実は世界中のファブ施設が、同時多発的に
3Dプリンターを用いてフェイスシールドを作成していた!
世界各国の大学の研究室や企業のプロジェクトチームなど、
小規模なコミュニティによるアクションであることがポイント!
「ファブラボ平塚」を運営する神奈川大学の道用大介准教授によるプロジェクト「簡易フェイスシールドA-MASK」は、オープンソースとして提供されたデザインをもとに、愛知県の中小企業が1週間ほどで金型に起こし,量産体制に入った事例として有名だ。興味深いのは、使用された材料が、回収されたペットボトルキャップが使われていることや、慶應義塾大学SFCが中心になって立ち上げた「Fab Safe Hub(https://fabsafehub.org)」 が提供するガイドラインに基づいて、製作・出荷工程が組まれていた点だ。
他にも、「ファブラボ品川」のホームページがまとめた「オープンソース3Dモデルまとめ
Open Source Designs for COVID-19」と題した特設ページには、フェイスシールドだけでなく、グローバルなネットワークでシェアされ始めている COVID-19 対策に役立ちそうなオープンソースの3Dモデルが丁寧にまとめられている。
そこには、英国ケンブリッジ大学建築学科クイーンズランド大学土木工学科の有志によるものや、フランスのミリタリー用品サプライヤーであるPHOENIX EQUIPEMENT社によるもの、スウェーデンのアディティブマニュファクチャリングソリューションを提供する企業,3DVERKSTAN社のもの、ポーランドの3Dプリンタメーカー Zortax社のものなど、その担い手は、世界各国の大学の研究室や企業のプロジェクトチームなど、比較的小規模なコミュニティによるイノベーションが同時多発的に生まれている点がとても興味深い。
国内に目を向けると、すでに日常生活で使用するためのマスクがそうであるように、医療用フェイスシールドをめぐる動きも、もっと小さい規模の仲間や個人の動きへと広がっている。杉並区のあるコミュニティが始めた「アマピエフェイスシールド」という活動もそのひとつ。
「きっかけは、息子の友だちのお母さんが働く病院に発熱外来が設置されたのですが、物資不足でかなり困っているという話を聞いたことからです」と話すのは、同プロジェクトの広報を担当している小堀玲奈さん。小野晶子さんが発起人となり近隣のママ友と動き出した。集まった有志それぞれのスキルを生かして、設計図を引き、自費でラミネーターを買い、フェイスシールドを作ろうということになったのだという。
ロールモデルになったのはNYU(ニューヨーク州立大学)のオープンソース・フェイスシールドのプロジェクト(https://open-face-website.now.sh/)」だそう。型紙を起こし、サンプルを作成。使えるかどうか病院に確認したところOKが出たので、友人家族に声をかけるとあっという間にその輪は10組の家族に広がったそうだ。それぞれの家族が手作りし、30枚、100枚、とどんどん病院に納品され、現場で感謝されている。
「政府の動きが悪く、経済もストップしつつある中で、サードコミュニティでクィックに必要なところにサポートしていくことが必要だと考えて動き始めました。まずは500枚を目標にしていて、ゆくゆくはもっと量産できたら」(小堀さん)と取材時には話していたが、4月30日現在、すでに1,000枚以上病院に納品済みだというからすごいスピードだ。。
プロジェクトの名称は、江戸時代に熊本での疫病を鎮めた「アマビエ」という妖怪から。そのあたりの経緯については、小野さんが勤務する独立行政法人労働政策研究・研修機構のホームページに緊急コラムとして「新型コロナウィルス感染症対策〜簡易型フェイスシールドの設計図の公開と作り方」と題して紹介されている。
また、作り方に関しては、note(https://note.com/amabiefaceshield/n/nf886967623ec)で丁寧に解説されているので、必要な方はぜひ作ってみてはどうだろう。
COVID-19対策で実装し始めた、さまざまな生産者・メーカーたち。
ポイントは、オープンソース。
このような小さな動きに対して、1日200個、300個という数ではとうてい間に合わないのでは、と否定的なことを言う人もいるかもしれない。前出の田中先生も、オンライン・トークイベントで「3Dプリンターによるものづくりは、量的・コスト的には金型を作って工場で生産するのにはかなわないんですよね」とコメントしていた。
そんななか、栃木県にあるガンダムのプラモデルなどを製造しているシーズという企業もフェイスシールドの生産を開始。月末には月6万セットの量産体制を目指すというニュースが流れてきた。他にもトヨタ自動車が月4万個だった生産体制を月7万個に増やすとか、ペットボトルなどを製造する会社や、ベビーカーなどを製造する企業など、量産化の動きも盛んになっている。
しかし、注目しておきたいのは、このフェイスシールドの生産をめぐる一連の動きは、従来の「生産者・メーカー」起点によるものではなく、消費者を超えた「ネットワーク関係」によるものである点だ。従来のマーケティング・産業分野のマージナル化であり、ものづくりの民主化、言い換えると、“ファブ社会”が実装し始めたといえそうだ。
ちなみに、先のオンライン・トークイベントは『ファブラボのすべて イノベーションが生まれる場所』の刊行を記念して企画されたもので、第2部では、「ACROSS」編集部も2017年から3年間参加した、同大学研究所が主催するプロジェクト「ファブ地球社会コンソーシアム」でもお世話になった水野大二郎さん(当時は慶應義塾大学の准教授で現在京都工芸繊維大KYOTO Design Labの特任教授)が登壇。「ファッション領域でのサーキュラーデザイン実現を目指して」と題したプレゼンテーションが披露された。
このファッション業界に置ける“SDGs”やサスティナビリティというテーマとCOVID-19については、また後日取材・記事としてアップデートしたい。
[文責:高野公三子(本誌編集長)]