※~世田谷区・豪徳寺が、いま“いい感じ”【前編】はこちら~
豪徳寺の代名詞ともいえる、「ユヌクレ」の存在
豪徳寺の近年の盛り上がりの1つのきっかけは「ユヌクレ」の存在である、という話は取材中も多くの人から聞いた。スウェーデン菓子と喫茶を提供する「FIKAFABRIKEN(フィカファブリーケン)」のオーナー関口愛さん(28歳)も、もともと学生時代から「ユヌクレ」の大ファンで、足しげく豪徳寺に通っていたという。
なお、「フィカファブリーケン」は2017年7月に開業し、手前の店舗が空いたのをきっかけに2019年2月に路面店として増床・リニューアルオープンをしている。
「フィカファブリーケン」の前でお話を伺った2人組の女性も「松陰神社の『メルシーベイク』に行った帰りに、乗り換えの豪徳寺で気になっていた『グールド』や、『ユヌクレ』『フィカファブリーケン』に寄りました。小田急沿線に住んでいますが、豪徳寺で降りたのは初めて」と世田谷線沿線での散策を楽しんでいた。「ユヌクレ」の”パン&スイーツ詣で”のために、豪徳寺にはじめて来る人も多い(ちなみに世田谷線の3駅隣りの松陰神社前の近年の盛り上がりも、人気のパン屋、「ブーランジェリースドウ」やケーキショップ「メルシーベイク)」が1つのきっかけになっていたようだ)。「ユヌクレ」で豪徳寺に来た人が他の店も覗いていく、という動線ができつつあるが、そこにはオーナーたちの横の繋がりが生まれていることも大きい。「ユヌクレ」の佐藤さん曰く、
「『フィカファブリーケン』の(関口)愛さんのように、もともとお客さんだったというつながりもありますし、『トーキョーバイク』さんはお店の物件を探しているときからパンを買いに来てくれて、挨拶するように。自分が食事に行く店もありますし、共通の知人がいたりとか…気付いたら繋がっていった感じはありますね」(ユヌクレ佐藤さん)。
ゆるい繋がりが育む、お店とお店のエコシステム
「ユヌクレ」以降に開店したお店のオーナーたちの間にも、そうした地域におけるゆるい繋がりがあるようだ。オーストラリア発で東京・清澄白河に焙煎所がある「シングルオー」の豆を使い、内装設計は「無相創(ぶあいそう)」が担当した、「ビルズ」出身のオーナーによるコーヒースタンド「IRONCOFFEE(アイアンコーヒー)」の磯野雄貴さんのお話。
「20-30代のお客さんが中心ですが、上は90歳を越えているおじいさんまでいらっしゃいます。(地域の繋がりとしては)『グールド』さんに来て、そこで教えてもらってウチに寄った方とか、その逆もありますし、『ユヌクレ』さん帰りのお客さんももちろんいらっしゃいますね。僕もお客さんに聞かれたら、豪徳寺のいいお店を教えたりして、お互いにそういう横のつながりみたいなものがある気がします。このまち全体がそうなっていったらいいですよね」(「アイアンコーヒー」磯野さん)。
「ウチに来て下さる方は豪徳寺に来るのははじめて、という口コミやインスタで知ってくれたお客さんも多いです。せっかくだから楽しんでもらいたいですし、『ユヌクレ』さん、『スレイブオブプランツ』さん、あとは和菓子の『まほろ堂』さんなんかをお知らせしたりしています。『アイアンコーヒー』で聞いてウチに来てくれる人も多くて、まちのコーヒースタンドとしてはお客さんとちゃんとコミュニケーションを取っていて、理想的だなと思います」(「グールド」井上さん)。
「お店をハシゴしてもらって他の店と共存していける雰囲気ができれば。エリアとしておもしろくなっていくといいなと思っています」(「ケトク」松村さん)。
2018年以降のオープンラッシュ
GoogleMapのリスト( 豪徳寺Googleマップ-2019 by『ACROSS』)やこれまでの記述からも分かるように、豪徳寺の“いい感じ”を決定づけたのは2018年以降に登場した、こだわりが詰まった個人オーナーによるショップの存在である。ここでいくつかそれらのショップを紹介しよう。
2019年3月にオープンしたのは、日用雑貨やアートのセレクト/オリジナルプロダクトを扱う「niente(ニエンテ)」と東京発の自転車ブランド、トーキョーバイクを扱うギャラリー併設のショップ「niente と tokyobike(ニエンテ ト トーキョーバイク)」。長くトーキョーバイクに勤めた見城ダビデさんが独立した店だ。これまで縁がなかった豪徳寺に出店した理由はというと、直感的にまちの雰囲気を気に入ったから。
2019年3月にオープンしたのは、日用雑貨やアートのセレクト/オリジナルプロダクトを扱う「niente(ニエンテ)」と東京発の自転車ブランド、トーキョーバイクを扱うギャラリー併設のショップ「niente と tokyobike(ニエンテ ト トーキョーバイク)」。長くトーキョーバイクに勤めた見城ダビデさんが独立した店だ。これまで縁がなかった豪徳寺に出店した理由はというと、直感的にまちの雰囲気を気に入ったから。
「のんびりしていて、いいまちだなと。『ユヌクレ』さんをはじめとする美味しい飲食店もあって、日々の生活を楽しもうとしている人たちが住んでいる想像ができました。松陰神社や近くに公園もあって、自転車散策には楽しいエリアだし、世田谷線と小田急線の2つが通っている強みはもちろん、同世代でおもしろいことをやってる人が多い印象もありました。それにトーキョーバイクのディーラーが少なくぽっかり空いた地域だったというのもありますね」(見城さん)。
2018年4月には商店街から1本入った新築物件に、やちむんや琉球ガラス、小石原焼、益子焼などを扱う和食器専門店「うつわのわ田」と、生花販売店「HANAZUKAN(ハナズカン)」が2軒並んでオープンしている。どちらも女性店主が1人で切り盛りする店だ。
2018年4月には商店街から1本入った新築物件に、やちむんや琉球ガラス、小石原焼、益子焼などを扱う和食器専門店「うつわのわ田」と、生花販売店「HANAZUKAN(ハナズカン)」が2軒並んでオープンしている。どちらも女性店主が1人で切り盛りする店だ。
「数年前から松陰神社前で物件を探していたんですが、なかなか空きがなく家賃も高くって(笑)。もともと世田谷線沿線に住んでいたので、ちょっと範囲を広げて探してみたところ、この物件に出合いました。最初は不安もありましたが、小田急線があって広範囲から集客できるもの大きいし、最近あっという間に新しい店が増えて、今は新旧混在してる感じがちょうどいいですね。住民にはファッション関係とか美容師さんとかおしゃれな人もとても多いんですが、何より豪徳寺は“等身大”の感じがいい」というのは、「うつわのわ田」の店主、和田明子さん。大手アパレルに勤めていたが、和食器に惚れ込み独立。自身で各地を巡り、現在は約25の窯元から日常に寄りそう器をセレクトして販売する。
隣の「HANAZUKAN」は、スタイリッシュな内装が目を惹く、少しめずらしい花やグリーンを豊富に扱う生花店。
「お客様は若いカップルや年配の方まで、ニーズも幅広いですね。あまり花屋に足を運ばない人にも興味を持ってもらえるような店づくりを心掛けています」(店主・福原千夏さん)
さらに、今年4月には「ユヌクレ」がすぐそばの立地に姉妹店となる雑貨店「etroit(エトルワ)」をオープンし、話題になった。こちらは週4日(月・木・金・日)のみの営業で、小さな店舗ながら、雑貨やコーヒー、作家ものの器、調味料など、選りすぐりのアイテムが揃う。
センスとお客さんをシェアして成り立つ小さな新しい商圏
そもそも豪徳寺のような小さなまちにこだわりの個人店が増えているのには、SNS時代により立地を問わず集客ができるという時代背景もあるだろう。初めて来街する人にとってもスマホさえあればその場で情報収集ができ、散策も気軽だ。
今の豪徳寺は、それぞれの個別の動きが点で繋がり始めたという段階。昔ながらの商店街の繋がりのように、同じ土地に住む地域共同体の繋がりではない、偶然同じ地域で店を出している人たちが、センスとお客さんをシェアして成り立っている小さな新しい商圏。古くは川だった遊歩道という地形や寺町の歴史、立地に対しての家賃の値ごろ感や古い物件が残っていること、沿線の松陰神社や上町、下高井戸の盛り上がり…などを条件に、いくつかの偶然が重なって、お店のいい繋がりが醸成されて共存できる、よい生態系のようなまち。豪徳寺の「いい感じ」のヒミツはそういったところから見えてくるのかもしれない。
5月に開店した新潟の和菓子専門店「御菓子司 酒田屋」が次世代の和菓子を提案するショップ「SAKATAYA1793(さかたやイチナナキュウサン)」や、豪徳寺で2店舗運営している八百屋「旬世」がカフェをオープン予定との情報もあり、まだまだ進化中の豪徳寺。東京のローカルタウンとしてこれからどのようにまちが熟成していくのか、注目していきたい。