心斎橋PARCOのグランドオープンから約1ヶ月が経った。1991年から20年間営業し、2011年に惜しまれつつ閉店した心斎橋PARCOが、約9年ぶりに心斎橋に戻ってきたかたちだ。新たな出店地は大丸心斎橋店北館跡。19年9月に大丸心斎橋店が建て替えオープンしたのに伴い閉館した北館を全面リノベーションし、11月20日に開業した。パルコとしては全国で18店舗、19年にオープンした渋谷PARCO、名古屋PARCOと並ぶ基幹店の位置付けだ。地下2階〜地上14階の16フロアに、ファッションから飲食まで170店舗が出店する。
大学でファッションを学ぶ男子大学生はプレオープン初日に訪れ、開店前から胸を高鳴らせていた。
「昔の心斎橋PARCOは知らないけど、渋谷PARCOはおしゃれなイメージがあります。ニュースを見て心斎橋PARCOもそんな店なのかなと。ギャルソンやサカイが好きなので、普段は阪急メンズ館や路面店で買っているけど、これからはココも利用しようと思ってます」。
“アーケードのへそ”として地域とともに成長する施設
旧心斎橋PARCOは、現在H&M心斎橋店が入る心斎橋ゼロゲートにあった。11年の閉店前は1〜6階までロフトが入っていたせいか、ファッションビルとしてのパルコのイメージは希薄になっていた。かつて通っていたパルコ世代のなかにも、閉店すら知らなかったという人もいるのではないだろうか。
2017年には滋賀の大津PARCOが閉店。関西にはパルコを知らない世代が増え、同時に、心斎橋は訪日外国人が闊歩する街へと変貌してしまった。
そんななか復活を遂げた「新生心斎橋PARCO」には、心斎橋の新たなランドマークとしての期待が高まっている。コロナ禍でインバウンド消費が消滅し、街から賑わいが失くなった心斎橋に再び、人を呼び戻したい。地元商業者の共通した思いが、心斎橋PARCOの開業を後押しし、当初予定より早いオープンとなった。
パルコ業態の空白地区である心斎橋への出店は、J.フロントリテイリンググループが進めるアーバンドミナント戦略においても重点エリアと位置付けられている。オープンにあたってJ.FRの好本達也社長は「持続的成長のためには地域とともに成長していくことが不可欠」といい、パルコの牧山浩三社長も「大阪人が好きなアーケードのへそとして、地元と連携しながら進化していきたい」と、地域とのつながりの重要性を強調した。
「デジタル時代にリアル店舗の心斎橋パルコにあえて行きたいと思ってもらえる要素をいかに作れるかがポイント。関西ではここにしかないアートとバーチャルを含めた情報提供が心斎橋PARCOの役割」と牧山社長は話す。
ファッションはラグジュアリーからストリートまで。大阪カルチャーの発信も
渋谷PARCOでは、エッジの効いたファッションフロアが印象的だが、心斎橋PARCOではラグジュアリーからモード、ストリート、セレクトまで幅広く展開。高感度ファッションを前面に打ち出しつつ、手頃で着こなしやすいブランドもミックスしたコンパクトな売り場となっている。ファッション好きの男女からOLキャリアまで対応したバランスのいいラインナップだ。
ラグジュアリーモードを集積する1階には、「メゾン マルジェラ」の旗艦店をはじめ、関西初出店の「グラウンドY」「ポーター エクスチェンジ」、心斎橋初の「サカイ」、メンズ、ウィメンズ複合の「バオ バオ イッセイ ミヤケ」などが軒を連ねる。
ラグジュアリー・ジャパンモードを集積する2階には「カラー」「ファセッタズム」が関西初出店したほか、「エンポリオ アルマーニ」はカフェ業態の2号店を併設。渋谷PARCOで話題となった新形態のスタジオ「2G」も2号店を出店した。店名にパルコを作った増田通二氏へのリスペクトを込めた2Gは、ベアブリックで有名な「メディコム・トイ」とアートギャラリーの「ナンヅカ」、ファッションキュレーターの小木ポギー基史が協業し、物販とアートの提案を行う。12月6日までは、伝説的アーティスト、空山基氏の作品「セクシーロボット」を展示。空山氏が製作したベアブリックはオープン早々に完売した。
2Gの隣りで和室のようなぜいたくな内装がひときわ目を引くのが、大阪・中崎町を拠点にビンテージとモードのセレクショップを展開する「ゴッファ」の新業態「Q」。「ここでしか買えないこだわりの服を大人の男性に提案したい」という、西原正博代表のファッションへの思いが凝縮した店だ。
約20㎡の店内は、テーラーを主体にビンテージとインポートブランドのセレクトなどで構成。ビスポークテーラーの「サルトリア・ラファニエロ」やビスポークシャツメーカー「レスレストン」、伊ビスポークシューメーカー「マリーニ」に依頼した同店限定の既製品が注目を集める。神戸北野のビンテージ眼鏡専門店「スピークイージー」もショップインショップで出店。著名ブランドが居並ぶフロアのなか、西原代表は「密度と濃さを提供していきたい」(西原氏)と意気込む。
東京発ファッションやカルチャーだけでなく、「Q」のような関西初のブランドや企業、クリエーターが各フロアを盛り上げているのも心斎橋PARCOの特徴といえるだろう。
サブカルオタクが注目するアート展とジャパンポップカルチャー
館内随所に配置されたパブリックアートや渋谷PARCOなどで人気を集めたアート展に触れられるのも、アート好きにはうれしいところ。14階の多目的スペースとホールは、渋谷発の演劇や映画、音楽、アート、カルチャーなどパルコの文化的情報の西の発信拠点と位置付けられる。オープニングイベントとして、渋谷の現代アートギャラリー「ナンヅカ」のキュレーションによるグループ展「JP POP UNDERGROUND」と「MR.BRAINWASH EXHIBITION “LIFE IS BEAUTIFUL”」を開催。12日〜27日は、渋谷PARCOで好評を博した展覧会「 SCHOOL OF WACK」が開催される。
さらに、12階吹き抜けの「滝の広場」には、先ほど触れた空山基氏の「セクシーロボット」の展示や、14階と地下1階の吹き抜けには渋谷パルコでも人気のあるARを活用したバーチャルインスタレーションアートの展示も。最新のテクノロジーによるアートを体験できるのも、デジタルに取り組むパルコならではの楽しみ方だ。
アニメファンはもちろん、小さな子供のいるファミリーには必見のフロアが、ゲームやアニメコンテンツを集積した6階「ポップカルチャーシンサイバシ」。「ゴジラ・ストア オオサカ」や「カプコン ストア オオサカ」「刀剣乱舞万屋本舗」など関西初登場が5店舗もあり、まさにジャパンポップカルチャーの西日本の拠点といえる。当初はインバウンド集客の目玉でもあったが、大丸心斎橋店本館9階「ジャパンポップカルチャー」との連動で、今後は国内アニメファンの取り込みが期待できそう。
大丸心斎橋店との連動により、テナント構成も渋谷パルコとは異なる。ファッション物販の比率を抑えた分、大型インテリアや日用雑貨などステイホームに対応したフロアを拡充。渋谷PARCOにはない新たなサービス機能も加わった。
共創空間めざすパルコ初のワーキングスペース「スキーマ」も登場
スキーマを開発した同社ワーキングスペース事業部の松井睦部長は「商業施設の中なのでノイズは多いですが、いろんなインスピレーションが生まれたり、アート空間で美意識が磨かれたりします。ギャラリーで展示会やポップアップショップを開いて情報発信でき、専門SNSでつながると仲間に相談できたり、助言を得られたりする。好きな仲間が集まることでおもしろい化学反応が起きることを期待しています」と話す。
ショップオーナーらの個人的なコレクションを展示する「コレクションブース」は、感性が刺激されるユニークな取り組みだ。
大阪では、梅田を中心とするキタエリアと、難波を中心とするミナミエリアで地域間競争を繰り広げてきた。2000年代以降、「うめきた」を中心とする大型再開発で活気づくキタに対して、ミナミは大阪文化の発信地としてインバウンドの恩恵を受けてきたが、コロナ禍で先の見えない状況はぬぐえない。まさに逆境下でオープンした心斎橋パルコだが、そのチャレンジングな取り組みが街や人を元気にする原動力になることを願っている。
【取材・文=流通ライター/橋長初代】