月13日オープンするとの情報も(ここには最近までバインミー屋『FANSIPAN(ファンシパン)』が入居していたが惜しくも閉店)。

そしてこの緑道をずっと歩いていくと、大人気のパン屋「uneclef(ユヌクレ)」2012年に取材済)にたどり着く。


【取材・文:高田健+『ACROSS』編集部・中矢あゆみ】
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※~世田谷区・豪徳寺が、いま“いい感じ”【後編】に続く

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