定点観測
report : 2021 |
09 / 11
#486 | 実施日 : 2021 / 09 / 11 | 最高気温 : 29.1 | 最低気温 : 22.7 | 天候 : 曇時々雨
季節の変わり目にクリーンでモードなシャツスタイルが台頭
2021年9月11日(土)に実施した「486回定点観測」の考察レポートです。
デザインバリエーションが広がったシャツが牽引する、
遊び心と機能性の新しいバランス。
(左から)ハーフパンツを白シャツとブーツ、小物使いで大人っぽく上品に着こなした2人組。右の女性のシャツは2枚を重ね着したような凝ったデザインがゴージャスな印象(新宿)/ロンドンを拠点とするフォトグラファーCiesayが手掛けるアパレルプロジェクト「PLACES+FACES」のバッグ。同プロジェクトは昨年2020年に「G-SHOCK」とのコラボモデルも発表している(新宿)。
既に11月の「定点観測」も終了し、インタビューも公開した後ではありますが、改めて「9月」のストリートファッションを振り返ってみたいと思います。
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毎月第1土曜日に実施することをルールとしている「定点観測」ですが、9月4日はあいにくの雨混じりの天候となり、第2土曜日の11日の実施となりました。
思えば、8月末より急に気候が下がり、このまま秋になるのでは、とも思われたなか、実査当日は最高気温29.1度、最低気も22.7度と暖かさが戻った1日となった。そんな季節の変わりめのストリートファッションも曖昧。流行が停滞したかのようなモタモタしたムードが漂っていました。
そんななか、2週間続けてプレサーベイを行なった結果、「男性/女性シャツ」というスタイルをメインのトレンド軸に、「男性ミニバッグ」、「ラグジュアリーブランドのレタードアイテム」の3つをテーマに観察することにしました。
●カウントアイテム: 男女シャツ
●ズームアップアイテム①: 男性ミニバッグ
●ズームアップアイテム②: ラグジュアリーブランドのレタードアイテム
直接渋谷、原宿、新宿地点の8月のストリートファッションのローデータをご覧になりたい方はこちらからどうぞ。
*2021年8月の定点観測・トップページはこちら:
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(左から)シャツやブラウスのデザイントレンドは、肩周りから背中へと移行。紐で結ぶようなディテールも一部見られた (原宿)/女性には薄手でとろみのある素材感のシャツも人気。グリーンのパンツもまだまだ少なくない(原宿)/サファリシャツのデザインがベースのシャツジャケットも人気。アウトドアやミリタリーウエアに多いマチ付きのポケットなど、ユーティリティをキーワードにしたスタイルが増えている(渋谷)。
カウントアイテム:
実は、8月に「シャツ羽織り」というテーマで注目したのですが、9月もその流行は継続。女性には、バルーンスリーブや深いスリットがサイドや背面に入ったもの、リボンが多用されているものなど、色や素材はシンプルでもデザインに特徴のあるものがずいぶん着用されていることが確認されました。
また、前を開けて羽織るスタイルも増加。よく見ると、ビスチェやショート丈の「へそ出し」スタイルなど肌を露出するアイテムも人気で、セクシーというよりはLAっぽいヘルシーな印象を受けます。なかにはシャツを斜めに羽織り、袖を前で結ぶスタイルも散見されました。以前インタビューしたZ世代の若者は「ダンスする時に邪魔にならないので」と斜めがけに着用する理由を話してくれました。
一方、男性には、1、2年ほど前からロング丈アウターの大流行に隠れて注目されていた前身頃にポケットが2つ付いたサファリシャツが流行中。シャツジャケットとして今秋のメインのトレンドとなっていました。メンズっぽいスタイルを好む女性にもシャツジャケットにデニムというスタイルは人気になっていました。
ポイントは、シャツのデザインのバリエーションが広がったことでしょう。前を留めてシャツのデザインを生かして着こなしたり、アウターのように羽織ったり。裾をボトムスにインしたり、長い丈の場合は下にパンツを重ねるなど、自分でいろいろ調整可能という点も好まれている要因といえそうです。
旧来のファッションのシステムが提案しているグローバルなトレンドでは、テーラードジャケットが今年のヒットアイテムといわれていましたが、日常生活における着心地(=ストレスレス)が無視できないのが、ストリートのリアルなトレンド。昨年はフーディでしたが、今秋はきちんと感のある、シンプルながらもちょっとデザインが入った、クリーンなシャツへと変化したようでした。
*渋谷、原宿、新宿各地点の「男性/女性シャツ」は、こちらからどうぞ。(↓)
*なお、「定点観測」では、過去41年分の全アイテム一覧をこちらからご覧になれます。
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(左から)白Tシャツに斜めがけバッグがポイントになっていた2人組。手荷物は最低限で、ペットボトルはポケットへ。サコッシュではなくレザー風のミニポーチをしている男性も珍しくなくなった(新宿)/リアルレザーやヴィーガンレザーの巾着型バッグも人気。フィッシュネットにフレアパンツは90sのソフトパンクを彷彿させる(渋谷)/そのままポケットに入るくらい小さな、手のひらサイズの巾着。ちなみにEssentials (エッセンシャルズ) のTシャツは大人気で、この日の新宿地点でも多く目にした(新宿)。
ズームアップアイテム①:男性ミニバッグ
遊び心と機能性のバランスがポイント。
1つめのズームアップアイテムはこちら。対象は男女です。
対象は男性です。思えば、今から3〜4年ほど前、フランスのブランド<JACQUEMUS(ジャックムス)>の直径10センチもないようなコインパース(?)というようなマイクロバッグがヒットしたのが最初でしょうか。電子マネーの急速な普及と比例するように、どんどん財布の小型化が進んだ時期です。さらにスマホケース=お財布=バッグという流れになる一方、ペンダントのようなアクセサリーはどんどん大きくなっていき、とうとう、デザインはバッグなのですがほとんど何も入らない「アクセサリーバッグ」が人気になりました。
興味深いのは、その後、遊び心と機能性のバランスが取れたちょうどいい小さなバッグが男性にも浸透。<Jil Sander(ジルサンダー)>のシンプルなタングルショルダーをはじめ、<Hender Scheme(エンダースキーマ)>や<Building Block(ビルディングブロック)>など、ブランドのミニバッグやスマホショルダーなど、シグニチャーモデルが支持されている。
定点観測を振り返ると、ミニバッグ、マイクロバッグの流行は、80年代に大きなバッグを一緒に持つスタイルとして流行。「バッグの2個持ち」として取り上げましたが、当時は女性がメインでした。その後90年代半ばの野外フェスが大流行した時に、首から下げられる財布が大人気となり、00年代以降はアウトドアの必須アイテムともいえる軽くて便利なサコッシュへと進化していきました。
そんな身体的な感覚としてのミニバッグの浸透を経て、今回は首や肩から下げるだけでなく、ベルトループに直接カラビナで吊るしたり、ベルトからぶら下げるなど、新しいバッグ=ウォレット、ケースが大ヒット。小さいものはパーツとして元々持っていたバッグに取り付けるなど、アクセサリー感覚で自由にアジャストできるのも人気の理由のひとつといえそうだ。
*各地点の「ミニバッグ」はこちら(↓)からどうぞ。
https://www.web-across.com/observe/p7l756000005ym40.html
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(写真左から順に)ここ数年のレトロ/ヴィンテージブームでセリーヌのマカダム柄(ブラゾン柄)。一見すると似ているが、こちらはエディ・スリマンが2019年に発表したトリオンフ柄。その上からロゴをプリントしたシリーズが大ヒットしている(原宿)/バーバリーのロゴTシャツは、ボディ全体に渡ってロゴがあしらわれたストリート感のある一品。サンダルはGUCCIで、80sを彷彿させるSEGAフォントのロゴがポイント(新宿)/最初ニュースを知ったときには驚いたAPCとsacaiのコラボレーションのTシャツ。そういうデザイナーたちの遊び心が反映されるのもTシャツというメディアの特徴。そういえば、facetasmとwrittenafterwardsのコラボというのも過去にありました(渋谷)
ズームアップ・アイテム②:ラグジュアリーブランドのレタードアイテム
シンプルで分かりやすい「ザ・ブランド」の流行。
2つ目のズームアップアイテムはこちら。
地方店から東京店に異動になった弊社の若手スタッフが今気になるアイテムとしてあげてくれたのが、「男性のパールネックレス」と「ジルサンダーなどのロゴがあしらわれたTシャツ」でした。今回はその後者のブランド名がわかりやすく描かれた服やバッグについて注目することにしました。
もっとも目立ったのは、先にあげた<ジルサンダー>と<BALENCIAGA(バレンシアガ)>、そして、<CELINE(セリーヌ)>。白や黒いTシャツにブランド名がプリントされたシンプルなデザインのものを、黒いボトムスやブルーデニムで合わせるというある意味バージョンアップしたノームコアのようなスタイルに加え、80年代の<カルバンクライン>や<ポロラルフローレン>のロゴがあしらわれた古着のTシャツなども散見された。
また、シンプルなブランドTシャツにはパロディMDもつきもの。<バレンシアガ>かと思ってよく見たら、<バレへんがな>?! これは、うさぎのカメラマンという設定のブランド<FR2>によるもので、そういえば「Smoking Kills」なども人気でした。
*各地点の「ラグジュアリーブランドのレタードアイテム」はこちら(↓)
https://www.web-across.com/observe/p7l756000005ymbq.html
[文責:高野公三子(本誌編集長)]